64.魔力測定器
翌朝、俺たちは、村を発つための準備をしていた。この先、俺たちはここから北上し、バスク帝国を通過してインフェルノの故郷である北方連合国家へ向かう。
ジュリアたち調査団もバスク帝国に戻るため、途中まで一緒に移動することになった。
俺たちの乗る馬車を見て、ローズが驚いた。
「なんて立派な馬車なんだい?!」
それもそうだ。おそらく国王は、セントラール王国で一番の馬車を貸し出してくれたのだ。もしかするとこれは、本当は国王専用の馬車なのかもしれない。
「あんたたち、まさか貴族……いや、もしかして王族なのかい?!」
馬車に付いている、立派なセントラール王国の盾と龍の紋章。それを見たローズが、この馬車は王族の馬車かもしれないと感づいたようだ。
俺とインフェルノは顔を見合わせて、返答に困る。
ニーナの正体については、面倒にならないようできるだけ伏せておくつもりだった。だが、こんな立派な馬車に乗っていたり、騎士を4人も連れている時点で隠すのが難しい。変に嘘をついてごまかしても、後でつじつまが合わなくなってしまいそうだ。なので正直に話すことにした。
「ローズ。いろいろややこしい話なんだが、ニーナは貴族でも王族でもなくて、数日前にセントラール国王からセントラール王国の守り神として認められた、魔法使いなんだ。正式な肩書はないんだけど。」
「なんだ?国外では秘密じゃなかったのか?」
内緒にしろと言っておきながらあっけなく話した俺に、インフェルノは呆れたような顔をする。
「んー、まあローズなら大丈夫だろう?ローズ。まだ国外に正式に通達はしていないのと、ニーナのような若い娘が大魔法使いだという事がバレると大騒ぎになりそうなんで、とりあえずここだけの話にしておいてくれ。」
「そ…それはにわかには信じがたいけれど、あんたはうそをつくような子じゃないしね。分かったよ。だとしたら今まで失礼な態度があったと思うけど、許してもらえるかい。」
「失礼な?」
何かあったっけ?と、きょとんとする俺にインフェルノがフォローを入れる。
「バーン、お前の国は平和で、あまり貴族と平民の間の壁がないと聞く。貴族の事をただの金持ちだと思っているだろう?だがバスク帝国は、貴族と平民の差別がとても強い国なのだ。貴族は平民の事を、同じ人間だと思っていない。そして皇帝は、神と称えられている。その言葉は絶対で、皇帝の前でぶしつけな態度を取ればその場で打ち首を命じられることもあるという。ローズはそんな差別社会の国の人間なのだ。」
「ああー、なるほど。いや、ニーナはそういう性格じゃないんで大丈夫だよ!」
俺がそう言うと、ローズはほっとしたような表情をする。最初馬車を見てびっくりしたのも、それでか。
「そういやインフェルノも貴族なんだよな?」
「ああ、だが俺の国も周辺国家と連合王国として合併して戦争もなくなってからは、貴族の力もなくなってきたな。俺の父は古い考えの人間なので身分の低い人間の事をあまりよく思ってないのだが、俺にはそういった感覚はない。むしろ妹の病を治す情報を得るために、一般市民と交流を多く持つようになったな。」
「あんたたちは、なんだか複雑な関係のようだねえ。美男美女の中に、バーンのような小汚い男が一人混ざっているのが不思議だよ。」
「ちょっと待って!俺そんなに汚い?!普通だよ!」
さらっと貶されるので、俺は慌てて言う。最近貶されキャラになってきた。
「ローズ!こっちは出発の準備ができたわよ。」
立ち話をしている俺たちのところへ、ジュリアがやってきた。変な顔をしている俺と、笑っている二人にジュリアは「何話してたんですか?」と、声を掛ける。
「ジュリア、俺ってそんなに汚いかな?」
なんの話?という顔をするジュリアに、インフェルノとローズはまた笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
村の北には、どこの国の土地でもない荒野が広がっていた。荒野には点々と都市国家があるのだそうだ。荒野を越えると、東西に流れる大河に辿り着く。向こう岸が見えないくらい広いが、海ではなく川らしい。その大河を船で越えると、その先はバスク帝国の領地だ。ジュリアたちが帰るバスク帝国の帝都はそこから西にあり、俺たちが向かうインフェルノの故郷は北東になる。俺たちの馬車は、大河を越えるまでジュリアたちと一緒に行くことになった。
移動中、馬車の中では特にやることもなく、時間を持て余してしていた。パンドラがいた時は、ニーナとパンドラがずっと雑談をしていたが、パンドラのいない今、俺とインフェルノとニーナの3人の間の共通の会話というものが思い当たらず、結果沈黙が続いている。特に俺とインフェルノの二人きりになると最悪だ。別にこいつの事が嫌いなわけではない。だがなぜかヒートアップしてしまい、競い合ってしまうのだ。だから変に熱くならないよう、敢えてお互い話し始めたりもしなかった。
すると、ニーナが沈黙を破って話し始めた。
「昨日な、セントラールにも行って来たんだ。そこでセガールに、この試作品を借りてきた。」
そう言ってニーナが鞄から取り出したのは、以前見た事のあったものによく似ていた。
「魔力測定器か?」
「そうだ。しかもこれは新型だそうだ。セントラールに帰ったらみんなに魔法の指導をするという約束で、貸してもらった。ここを見てみろ。上と下に二か所、数字がでるところがあるだろう?何だと思う?」
前のは数字が表示されるところは一か所だけしかなかったが、この新型は上と下に2か所付いていた。答えが分からずにいると、ニーナが説明をしてくれた。
「分母が現在蓄積できる魔力の最大値で、分子が今現在実際に体内に溜まっている魔力量だ。分子は魔法を使うたびに減ってゆき、休息すると少しずつ回復してゆく。分母は、魔法を使うほど成長して増加してゆくのだそうだ。早速測定してみよう。バーン、お前は前回測った時は『1』だったな。」
そう、それでニーナに爆笑されたのだ。だがその後、短い時間だったが、千年の森で魔法の修行して火球を使えるまでになっている。今では格段に増えているはずだ。いったいどれだけ成長しているのか期待を胸に、ニーナに魔力を測定してもらう。
「出たぞ。バーンの現在の魔力量は…『20/20』だな。」
「おっし!成長著しいな俺!特訓した甲斐があったぜ。アークさんは何でも数値化すればいいってもんじゃないって言ってたけど、やっぱりこうして成長したことが分かると嬉しいもんだな。」
俺は思わず、ガッツポーズをする。たったの1しかなかった魔力が、この短期間で20にまで増えたのだ。俺の努力の賜物と言えよう。俺の剣の師匠のアークさんは数値が強さの全てではないと言っていたが、それでも数値化政策によってこうして努力のし甲斐を感じられるのなら、やはり意味はあるのだなと思ってしまう。
「その数値はすごいのか?」
インフェルノの質問に対して、ニーナはセントラール王国の魔法使いセガールに聞いた話を思い出しながら答える。
「確か、魔法使い見習いで20から70とか聞いたな。」
「見習いの一番下っ端レベルという事だな。特訓してその程度か、フフッ…。」
「おい!待て!魔法を使えるようになるっていう事が、どれほど大変かお前は分かってない!まぁ、所詮ただの剣士のお前には分かりっこないかもしれないけどな。」
俺にそう言われ、明らかにイラっとした顔をするインフェルノ。フフフ。そうだ、単純に剣の腕では勝てないけれど、俺には初歩的だが魔法を使えるという強みがあるのだ。
だがその時、ニーナが恐ろしいことを言う。
「インフェルノがセントラール城門を破壊した時に使ったあの技は、魔法の力だろう。だとするとお前にも魔法を使う才能があるぞ。」
「え?」
「そうなのか?では俺の魔力も測定してみてくれ。」
そう言われ、インフェルノの魔力を測定するニーナ。なんだか嫌な予感しかしないのだが…。
「『32/32』。なかなか才能がありそうだな。今まで魔法の修行をしたことは?」
「いや、全くない。」
「グヲオオオオオオオ!!!!!!」
『全く』の部分を、強調して言うインフェルノ。両手で頭を抱えてうめき声を上げる俺に、二人の冷たい視線が突き刺さった。これだから才能があるやつは嫌いなんだ。俺は努力肌、地道に成長する人間なんだ。俺が努力してできるようになったことを、最初からできるやつとかもいて、神の不公平さを恨むばかりだ。
「これだから数値化は嫌なんだよ!」
「おまえさっき、数字で分かると嬉しいとか言って肯定してなかったか?」
二人は、さらに冷たい目で俺を見ていた。




