65.一撃必殺としての魔法の修行
「ニーナ!俺にもっと魔法を教えてくれ!」
考えた挙句、出た結論はそれだった。インフェルノに負けたくない。短期間で魔力1から20まで成長できたのだから、これからも修行すればインフェルノの魔力32だって、すぐに超えられるはずだ。
「もちろんお前たちに魔法を教えるつもりで、この魔力測定器も借りてきたんだ。道中馬車に揺られてるだけで、時間を無駄にしてる気がするだろ。だから移動中、二人に魔法を教えてやるよ。」
それは願ったり叶ったりだ。なんだけど…、え?二人に?インフェルノも一緒に成長していったら、ずっと追いつかないんじゃ…、いや、こいつの倍努力して抜いてやる!
「バーンには火の精霊魔法を教えたんだけど、インフェルノはまずどの属性と相性がいいのか確認をしよう。今から私の手の中に4つの精霊を集める。何が見えるか教えてくれ。」
ニーナはそう言うと、両手の掌を、水をすくうように上に向けた。
掌の中には、たくさんの小さな真っ赤いトカゲが、炎のようにゆらゆらと蠢いていた。
「トカゲだろ?」
俺が横から口を挟むと、インフェルノは、
「トカゲ?おまえには、これがトカゲに見えるのか?白い羽の生えた、小さい虫みたいな鳥みたいな生き物
じゃないのか?」
「なるほど。インフェルノには、シルフが見えるようだな。」
「どういう事?」
「今私の手の中には、4種の精霊がいると言ったろう?バーンには、火の精霊サラマンデルしか見えていなくて、インフェルノには風の精霊シルフだけ見えているのだ。私には、他にも水の精霊と土の精霊が見えている。魔法の適正のないものには、何も見えないだろう。」
「そうなの?」
「じゃあ次に実践だ。まず呪文詠唱についてだが、呪文は長いほどイメージを固めやすく、大規模な魔法を成功させやすくなる。だが必ずしも呪文が必要なわけではない。頭の中でしっかりと魔法のイメージを持てれば、無詠唱で魔法を発動させることもできる。呪文を使った魔法を使っていると、いつまで経っても無詠唱魔法は使えるようにはならない。だから最初から呪文詠唱をしない魔法の練習をしよう。」
「ああ。よろしく頼む。」
「何事にもイメージが大切だ。バーンは先に私やセガールたちが使った火球の魔法を見たから、使えるようになるまでそれほど時間がかからなかっただろう?インフェルノには風の魔法を教えよう。」
そう言うとニーナは再び掌を、まるで透明な玉を持つような形にする。するとその掌の上に、透明で分かりづらいが、丸くつむじ風のように空気がくるくる回っているように見えてきた。球状に小さい風を起こしているのだろうか?そしてそれはだんだん速度を増し、白い球のようになる。もしそれに手が触れたら、ズタズタに切られてしまいそうだ。そして空気の渦はゆっくりと速度を落とし、ゆっくりと消えていった。
「すごいな…。」
インフェルノが感嘆する。
「このまま敵にぶつけても威力があるし、大きくして竜巻を起こすこともできる。かまいたち現象のように、真空を作って切り傷を与えることもできる。まずは手の中で風の精霊を集めることをイメージしてみろ。」
インフェルノはニーナがさっきしたように、掌を上に向け、意識を集中する。初心者のインフェルノに、優しい俺はアドバイスをしてやる。
「最初はなかなか難しいんだよ。すぐに諦めちゃダメなんだ。イメージできるようになるまで根気強く努力しないといけないんだ。」
と、言ってる傍から掌の上に空気の渦が発生した。
「こんな感じか?!」
「飲み込みが早いな。そうだ。暴走させないよう気を付けながら、何度も繰り返してみろ。」
飲み込み早すぎだ。なんですぐにできるようになるんだ?いい加減にしてほしい。もっと苦労した方がいいと思う。
「バーンもブツブツ言ってないで、おまえは、火球の応用をしてみるか。」
考えていたことを声に出してしまっていたようだ。
ニーナは、また掌を上に向ける。すぐにその上に火球が浮かぶ。火球はだんだん小さくなるが、その光はだんだん強くなり、赤かった火球は真っ白くなってゆく。その発する熱に馬車の中が急激に熱くなる。そしてまたゆっくりと消えていった。
「火球を小さく収縮させると中心温度が上がってゆく。そうすることにより、より強力な破壊力を持つようになるだろう。二人ともコントロールできなくなる前に、球を消すように心がけよ。精霊魔法は精霊の力を借りて行う。精霊の力を上手く借りることで、自分の魔力の消費量を少なくすることができるが、暴走してしまう危険性も孕んでいる。大切なのはコントロールすることだ。魔力を消費し疲れたら休め。寝て回復することも修行の内だ。繰り返すことで使える魔力量は増大する。」
こうしてこの日の移動中は、魔法の練習をしたり、疲れて仮眠したりをして過ぎて行った。
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その日のうちには次の町までたどり着けないという事で、日が暮れる前に野営の準備をする事になった。
冒険者たちと俺たちと同行の騎士4人が準備をしてくれている間、俺たちは少し離れた場所で魔法修行の続きを行っていた。
「バーン、おまえ火球を、逃げる男の背中には当てる事ができてもウィル・オー・ザ・ウィスプには当てる事ができなかったそうだな?」
「そうなんだよ。あいつちょこまかと動き回るから。」
「じっとして待っている敵が、いるわけないだろう?お前の火球は、まだ実戦では何の役にも立ちそうにないな!」
なんということでしょう?!驚愕の事実。そう言われてみれば、今まで向かい合った敵に対し、バーンの火球が当たったことなど一度もなかったのです。
というナレーションが頭の中に流れてショックを受けている俺に、ニーナは続けて説明をした。
「火球をいちいち投げてるから、交わされるんだ。最初から敵にぶつかるところに火球が発生するようにイメージして撃て。いいか見本を見せてやるから見てろ」
そう言うと、ニーナは右手を上げ、少し離れた岩場を人差し指で指差す。
「撃つぞ。」
次の瞬間、岩場にバン!という音とともに火が爆ぜる。パラパラと砕けた岩が地面に落下する。
「こんな感じだ。」
「前にセントラール城で見せたあれは何だったの?!」
「あれは子供向けの魔法の練習だろう?これは実戦向けの魔法だ。」
同じ火球でも全く別物だ。今までは手元で発生させた火球を投げて的にぶつけていたが、今見たのは、馬車の中で練習した中心温度の高い火球を、いきなり的の直前に発生させてぶつけていた。
「こんなんくらったら、いきなり死んじゃうじゃん。」
「お前たちの中で魔法は、攻撃補助としか思っていないらしいな?むしろ止めをさす力が強いのは、剣より魔法だぞ。」
そうして俺とインフェルノは、ニーナに教わったやり方で、魔法を的にぶつける練習をする。
その後、みんなが用意してくれた夕食を食べると、俺たちは魔法を使った疲れですぐに眠ってしまった。




