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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第3章 ウィル・オー・ザ・ウィスプ
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63.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村9

「聞こえるか、ニーナ?」


『お!聞こえるぞ。誰だ?もしかしてインフェルノか?』


「そうだ。報告だが、無事に村の事件は解決した。予定通り明日の朝出発するので、よろしく頼む。」


『分かった。ところで、なんでお前から連絡があるんだ?バーンはどうした?』


「ああ、実は事件を調査していた際、襲って来た魔物をあいつより先に俺が倒してしまったら、バーンの奴がそれより強い敵がいないかと騒ぎだしてな。事件は解決したのに、あいつ『俺はウィル・オー・ザ・ウィスプを退治してくる!』って言って、この遠隔通話リモートトーキンの指輪を俺に預けて、一人森の中に行ってしまった。」


『何をしているんだ、あいつは………?』


「ああ。それにウィル・オー・ザ・ウィスプは、夜にならないと出ないというのにな。こんな午前中から森に行ったって…。」


 ニーナへの報告が終わると、インフェルノはジュリアたちの様子を確認に行く。そこには調査団の4名と、意識を取り戻したイアンの姿があった。イアンはベッドで半身を起こした状態で、食事をしている。まだ病み上がりのため、ただのスープだ。ベッドの横には、心配そうに見守るジュリアとローズが椅子に腰かけている。ゴーズとオジーは、部屋の隅で腕を組んで立っていた。


「無事に回復したようで良かったな。」


 声を掛けるインフェルノに、イアンは食事を中断しお礼を述べる。


「あ、こんな状態ですいません。助けていただいたそうで、ありがとうございました。」


「いや、いい。それよりなんであんなところに倒れていたか、俺にも教えてくれるか?」


 そして、イアンの口から今回の事件の顛末の説明がされた―――。


 ケブラーが麻薬の売買をしているという情報は、帝国内部でも薄々感づかれていたが、取引の現場を押さえても末端の仲介人ブローカーしか捕えることができず、黒幕として特定出来ずにいた。そこでケブラーの仕入れ先もしくは栽培している現場を押さえるよう、イアンは冒険者ギルドより極秘任務を与えられたという。そしてイアンは潜入捜査をするため、ケブラーが薬草栽培場を持つ、帝国本土より遠く離れたこの村まで護衛としてやってきた。しかし先に護衛として雇われていた者たちは、冒険者ギルドでも厄介者として知られる無法者たちばかりで、それだけでなく指名手配されているような犯罪者も何人か護衛に雇われていた。そんな連中に囲まれながら調査を行うイアンは、当然のごとくその行動を怪しまれた。

 そしてある日、護衛の無法者冒険者パーティーに、ケブラーからウィル・オー・ザ・ウィスプの討伐を依頼される。夜間森の中に出没するウィル・オー・ザ・ウィスプが、薬草栽培場に寝泊まりしている労働者に対して危険だという。ウィル・オー・ザ・ウィスプのことについてはよく分かっていなかったが、イアンは他の無法者冒険者たちと一緒に森に向かった。

 なかなかウィル・オー・ザ・ウィスプを見つけることはできなかったが、その棲み処に心当たりがあるのだといい、滝の裏にある洞窟に連れて行かれた。洞窟にはたくさんの白骨死体があり、無法者たちから、かつて村で働く事ができなくなった老人が殺された場所だと聞かされる。ケブラーのお陰でこの村は裕福になり老人殺しがなくなった、自分たちがどれだけ正しいことをしているかを熱く語られる。そしてそんな正しいことをする我々の邪魔をするお前には、死んでもらわなければならないと告げられる。そう、ウィル・オー・ザ・ウィスプ討伐というのは、イアンを殺すためのケブラーの罠だったのだ。やつらが言うには、ウィル・オー・ザ・ウィスプはシルバー階級クラスの冒険者では適わないくらい凶悪なモンスターだという。

 それでも腕には自信のあったイアンは、5人の無法者冒険者と対峙する。しかし最終的に、後ろからナイフを刺されてしまった。意識が遠のく時、洞窟の中からウィル・オー・ザ・ウィスプが現れた。無法者たちはウィル・オー・ザ・ウィスプは自分たちでは太刀打ちできないくらい凶悪なモンスターだと知っていたため、慌てて洞窟から逃げ出すが、イアンはそこで意識を失ってしまったそうだ。


 その後の状況から察するに、そのまま追われた冒険者たちはウィル・オー・ザ・ウィスプによって殺されたのだろう。


 そしてイアンは、偶然洞窟に辿り着いたバーンたちに発見される。ローズ曰く、本当ならいつ死んでもおかしくない状態だったが、仮死状態になっていて奇跡的に命を取り留めていたという。それでも発見があと一日でも遅かったら死んでいたかもしれないと言うローズの発言の後、ジュリアとイアンはインフェルノに心から感謝の言葉を告げる。


「あの夜あなたたちが、ウィル・オー・ザ・ウィスプを追って行かなければ、イアンを見つける事ができませんでした。本当に偶然が重なった奇跡だと思います。ありがとうございました。」


 涙目でそう告げるジュリアに対し、インフェルノは言った。


「そんな事を言ったら、この今あること全て偶然と奇跡の結果でしかない。俺たちが今ここで出会ったことも、そこに至るまでの全ての出来事がちょっとでも変われば今はなかった。そんなにたくさん奇跡ばかりおこるはずがない。だとしたらそれは偶然ではなく、必然だろう。イアンは助かる運命だったのだ。」


 そして同じようにインフェルノがバーンたちと出会ったことも、出会うべくして出会った運命なのだろうと心の中で思った。


 その後イアンを宿屋に残し、ジュリアたちはケブラーを連れてケブラーの邸宅の捜索を行いに行った。他の証拠を集めた後、ジュリアたちも明日の朝ここを発つそうだ。ケブラーは捕縛し翌日帝国に連れて帰り裁判にかけ、他にもあるであろう麻薬栽培所を探して今後根絶やしにするという。


 昼過ぎ、ジュリアたちと入れ違いでバーンが帰って来た。


「早かったじゃないか?ウィル・オー・ザ・ウィスプは諦めたのか?」


「はあ?倒してきたっつーの!」


「ウィル・オー・ザ・ウィスプは夜中にしか出ないはずだが?」


「洞窟の中にいたよ!火球ファイヤーボールを何発放っても当たらなくて焦ったけど、フレイムソードで一撃だったぜ!」


「そうか。…で、証拠は?」


「は?」


「魔獣討伐は、その死体の一部などの証拠を持って帰るのが鉄則だろう?ウィル・オー・ザ・ウィスプを倒した証拠は?」


「そんなんおまえ、じゅって蒸発して消えちまったから、証拠も何もねえよ!」


「それじゃ、本当に倒したかどうか分からないな。」


 インフェルノは、クスクス笑いながらバーンに言った。本当は倒したのであろうことは分かっているが、バーンをからかっているのだ。バーンは顔を赤くしながら怒り、必死でウィル・オー・ザ・ウィスプを倒したことを主張する。インフェルノにとって、それが事実かどうかはあまり重要ではない。そんな事よりもこの単細胞をからかう事が面白くて仕方がないのだ。ケブラーの刺客を我先に倒したのも、バーンがヒートアップするのが面白かったからだ。別に本気でこいつと競い合っていたわけでもない。


「うっせーな!じゃあ殺したら消えちまうモンスターの証拠なんて、どうすりゃいいんだよ!」


「ワハハハハ!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺がウィル・オー・ザ・ウィスプを倒して宿屋に帰って来て、その夜に酒場に村の代表者を集め今回の顛末の説明を行う事となった。ケブラーを逮捕したため、今後薬草栽培場は閉鎖される。その結果、仕事を失う者が出てくるであろう。仕方がないことなのだが、それを伝えなくてはならない。

 村の代表者たちがその村唯一の酒場に続々と集まってくる中、俺はニーナの姿も見つけ驚いた。


「ニーナ?!出発は明日の朝だって伝えてあったよね?」


「ああ。ちょっと話に加わりに来たんだ。」


 そう言ったニーナの姿は、先日までの服装と変わって、マントの下は、丈の長いふんわりとしたスカートに上品なジャケットを羽織っていた。


「新しい服を買ったのか?」


「ああ、私がセントラールの王より偉い立場になって、ブライトンが私にもう町民みたいな服装をさせておくわけにはいかないと言って、急きょ仕立て屋を呼んで作らせたんだ。お前に買ってもらった前の服も、動きやすくて気に入ってたんだけど…。」


「いやいや、いいじゃん。その新しい服も。」


「そうか?ふふふ…。」


 ちょっと照れたような顔でほほ笑む。褒めれれて嬉しいようだ。


「あれ?もしかして、新しい服を見せびらかしに来たんじゃないよね?」


「バカ!違うよ!」


 そう言ってニーナに脛を思い切り蹴られる。固いブーツのつま先がクリーンヒットし、俺は激痛に顔をゆがめる。


「うが…!!!」


「おまえたち!話を始めるぞ!」


 インフェルノにそう言われ、ニーナは酒場の中へ入ってゆく。俺は脛を押さえたまま激痛に耐えるのに必死だった。そうだった。ニーナをからかったら痛い目に合うのだ。


 おのおの自由な席に座ると、ジュリアから今回の調査の顛末の説明が始まった。ケブラーが薬草栽培場の奥で、毒草や麻薬草を栽培していたこと。もちろんそれは犯罪のため、ケブラーを捕えて帝国に連れ帰り裁判にかけること。おそらく村の薬草栽培場は閉鎖される事になるということを伝えた。

 村人たちは薬草の栽培しか関わっておらず、その奥にあった違法植物の栽培は、ケブラーがどこからともなく連れてきた犯罪者たちを使っていたため、村人たちを罪に問うつもりはないという事だ。


 これで事件は解決と思われたが、村人たちにとっては何も終わっていなかった。村人たちは、ケブラー逮捕を悲しんだのだ。これでまた仕事がなくなると。

 ケブラーが来るまで、とても貧しい村だった。ケブラーが逮捕されてしまえば、また貧しい村に戻ってしまうと村人たちは嘆いた。

 そこでニーナが話に割り込んできた。


「仕事なら、この先増えるぞ。逆に忙しくて困るほどにな。」


 その一声に、それまでざわついていた店内が一斉に沈黙する。そして村長が口を開く。


「何を言っているのですか?」


「先日、山道の工事を行った。山を切り開いて道を作ったので、セントラール王国まで1日で行けるようになった。これまでのような険しい山道ではなくなったため、物資の運搬も容易だ。山の向こうのフィックスで話をしてきたんだが、これまでは山脈を遠回りして船でしか運べなかったものが、今後はこの道を使う事で、安く早く流通させることができると言っていた。道を通る商人が増えれば、この村に寝泊まりするだろう。早めに宿屋を大きくしたり、旅人に売る物資の準備を進めた方がいいぞ。」


「嘘でしょう?そんな話信じられない!」


「嘘だと思うなら、自分で確認しに行ってみるといい。」


 目を丸くする村長に、ニーナはそう告げる。同じく信じられない表情のジュリアが俺に尋ねる。


「本当ですか?いったいいつからそんな壮大な計画を…?」


「本当だ。計画と言うか…成り行きと言うか…。」


「それとやはり森の中はやはり魔物の棲み処なので、なるべく行かない方がいい。両角熊ホーンドベアーを確実に退治できる腕がなければ、森の中の薬草栽培場は放棄する方がいいだろう。」


 最後のニーナの言葉も、これからの仕事を約束された村人たちは素直に受け入れた。


「ニーナの周りは本当に翻弄されるな。結果論になるけど、いつも良い結末を迎えている気がする。」


 その俺の言葉に、インフェルノが答えた。


「やはりそれも運命なのだろう。」


「運命の魔女か…。」


 そこでようやく村での一日が終わった。

 そして翌朝、俺たちは再び北へと旅立った。

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