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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
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67.仮面舞踏会2

 先程まで鼻息を荒くしていたジョージという男は、なぜか今全裸で土下座をしていた。

 後ろではその男の仲間であった女たちが、抱き合いながら震えている。

 仁王立ちをしているアルは、言った。


「ダメだな~。ケンカを売るなら相手を見て売らなきゃ。」


 話は少し時間を遡る。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「さあ、兄ちゃんたち、財布を出すんだな。」


 ジョージと呼ばれたその男は、怪しく光るサバイバルナイフをアルたち二人の方へ向けてそう言った。

 先ほどまでアルたちと仲良く酒を交わしていた二人の女は、ジョージの後ろでこちらを見ながらニヤニヤと笑っている。

 ハメられたのだ。仮面舞踏会という祭りのため、一般市民も上等な服で着飾っている事が多い。そこでアルたちの先ほどの店での金払いの良さを見て、実際に金を持っている事を確認した上で、ここに連れて来られたのだ。

 ジョージだけでなく、建物の中から仲間たちがゾロゾロと出てくる。いずれもボロを着ているが腕っぷしには自信のありそうな男たちばかりだ。


「ヤアヤア君たち!ちょっと冷静になろう。もしそのナイフを引き下げて俺たちを逃がしてくれたら、ここであったことは誰にも話さない。どうだ?」


「何言ってんだよ兄ちゃん。俺は至って冷静だよ。怪我せず帰りたかったら、有り金全部と、その立派なお召し物を全て脱いで置いて行きな。仮面だけはつけたままでいいぜ!ヘヘヘ!それがこの街のルールだからな。」


 続いてジョージの仲間たちの、「ウヒャヒャヒャヒャ!」という下品な笑いが鳴り響く。どうやら穏便に済ませてもらうことは出来なさそうだ。


「だから言ったんですよ。そろそろ切り上げましょうって。」


「なんだよロイ!全部俺のせいにするのか?」


「おいおい、仲間割れは見苦しいぜ!」


 言い合いを始めたアルとロイを、ジョージがなだめる。

 そう言われ、アルとロイは目を合わせると、思わず吹き出してしまう。


「その通りだな。悪かった。全部俺が悪かった。だから俺が責任を取るよ。ロイは下がってろ。」


「おいおい、俺はおまえたち二人に言っているんだぜ。有り金と身に着けているもの全部置いて行けってな!」


 ジョージはそう言って、また一歩二人に歩み寄る。


「はぁ~あ、見逃すチャンスはあげたんだけどね。」


 アルがそう呟くと、ジョージは目の前に何かキラキラと光るものが見えた気がした。次の瞬間、ジョージの衣服が切り刻まれて飛び散り、眼前に突き付けられた細剣レイピアが視界に飛び込んで来た。


「男を脱がすのは、趣味じゃないんだけどな。怪我をさせたくないんだ。こんな夜中に医者が忙しくなると、かわいそうだからね。」


 穏やかな口調で細剣レイピアを突き付けるアルだが、その視線は殺気に満ちていた。

 ジョージには、アルの剣筋が全く見えなかった。それだけ実力差があることは、鈍いジョージにも瞬時に理解できた。そしてアルの目を見れば分かった。これは、人を殺すのに躊躇しない人間の目だと。今命が危険にさらされているのはこの二人ではなく、自分たちの方なのだ。


「わ…悪かった。許してくれ…ください…。」


 ジョージは自慢のサバイバルナイフを手放し、両手を上げ降参のポーズを取る。


「おいおい、それが謝る時の姿勢か?図が高いんじゃないの?」


 そう脅され、すぐに両膝を付き、頭を下げるジョージ。先ほどまでの威勢はもはや欠片もない。


「すいませんでした…。許してください…。」


 その声は恐怖に震えていた。


「ダメだな~。ケンカを売るなら相手を見て売らなきゃ。なあ、ロイ。一般市民が貴族を襲おうとしたんだけど、こうした時は法律ではどうなってるんだっけ?」


「その場の判断で、切り捨てて良いとされてますね。」


 淡々と答えるロイの言葉に、その場にいた者全員が恐怖する。抗おうにも、アルのプレッシャーによって、誰一人動くことができない。下手に逆らおうとすれば、先ほどの見えない速度の剣で切られるであろう。


「うっそー?殺しちゃってもいいのー?」


 知ってるくせに、敢えて暴漢たちを怯えさすためにおどけて言う。女たちも今にも泣きそうな顔をしている。


「なーんちゃって!君たちを殺しても、僕には何の得にもならないから殺さないんだけどね。」


 その言葉に一同が、死を免れた事を理解し、緊張が切れた息を吐きだす。


「実は、君たちにお願いしたいことがあるんだけどね。聞いてくれるかな?」


 アルはしゃがみ込み、土下座中のジョージに話しかける。ジョージは一度顔を上げると、再び頭を下げて言う。


「はい、なんでも。俺たちにできることだったら…。」


「じゃあ特別に教えてあげるけど。実は僕たちはこの街の犯罪を減らすのが仕事なんだ。そのために僕らは観光客のマネをしてたんだけど、こんなすぐに君たちみたいなのと会えると思わなかったよ。本当は君たち全員殺してもいいんだけど、もっと効率よく犯罪を減らしたいんだ。君たちは君たちの仲間に、街に僕たちみたいな私服警備兵が紛れてるって噂を流しといてよ。そしたら頭のいいやつらは悪さするの控えるでしょ?まぁ、次に引っかかったバカは、君たちみたいなチャンスはあげずにすぐに切り捨てるけどね。」


「は、はい!分かりました。」


「後ろのみんなもよろしくね。」


「は、はい。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どうだ?!とっさに考えたにしては、すごく上手い嘘だっただろう?」


 暴漢たちと別れ、帰途を歩くアルは、同行のロイにそう告げる。


「私服警備兵だとしたら、なんで最初に見逃してくれだなんて言ったんですか?もうちょっと頭のいい奴ならすぐに嘘がバレますよ?」


「なんだよ!それでこの街の犯罪が減るのなら、それはそれで結果オーライだろう?我ながらナイス機転だと思うぞ?」


「はぁ…。」


 ため息をつくロイ。そして二人は、裏口からこの街の領主ローガンの館に入ってゆく。アルとロイが仮面を取ると、門番は敬礼をし、門を開ける。

 アルが帽子を取ると、帽子の中に入れていた首までの長さの金色の長髪が降りる。


「いや~、それにしても楽しかったな!」


「何を言ってるんですか?!こっちは冷や冷やしっぱなしでしたよ!」


「何だよ。お前も楽しめばよかったんだよ。また明日からも街に繰り出すからな!俺はこの街で嫁を見つける!」


「陛下!やっぱり街には今日みたいな下品な女しかいませんよ!もうこんな事は止めましょう!ここの領主の娘のクローディアでいいじゃないですか!美しくて聡明だし、何が問題あるんですか?!」


「バカ野郎!今日その娘とも会って話したけど、何を質問しても『陛下と同じでございます。』だぞ?!ロボットかよ?!今まで領地視察っていう名目で、国中の貴族の娘の中から嫁探ししてきたけど、どいつもこいつも皇帝様の言う通りにしますっていう女ばっかりだったじゃないか!もうダメだ!貴族の娘はダメだ!俺は街へ降りて好みの女を探す!」


「何をこれ以上高望みしてるんですか?どの娘も美人だし、教養もあるし、いっそ全員妻に召されたらいいじゃないですか!」


「違うの!俺は皇帝という立場ではなく、アルベルト・エリアス・エル・ヴァーミリオンという一人の男を愛してくれる女と結婚がしたいんだよ!」


 そう、この男こそ、このバスク帝国の新たな皇帝となったアルベルト・エリアス・エル・ヴァーミリオンその人である。

 アルベルトは皇太子として、北の蛮族の侵攻の撃退や内乱の対応など数多くの武功を上げてきたが、先月父である先代皇帝の病死により、急きょ新皇帝に即位した。それまで戦いに明け暮れてきたアルベルトに、世継ぎを残さなければならない使命が急にのしかかる。国内外から数多くの婚姻の申し出がある中、本人は至って本気で自分の妻は自分で探すと、現在国内視察の名目で、嫁探しの旅をしているのだった。


「陛下!あんた、どんだけ恋に恋してるんですか?!あなたの仕事は恋をすることじゃなくて、帝国に皇帝として優秀な子種を残すことなんです!愛とかそんなのはどうでもいいんですよ!」


「うーるせえ!黙れ!俺は愛に生きるんだよ!」


「愛に生きるって、おまえまだ人を好きになった事すらねえだろうが!」


 お付きの騎士ロイの口調が、だんだん激しくなる。ロイこと、帝国の筆頭騎士ロイ・アーネルバーグ。帝国最強の騎士にして、アルベルトの幼なじみである彼にだけ、皇帝に対して対等な言葉遣いが許されている。そうは言っても公の場では主従関係を崩すことはないのだが。


「うるさい!祭りは今日始まったばかりだ!毎晩街に繰り出すからな!」


「毎晩って、影武者やらされてるブルーノはどうすんですか?!」


「ずっと影武者やらせときゃいいだろうが!」


 二人の行き先では、緩やかな巻き毛の長髪の男が立っていた。二人の姿が視界に入ると、声を掛ける。


「お帰りなさいませ。お二人とも、仲がよろしいのは良いのですが、ここは宮殿ではないのですから、もう少しお声の大きさをお控えください。」


「フェルナンデス!出迎えご苦労。」


「誰が聞いてるか分かりませんから、クローディア様の悪口はお控えください。それと、ブルーノには引き続き影武者をするよう伝えておきますね。ですが最終日だけはこの館で舞踏会が行われますので、それだけは陛下御自身がご出席ください。」


「分かった分かった!じゃああと5日間は、ロイと一緒に夜遊びさせてもらうからな。」


 先ほどの二人の筒抜けの会話を聞き、アルベルトの毎日出歩く宣言を受け入れるフェルナンデス。その結果、これから5日間、夜中まで皇帝のお守りをしなければいけなくなったロイは、頭を抱えるのだった。





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