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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第3章 ウィル・オー・ザ・ウィスプ
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62.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村8

 門を破壊して中へ入ると、そこは倉庫だった。倉庫の中にはゴザの上に摘み取られた薬草が広げられて乾燥させているものがあったり、出荷状態の薬草が入れられた籠が置かれたりしていた。しかしこの倉庫には人の気配がない。待ち伏せしている敵を片っ端から斬り倒してやろうと思っていたが、肩透かしを食らったようだ。


「待ちかまえてはいなかったな…。」


 先ほどの戦闘で、俺は今やや興奮気味になっている。早く次の敵と遭遇したい。


 倉庫の中を通過し、入って来た扉と反対側の扉を開け外に出る。そこには薬草が栽培されていた。真ん中の通路の左右には、膝の高さくらいの深緑色の草が生え茂っていた。よく見れば新芽だけ収穫していて、収穫前の畑、収穫後の畑とある事がわかる。

 奥には2階建ての丸太小屋が見えた。その外には、収穫した薬草を入れる籠が積み重ねて置いてある。その奥に、さらに門があった。


 とりあえず見えている小屋に向かって歩いていると、小屋から一人の村人が出てきて俺たちを見つけると、突然悲鳴を上げた。


「う、うわあああ!!!!」


 俺を見て腰を抜かしたようだ。何をそんなに驚いているのだろうと、自分の身体を見ると、先ほど切った刺客の返り血で真っ赤だった。血まみれの俺を見てびっくりしたようだ。ちなみに細い刺突剣レイピアで敵の急所を突いて殺したインフェルノは、返り血を浴びていなかった。なんだか悔しい。


「ケブラーはどこにいる?」


 腰を抜かした男は、小屋の奥にある門の向こうを指さす。まあ一本道だから、行き先はそっちしかないんだろうけど。

 小屋の中には他にも労働者として雇われただけの村人が何人かいたため、気が立っている俺たちに変わってオジーが説明に行ってくれた。

 俺は門を開けようとするが、向こう側から閂がかかっているようだ。


「奥では違う薬草を栽培しているそうです。俺たちはこっちで作業しているので、この奥には行った事がありません。」


 労働者はそう説明する。薬草栽培場は、何区画かに分かれているそうだ。

 一旦外に出て、他の入り口を探すという手もあったが、回りくどいことはせずフレイムソードで閂ごと扉を破壊した。その光景をみて、労働者たちの顔は真っ青になっている。


「行くぞ!」


 さっさと次の敵に出てきてほしいものだ。


 次の区画では、さっきとまた違った種類の薬草が栽培されていた。さきほどは葉っぱだけの植物だったが、今度は赤い花が咲いている。


「これは…!」


 オジーが薬草を見て呟いた。


「これは薬草ではなく、毒草じゃ。ケブラーめ、毒物の販売もしておったのか。」


「詳しいんだな。」


「冒険者なら、食べられる野草や食べてはいけない野草、薬になる野草などの知識は必要じゃ。」


「なるほど。ちなみに毒草の販売って犯罪なの?」


「毒は危険なため取り扱いには資格がいる。帝国で無許可で売買されているとしたら犯罪じゃな。」


 これを隠していたのか?それよりも次の門の先が気になる。


「奥に行くほどヤバいもんがありそうだな。」


 そう呟きながら、俺は次の門を破壊した。


 三つ目の区画には、また違う種類の草が栽培されていた。そして通路の一番奥には大きな倉庫が建てられているのが見える。今までで一番大きな建物だ。あそこにケブラーがいるのだろうか?


「オジー、ちなみにこの草も毒草か?」


 その草は、菊のような細い葉がついており、細い茎の先には実のようなものがなっているものや、薄紫色の花が咲いているものがある。


「もしかしてこれは…麻薬草?あいつ麻薬の売買もやっておるのか?!」


「金になるならどんなものでも売りそうなやつだもんな。」


 とりあえず俺たちを襲ったり、麻薬の売買をしていたり、ケブラーが悪い奴というのは確定した。思う存分暴れさせてもらうことにする。とは言え、敵がなかなか出てこない。早く出て来てくれ!でなければ、このうっぷんはどこで晴らせばいいんだ?


「もうここまで悪事の証拠が出てしまうとアレじゃな。ワシらの仕事は完了じゃな。深追いして抵抗されるより、この麻薬草を帝国に持って帰ってケブラーを告発すれば事は済むのう。」


「待てよ。きっとこの先に強い敵が待ちかまえてるだろうから、ちゃんと倒してやろう?」


 オジーがもう帰ろうみたいな言い方するので、俺は慌てて引き留める。まだ何にもやってないじゃないか。


「はぁ…、ワシらを罠にはめるにも準備ができていないケブラーの小物感もアレじゃが、本来の目的を見失っているお前もよっぽどじゃな…。どうする、ゴーズ?」


「お…?俺はどちらでも構わないぞ。深追いしても痛い目に合うこともなさそうだ。」


「お!ゴーズも進むことに賛成って事だな?」


「バーン。ゴーズは考えもなしに言ったのではないぞ。ゴーズは勘が鋭い。ダンジョンでもこれ以上行くと危険だという引き際を見極める感覚が天才的なのじゃ。ゴーズの勘が問題ないと言っているのなら、前進したとしても大した敵は出てこぬぞ。」


「えー?それはそれで困るなあ。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 一方その頃、ケブラーは焦っていた。

 昨夜、調査団の冒険者たちが殺したはずのイアンを連れ戻って来たという情報を聞き、間違いなく翌日に自分のところに事情を聞きにやってくると思い、慌てて夜中のうちに館の中にたくさんの罠を仕掛けておいた。扉を開けると飛んでくるボウガン、階段の手すりには素肌で触っただけで全身に回る猛毒を塗り、地下室に続く暗い階段に並べた瓶の中には、足が当たって瓶を割ってしまうと気化して呼吸困難になる毒液を入れ、自室の引き出しの中には毒蛇を潜ませた。そのどれもが命を奪う罠だ。万が一それらの罠でも殺せずにこの栽培場までやって来たとしても、門の外には高い金で雇っている荒くれものの犯罪者たちに待ち伏せをさせ、栽培場の中に入ってくる前に殺させる予定だった。中でもモーニングスター使いは、これまでたくさんの騎士を殺して指名手配されている危険な男だ。そんな男がいれば冒険者などおそるるに足らないはずだった。

 それが今は、門を壊される音を聞くたびにケブラーは震えあがっている。

 あいつらは危険だ。もうどんな手を使っても殺さなければ自分の身の破滅だ。こうなったらあれを出すしかない!ケブラーは今、一番奥の大きな倉庫の中で、部下たちに最後の罠の指示をしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 薬草栽培場改め、麻薬草栽培場の一番奥にある大きな倉庫の入り口では、ガタガタ震えている男が立って待っていた。

 俺たちが近づくと、恐怖で目を伏せながら、「ようこそいらっしゃいました。中でケブラー様がお待ちです。」とぬけぬけと言いやがる。入り口で俺たちを殺そうとしたくせに、ようこそも何もないもんだよ、と思ったが、この男は事情も良く知らないただの下っ端だろう。ジロジロにらんでやりながら、俺たちはその男に促されるまま倉庫の中に入って行った。


 俺たちが倉庫の中に入ると、さっきの男は慌てて外に出て扉を閉めた。ガチャリという金属音と共に、扉の鍵をかけ閉じ込められたことを察する。まあ扉なんて簡単に壊せるんだけど。俺の目的はただ一つ。強い敵だ!


 倉庫の中はだだっ広くなっており、籠は倉庫の隅っこに積み重ねられていた。俺たちは中を見回し状況を確認する。すると、左手奥に人の気配があった。


「よく来たな!」


 倉庫の一角には2階があり、その上から声がした。ケブラーだ!


「ここでお前らは死んでもらおう!おい!扉を開けろ!」


 ケブラーのいる2階立ての1階部分には大きな扉があり、そこにいた男が扉の閂を外して開く。そして男は猛ダッシュで倉庫の住みのはしごへ向かい、上に登って行った。

 開いた扉の向こうからは、獣の気配がした。

 ゆっくりとこちらへ歩いて来る。牡牛のような大きなツノを付けた大きな物体が、四つ足でのそのそと歩いて来る。そして突然立ち上がり、グオオ!と吠えて威嚇してきた。

 でかい!立ち上がると3mを優に超すそいつは、熊に似た野獣、両角熊ホーンドベアーだ!


「ワハハ!麻薬を使った罠で捕えた両角熊ホーンドベアーだ!中毒症状で狂暴になっているぞ!お前たちの事は、ここに来る途中に森で襲われたと報告してやる!」


 勝ち誇るケブラーに、オジーは焦る。そして『痛い目に合う事はない』と言ったゴーズを責めるように名を呼ぶ。


「あれはヤバいぞ!ゴーズ!」


 だがゴーズは冷静だった。


「ヤバいな。でもこいつらはもっとヤバい。」


 その瞬間の俺は、嬉々として興奮していた。


「来た来た来た来た!中ボス来たー!!!」


 フレイムソードを片手に走り出す。だが同時に走り出したインフェルノが俺の先へ行く。インフェルノの足が速い!


「待て!一匹しかいないんだから独り占めするな!」


 バーニングスラッシュで遠距離攻撃しようにも、先に行くインフェルノが邪魔で打てない。そうこうしているうちにインフェルノが両角熊ホーンドベアーを射程に捕える。

 両角熊ホーンドベアーが口を開け嚙みつこうとするが、その隙に何発もの目にも止まらないインフェルノの攻撃が、両角熊ホーンドベアーの急所を襲う。厚い筋肉の鎧の間を縫ったインフェルノの的確な刺突が何発も突き刺さると、両角熊ホーンドベアーはインフェルノにとびかかった勢いのまま地面に倒れ込み、そのまま二度と動くことはなかった。


 何も言わず剣先に付いた血を払うインフェルノ。


「くっ…おい!ケブラー!次だ!次の奴を出せ!!!」


 しかしケブラーには、奥の手はもう何も残されていない。両角熊ホーンドベアーが冒険者にやられるはずはないと思っていたのだ。冒険者を殺した後、両角熊ホーンドベアーをどう始末しようか悩んでいたくらいだ。


「こいつは中ボスだろ?大ボスが残ってるんだろう?早くしろ!次は俺の番だ!」


 俺がいくら叫んでも、その声が聞こえないかのようにケブラーは口を開けたまま立ち尽くしていた。



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