61.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村7
俺とインフェルノ、冒険者で戦士のゴーズと黒魔法使いのオジーの4人は、この村に来ている商人のケブラーの家に向かった。ケブラーの自宅は帝国にあり、この村にある家は別荘だそうだが、広い庭もある村の中で一番立派な邸宅だった。
「門番とかはいないようだな?」
静かすぎるのが逆に不気味だった。俺たちの事を待ちかまえているかもしれないけれど、特に策を講じることなく正面から乗り込んでゆくことにした。この4人の性格上、細かい作戦を立てて行動するのは向いていない気がしたからだ。
正面玄関の扉に付いている、ライオンの形をしたドアノッカーをガンガンと打つ。
「ケブラーさーん?」
続けて数回ドアノッカーを打つが、反応がない。留守だろうか?
「ケブラーがいるとしたらこの家だよな?出かけてる可能性はあるのかな?」
「昨夜まで村にいたのだから、朝一で村から逃げ出すとも考えにくい。館でなければ薬草栽培場に出ている可能性もあるのう。」
「だとしてもこれだけの家なら、使用人とかが家に残っているはずだろう?」
「ふむ…。」
俺とオジーがそう話していると、その間にインフェルノとゴーズが玄関の扉を開けて中に入ろうとしていた。
「おいおい!」
「鍵が開いている。」
「罠だろ?」
「罠だな。」
「オジー。もしケブラーに後ろめたいことがあったとしたら、どういう行動を取ると思う?」
「例えばイアンを殺そうとしたのがケブラーの指図だった場合とかじゃな。もし蘇生したイアンが全部話したら悪事がバレてしまうじゃろうから、イアン、それだけじゃなく我々調査団の4人もまとめて口封じにかかるじゃろうな。」
「それに協力してる俺たち二人もターゲットに入るという事だな。」
「そうじゃ。この村の人間はケブラー寄りじゃから頼りにはならん。自分たち以外は、全員敵だと思った方がいいじゃろう。」
「刺客が送られてきてから対応するより、やっぱりケブラーを取り押さえるのが一番手っ取り早いよな?」
「そうじゃな。」
「じゃあこの館の調査は後回しにして、ケブラーがいそうな薬草栽培場へ行くか。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森の中の薬草栽培場へ続く道を進む途中、何度か野犬などの獣の気配がした。日中でも危険な道のようだ。わざわざこんな危険な場所に栽培場を作らなくてもいいと思うのだが、日が当たりにくくて湿度の高い森の中の気候が薬草の発育に丁度良いのだそうだ。確かにこんな道を通らなければならないのならば、護衛のための冒険者を雇う必要があるのも納得する。
「こんな危険な道を行き来するくらいなら、いっそその栽培場に住んじゃえばいいのにな?」
「栽培場にも泊まれる小屋があるようじゃな。もしかしたら、そこに夜中ウィル・オー・ザ・ウィスプが現れて、それを全滅したパーティーに討伐依頼したのかもしれんな。」
「それなら別に依頼が不当だったというわけじゃなさそうだな。問題は誰がなんの目的でイアンを襲ったのか?何か裏がありそうだよな。」
そうこう話しながら歩いているうちに、目的の薬草栽培場が見えてきた。正確に言うと、視界に入って来たのは薬草栽培場の周りの囲いだ。中が完全に見えないように、3mくらいの高さのある木製の囲いが続いている。ここまで厳重に囲わなくてもと思うが。
そして入り口の門の所には門番らしき男がいた。その男は背丈が2mを超す巨体の男で、手に凶悪な武器を持っていた。両手で持つこん棒の先に太い鎖がついており、その鎖の先についている棘付きの鉄球が地面にころがっていた。見るからに凶悪そうだ。
「モーニングスターか。普通それは全身鎧などの重装備の敵との戦闘用の武器なんだがな。」
インフェルノの解説に、俺は「なるほど」と相槌を打つ。俺たちみたいな軽装備にはオーバーキルな武器のようだ。
さて、その門番は俺たちを待っていたようだ。俺たちの姿を見ても驚く様子もなく、当然のように俺たちに話しかけてくる。
「いよお、意外と早かったじゃないか?ケブラーさんに会いに来たんだろう?」
「ああ。通してくれるか?」
「バカ野郎!お前たちの行先はあの世なんだよ!」
門番はクサいセリフを吐くと、ニヤニヤしながら鉄球をぐるぐると振り回し始める。同時に周囲の森の中から隠れていた刺客が、次々と姿を現す。まあ、殺気ブンブンに出してたから、隠れているのは最初から丸わかりだったのだけれど。
インフェルノは、周囲を見回すと呟く。
「とりあえず一番強そうなのは門番か。」
「おまえ!一番おいしいところ取ろうとすんじゃねえよ!門番は俺がやるよ!」
「ふざけるな、早い者勝ちだ。」
インフェルノが早い者勝ちだと言うので、俺は我先にと門番に向かって駆け出した。襲い掛かる俺に向かって、門番は振り回していた鉄球を飛ばす。俺は瞬時に抜いたフレイムソードで、その鉄球を真っ二つに両断する。見たか!と、自信満々の顔で驚いているであろう門番を睨むと、目に入って来たのは、インフェルノに喉元を一突きされ苦痛にゆがんだ門番の顔だった。
「あっ!てめえ!」
「ふん!遅い。」
ドサッという音と共に、門番は大地に崩れ落ちる。
「俺に攻撃してきたんだから、俺の獲物だろう?横取りすんじゃねえよ!」
「どんくさいから狙われるのだ。」
「お前たち、ケンカなんかしてないでこっちを手伝え!」
茂みから飛び出してきたのは合計で8人の刺客で、ゴーズとオジーが対処していた。俺とインフェルノはどちらが数多く倒せるか競い合うように、8人の刺客を迎え撃つ。俺が一刀で2人の刺客を切り倒す間に、インフェルノは3人の刺客に対しそれぞれ急所を刺し殺す。速さではインフェルノに適わないか。
ゴーズとオジーがそれぞれ一人ずつ倒すと、最後に残った一人は逃げ出した。
「逃がすか!火球!」
俺の唱えた火球の魔法は、逃げる刺客の背中に炸裂し、刺客を転倒させる。すぐに駆け寄り止めを刺す。
合計9人の敵だったが、あっという間に決着がついた。
「なんと?!おぬし魔法も使うのか?!」
「3人ずつか…。」
オジーの言葉も耳に入らず、インフェルノと俺の倒した敵の数を数える俺。それに対しインフェルノは、
「フン、雑魚は数のうちに入らん。」
「このやろう!獲物を横取りするし、すぐに新しいルールを作るし…。こうなったらどっちが強い敵をたくさん倒すか勝負だ!」
「望むところだ。」
俺の頭の中は当初の目的を忘れていた。そうして俺たちは薬草栽培所の門を突き破って突入した。




