表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第4章 バスク帝国編 若き皇帝の花嫁探し
70/126

66.仮面舞踏会1

 バスク帝国東部に位置する都市、ラヴァーズフィールド。この地では、帝国内でも有名な祭りが、毎年春と秋の2回開催されている。「仮面舞踏会」と呼ばれるその祭りが続く一週間の間、この街は帝国内外から来た観光客たちで賑わう。

 祭りの間、ほぼ全ての人間が仮面を付け、街の中を歩く。それがこの祭りの唯一のルールだ。ピエロたちは歌い踊り、大道芸人たちは路上パフォーマンスをする。そんな中、若い男女は異性を求めて飲み歩く。その仮面は身元を隠すためのものである。仮面を付けている間は、自分が何者であるか名乗るのは無粋とされている。男と女は自分が何者であるかを隠した上で、この街での出会いを楽しんでいるのだ。この祭りが、街の風紀を乱すと言う批判も多い。だが、この街の最大の収入源となっているのも、あるいは事実である。この祭りの中で出会った男女が夫婦となることも多く、一夜の思い出として楽しむ者もいれば、多くの者の生涯の伴侶との出会いの場にもなっていた。


 人通りが少なめの裏通りで、美しいドレスを身に纏った二人の仮面の女性に話しかける男がいた。男も二人組で、二人とも貴族のような派手な衣装を着ている。この祭りではどんな服装をすることも許されている。貴族でなくても貴族のような服装をしてもよく、また最近では動物などの着ぐるみを着て街中を賑やかす若者も増えてきている、まさにコスプレパーティーのような祭りであった。ナンパ目的の男が、女性受けの良い金持ちそうな貴族風の着飾った服を着ているのも、よく見る光景だ。


「お嬢さんたち、こんばんは!何されてるんですか?僕らはこの街に来るの初めてなんですけど、よかったら案内してくれませんか?」


 羽の付いた大きな帽子をかぶり目の周りを隠すヴェネツィアンマスクを掛けたその男は、仮面の下に覗き見えるその口元をニヤつかせながら女性に話しかける。ニヤニヤしていようが、その整ったあごのライン、高い鼻とりりしい口元、そしてマスクから覗く透き通ったまなざしから、男が美男子であることがすぐに分かる。


「えー?どうしようー?」と、女性二人は顔を見合わせる。

 女性二人も、仮面の下は美しい顔である事が一目で見て取れた。光沢のある鮮やかな赤い口紅が塗られた艶やかな唇。緩やかにウェーブする金色の長い髪、そのドレスの胸元は、男を容易に誘惑するほど大きく開かれていた。


「なぁ、ロイ!こんな美しい女性に案内してもらえたら最高だよな!」


 男は後ろに立つ連れに、そう話しかけた。控えめだがやはり美男子であるロイと呼ばれたその男は、ため息をつきながら答える。


「アル。あまりしつこくなされぬよう。女性も困っているじゃないですか。」


「何を言う。困ってなどいませんよねえ!」


 そう言って振り返り、女性にウインクをする。

 困惑して見せてはいるが女たちは異性に迫られる事を悪く思っていないようで、アルと呼ばれた男に微笑み返す。


「ところでオニーサンたち、腰に剣を吊るしてるみたいだけど、騎士さんなの?」


 貴族の中でも剣に優れた者が、帝都にある騎士団に入団することは多い。だが戦争の多いこの国では、騎士は戦地に出向くことが多く、それだけその身を危険にさらすこととなる。最悪の場合戦死することもあり、貴族の中でも進んで騎士になりたいと思うものは一握りだった。

 そのため騎士である、もしくは元騎士団に所属していたという肩書はとても勇敢な戦士としての誇りとなる。


「そう!僕たち、騎士っていう設定なの!どう?惚れちゃいそうでしょう?」


「アハハ!本当の騎士様に見つかったら怒られちゃうわよ!」


「本当の騎士がもしこの街の中に居ても、正体なんて明かせないでしょう?騎士のくせになんで仮面なんかつけてるんだって話で。だから見つかったとしても、怒るに怒れないって。」


「アハハ!確かに。オニーサン面白い。」


「もしその騎士が名乗ろうもんなら、俺はそいつが祭りでナンパしてたって告発しちゃうよ!騎士なら女の尻追いかけてないで仕事しろって!」


「オニーサンだって騎士って設定なんでしょう?」


「あっ、そうか!じゃあ今のナシで!ハハッ!」


 男の軽い話しぶりに、ケラケラと笑う二人の女。これは感じ悪くはないなと、男は二人の肩に手を掛け


「まー、続きは飲みながら話そう!おごるからさ。」


 そう言って、近くの酒場へ女を連れてゆく。ロイは、ため息をついてから、3人の後に続いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 バスク帝国の夜は明るい。

 それは一部の都市部に限った話だが、バスク帝国の大都市には、古代文明の遺産、魔光灯マジックライトと呼ばれる街灯が設置されていて、夜間街を照らしているためである。

 鉱山で採れる稀少な鉱石の中に、明るい場所で溜めた光を暗くなると放出し光りだす石、発光石がある。その石のみで強い光を発するわけではないが、古代文明ではごく少量の発光石の光を増幅させる魔道器マジックアイテムが使われていた。地下迷宮ダンジョンで発見されたそれは、地下迷宮ダンジョンを探検する時のランタン代わりになり、街では外灯に仕込むことで、日中は太陽の光を貯め、暗くなると発光する仕組みとなる。そうして魔光灯マジックライトは、半永久的に帝国の夜の街を照らし続けるのである。

 帝国が、こうした古代文明の魔道器マジックアイテムを数多く所有しているのは、帝都の地下に広がる地下迷宮ダンジョンの恩恵である。地下迷宮ダンジョンの中には無限に湧いて来る魔物モンスターがおり、とても危険なのだが、その奥にはこういった古代文明の遺産が数多く発掘され、帝国の文化を支えている。


 4人は広場沿いにあるバーに入って行った。広場はたくさんの魔光灯マジックライトによって、夜だというのに明るく照らされてていた。広場の中央では奇術のショーが行われており、それを取り囲むようにたくさんの人だかりができていた。バーの2階の窓際のテーブルに座った4人からは、そんな広場の様子がよく見えた。


「それでは、僕たちの出会いを祝って、かんぱーい!」


「何それ、アハハ、ウケるー!」


「ウケるって、僕はいつでも本気さ。」


「ところでそっちのオニイサン、さっきから全然喋んないんだけど。ノリ悪~。」


 と、男の連れ、ロイの事を横目で見る。注目されたことに気付いたロイは、「申し訳ない。」と、一言だけ謝罪する。するとそんなロイの肩を組んで、アルが話し出す。


「ごめんね~。こいつ僕の幼なじみなんだけどさ、いつもこんな感じなんだよ。でも僕がこいつの分も話すから、二人一緒でちょうどいいくらいでしょ?」


「言えてる!キャハハハハ!」


 4人がそんなどうでもいい話をしている間も、広場ではイベントが続いていた。

 ワアア!という大きな歓声と共に、火柱が上がる。その歓声に、店内にいる者たちも、思わず広場に目をやる。広場では脱出の奇術が行われていた。火柱が上がった箱の中に入ったはずの奇術師が、別の場所から登場すると、拍手と歓声が起こった。


「派手な演出だねえ…。」


 アルはポツリと呟いた。


「オニイサンたち、この街初めてなんでしょ?もっと近くまで見に行く?」


「いやいや、僕はああいう見世物を見ているよりも、きれいなお姉さんたちと話してる方が楽しいですから。」


「だと思ったー!キャハハハハ!」


 アルが、そんな冗談のような本音を伝えた時、広場には先程よりもさらに大きな拍手と歓声が起こる。アルも思わず広場に視線を送る。

 広場の正面にある見物用の客席、その最上段には、客席よりも一段高くなった観覧席があった。そこに二人の人物と、それに従う騎士たちが入場してきたのだ。二人の人物の内一人、小太りの中年は、この街に住む者ならだれでも知っていると言われる、この街の領主エドワード・ローガン。そして大歓声を起こした調本人は、ローガンに引き連れられて現れた長身の男だった。たくさんの長い羽飾りを付けた帽子をかぶり、真っ赤なベルベットのマントを羽織り、美しい姿勢で壇上を歩く。顔全体を覆う真っ白な仮面で、その顔は一切うかがい知ることはできないが、その場にいた者たちは、それが誰であるか瞬時に理解していた。


「ねえ、あれって?」


「そうでしょー。」


 女たちが二人で何か分かったかのように話している。


「何ですか?」


「ほら、あそこの壇上!あれが噂の新皇帝様よ!」


「へえ、あれが…。」


 新皇帝と呼ばれたその人物は、軽く右手を挙げ観衆の声援に応える。その挙動に、さらに大きな声援が巻き起こる。


「大人気だねえ…。」


 そんな冷めた口調で話すアルに、女は熱く語る。


「そりゃそうよ。だって新しい皇帝は、絶世の美男子で、まだ20歳の独身って噂よ!帝国中の貴族の娘が狙ってるらしいわ。私たちみたいな一般市民の女だって、お妾にでもなるチャンスがあれば飛びついちゃうわ!」


「あんな奇術を見るために、わざわざ帝都から遠く離れたこの街まで来るなんて、新しい皇帝陛下はお暇な人なんですねえ。」


 別の男の話で盛り上がられるのが不満なのか、アルはそんな嫌味を呟く。すると、女たちはそんなアルの言葉を強く否定する。


「そんな事ないわよ!皇帝陛下は即位されてすぐに、各地の領主に挨拶をして回っているそうよ。本来帝都に集めれば済むのに、自分の目で領地を見て回りたいと言って各地へ赴いている勤勉な人らしいわ。」


「そんな理由でちょこまか動かれては、周りの護衛もさぞ大変でしょうね。噂では国内外から命を狙われていると聞いたことがあるよ。」


「そ、そこはあれよ!宮殿騎士は優秀な方が多いそうだから、どんな敵に襲われても大丈夫よ!」


「詳しいんだね。そこは僕も肯定するよ。だってほら!僕も騎士だし!」


 と、腰に下げている剣をアピールする。


「本当に騎士だったら、ちゃんと皇帝陛下の護衛に行きなさいよー!」


「ワハハ!バレちゃった!って、最初からバレてるよね!」


「キャハハハハ!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 賑やかな会話の後、アルたち仮面をつけた4人の男女は、代金を払って店を出る。


「ねえ、オニイサンたち、次のお店に行かない?私たちの知ってるところなんだけど。」


「いいねえ!ぜひぜひ。」


「アル…、そろそろ…。」


「おまえ!レディに誘われて帰るバカがいるか!行くぞ!」


 あまり喋っていないロイが、そろそろ帰りたそうにするが、アルはそんなロイを無理やり連れて女たちの後に付いてゆく。仕方なしに従うロイ。そして4人は、人気のない裏通りまでやってきた。


「なんだか静かなところだねえ。外灯もないし…。こんなとこにどんなお店があるのかな…?」


 辺りをきょろきょろ見回しながら、アルが女に尋ねると、女は「あそこよ!」と、明かりが漏れる扉を指さした。


「ジョージ!」


 女が扉を開けて中にいる男を呼び出すと、中から見るからに荒くれものという感じの大男が現れた。


「ジョージ。このオニイサンたちが、私たちに迫って来て困ってるの!」


「おい、兄ちゃん。俺の女たちに手を出そうとして、ただで済むと思ってるんじゃないだろうな?」


 そう言うと大男は、懐から取り出した大きなサバイバルナイフを、舌でペロリと舐めた。


「有り金全部置いていきな。」


「ちょ、ちょっと待って!話し合おうじゃないか!」


 仮面舞踏会では、仮面を付けて身元を隠すことが認められているため、強盗などの犯罪も絶えない。風紀の乱れだけでなく、こうした治安の悪さが観光客を遠ざけているという一面もあった。




果たしてアルとロイの運命は如何に?!

まさかの続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ