58.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村4
俺とインフェルノと冒険者のジュリアの3人は、ウィル・オー・ザ・ウィスプを追って、森の中を川沿いに歩いていた。
俺はそんなに気にしていないのだが、ジュリアは横の茂みなどに野獣が潜んでいないかびくびくしながら歩いている。
「本当に気を付けてください。野犬とかならまだなんとかなると思いますが、両角熊が出たら逃げてください。3mを超す大型の両角熊の体重は1tを超すと言われています。突進されて体当たりされただけで人間は殺されてしまいます。」
「人里近くまでは降りてこないんだろう?」
「でも!我々は今、森の奥に進んでいるんです!」
「二人とも静かに。あそこを見ろ!」
インフェルノに言われ、俺たちの進行方向の先を見る。そこには宙に浮かんだ状態で静止している光る物体があった。
俺たちはそれを刺激しないよう、静かに近寄ってゆく。
近付くにつれ、だんだんとその物体の姿をはっきりと目にとらえる事ができるようになってきた。
その真っ白に光る光体は、人間の目線くらいの高度に浮かんでいた。思っていたよりも大きい。スイカ大くらいの大きさだろうか?
間違いないだろう。まさしくそれは、ウィル・オー・ザ・ウィスプだ。
「本当にいたな!」
「様子を見てくる。ちょっとここで待っていろ。」
インフェルノはそう言うと、剣を構えウィル・オー・ザ・ウィスプに一人近寄って行った。
ウィル・オー・ザ・ウィスプは地上1.5m程度のところに浮いており、現在は停止している。
インフェルノがあと少しでその剣の射程距離に入るという瞬間、ウィル・オー・ザ・ウィスプの光度が増し、膨らんだように見えた。次の瞬間、ウィル・オー・ザ・ウィスプから光線が発射された!
しかしインフェルノは冷静にそれを交わすと、踏み込んで刺突剣の一撃をくらわす。剣が突き刺さると同時に、また光線が発射された!今度は予備動作無しだった。それは間一髪交わしたインフェルノの服を焦がし、地面に照射された。
「インフェルノ!」
「大丈夫だ!」
ウィル・オー・ザ・ウィスプはくねくねと軌道を変えながら飛ぶと、森の奥に移動して行った。
「怪我はないですか?一応回復薬は持ってきましたが…。」
「服が焼けただけだ。やはりシルバー階級の冒険者パーティーを殺ったのはアレのようだな。」
「攻撃は効いたのか?」
「分からん。感触はあったが、どれだけダメージを与えられたのか…。それより2発目、あれはカウンター攻撃だ。うかつに攻撃するのは危険だ。なかなかやっかいだぞ。」
たったあれだけの攻防でそこまで見極めたのか?こいつ意外とすげえな…。
「でもどうする?これ以上追うか?危険ならやめておくか?」
「深追いはやめましょう!あれの存在の確認ができただけで十分です。明日、私が帝国に戻ってゴールド階級の冒険者に、ウィル・オー・ザ・ウィスプ討伐のための出動を要請してきます。」
「いや、追おう。今度は俺が戦ってみる!」
ウィル・オー・ザ・ウィスプ追跡に反対するジュリアに対し、俺はそう言って虚空からフレイムソードの引き抜いて見せる。
「魔法剣なら倒せるかもしれない。これでダメなら今日は引き返そう。」
「魔法剣?!」
何もない場所からフレイムソードが現れた事に、ジュリアは驚いていた。それもそうだろう。俺だって、未だにこの仕組みはよく分かっていない。
「本物の魔法剣ですか?!すごい…!帝国のプラチナ階級の冒険者の中には魔法剣使いがいるという話なら聞いたことがあるのですが、この目で見るのは初めてです!確かにそれなら…でも深追いは禁物です!くれぐれも気を付けて下さいね。」
このままウィル・オー・ザ・ウィスプ追跡を続けることをジュリアに納得してもらい、俺たちは再び森の奥へ足を進めた。
「冒険者パーティーが全滅したという場所もこの近くです。やはりウィル・オー・ザ・ウィスプはこの辺りに生息しているのでしょうね。」
ジュリアの説明を聞いていたその時、頭の中で誰かの声が聞こえてきた。
『バーン?』
遠隔通話だ。
「ニーナか?!」
『お!繋がった。バーン。アルカードがウィル・オー・ザ・ウィスプについて知ってるって言うんだけど、今大丈夫?』
「ああ。」
『じゃあ代わる。』
ジュリアからは、俺が突然独り言を始めたように見えたようだ。何を言っているのだろうという顔で、首を傾げる。インフェルノが、魔法で遠くの仲間と会話しているのだと説明すると、そんな魔法聞いた事がない!と、またひどく驚いた。
俺は、アルカードと遠隔通話で会話を始める。
『バーンか。私だ。吸血紳士アルカードだ。』
「自分で紳士とか言うなよ。」
『貴様、人間風情が私に対して偉そうな口を利くなよ。ニーナ様から頼まれて、しぶしぶ貴様に情報を提供してやるのだ。本来ならば、下等生物の貴様にこの高潔な吸血鬼たる私が話しかけてやる事などないのだぞ。感謝をするんだな!』
「はいはい…。んで、おまえ、ウィル・オー・ザ・ウィスプについて知ってんの?」
『当たり前だ。私は不死者の頂点たる吸血鬼だぞ。大抵のアンデッドモンスターの生態は把握している。たとえばゾンビというのは蘇った死者全体を指す名称で、細かく言うといろいろな種類がいる。ただ徘徊するだけの徘徊者もいれば、生きた人間を食らう食肉鬼という危険種もいる。だからアンデッドというのは一括りに語れるものではなくてだな……』
「いやいや!今はゾンビの話はいいから!早くウィル・オー・ザ・ウィスプについて知ってる事を話せよ!」
『貴様さっきから…いい加減にしろ!!今から殺しに行くぞ?!あがっ!?パ……パンドラ様?!申し訳ございません!!グエッ!折れる折れる…やめてくださアギャーーーーアアアアアアアアアアア!!!!』
…………。しばしの沈黙。
『バーン、いいか、ウィル・オー・ザ・ウィスプとはな…、』
何事もなかったかのように会話を再開するアルカード。
通話の向こう側で何が起こったか、なぜか手に取るようにわかってしまうのが怖い。
まあ、お陰でアルカードは要点を話してくれた。
『一般に死者の魂と思われているが、人魂とは別の種族だ。ウィル・オー・ザ・ウィスプは、恨みを持って死んだ人間たちの怨念が集まってできる。つまりは怨念の集合体のような生命体だ。かつての戦場の跡地や処刑場、墓場など、たくさんの人間がこの世に未練を持って死んだ場所に出現することが多く、あとは沼地でも目撃例は多いな。大きさは万別だが一般には直径30cm大の、光を発する球体の姿をしている。その体は高熱で、体当たりを仕掛けてきたリ、光線を飛ばして攻撃をしてくる。光線は高熱のため、人間ならば急所に当たれば一撃で殺されてしまうだろう。物理攻撃は有効だが、気を付けなければいけないのは反射攻撃だ。物理攻撃を受けた瞬間、攻撃を受けた側に光線を発射する。そのカウンターで殺される人間が多いという。戦うのなら攻撃力の高い武器で一撃で倒すか、遠距離攻撃や魔法で攻撃するのだな。一説では氷魔法によって反射攻撃もなく用意に討伐できたという話も聞いたことがある。』
「なんだよ!そんなに知ってるならもっと早く言えよ!もうちょっとで殺されるところだったよ。」
『なんだ?貴様ウィル・オー・ザ・ウィスプと遭遇したのか?今どこだ?墓場か?ウィル・オー・ザ・ウィスプが出る場所は他のアンデッドが出る可能性もある。沼地だと沼に引き込もうとするという。とにかく気を付け…』
「ありがと、じゃあな。」
アルカードは話し足りなさそうだったが、話が長いので通話を切った。
インフェルノとジュリアに、今アルカードから聞いた情報を伝える。
「そうか。行方不明のイアンとかいうやつの霊というわけでもないのだな。だとしたら心置きなく殺してしまおう。アンデッドに殺すという言い方はおかしいかもしれんが。」
インフェルノは殺る気満々だ。
「あの…、もしかしてバーンさんって、すごい人なのでしょうか?」
「へ?」
「魔法剣をお持ちで、離れたお仲間と魔法で話されたり…。もしかしてセントラール王国の有名な魔法騎士様でしょうか?だとしたらそれを知らずに、これまで失礼な態度を取ってしまって申し訳ありません。」
「違う違う!こいつはそんな大層な人物ではない。こいつの主人がすごいのだ。こいつは言っても中の上程度のただの剣士だ。」
「なんだよ!せっかく褒めてくれたのに。」
「バーンさんのご主人とは?」
「ああ、俺の主人は、セントラール王国の守り神、千年の森の魔女ニーナという。この炎の剣も、遠隔通話ができる指輪も、ニーナからもらったものなんだ。」
「セントラール王国には、そんなにすごい魔女様がいるのですね!知りませんでした。バーンさんも山脈の北のこちら側の事はあまりご存知ないと思いますが、私たちも南側とは交流がないので。」
「まあまあ。今はウィル・オー・ザ・ウィスプを追おうぜ。」
「それにしても墓場などに出現するという情報が気になるな。ここはただの森。あまり人の怨念が溜まる場所とは思えんが。」
「確かに…。」
インフェルノの疑問を説明できる理由は思いつかなかったが、とりあえずウィル・オー・ザ・ウィスプの生態は詳しく分かったのだ。今から追って、一気に討伐してしまいたい。それが出来れば明日この村を出発できるのだから。
俺たちが川沿いをさらに30分くらい歩き、再びウィル・オー・ザ・ウィスプを発見したのは、滝の前だった。
ウィル・オー・ザ・ウィスプは川の上を浮遊しており、滝に向かって移動してゆくと、そのまま滝の中に入って行ってしまった。
「逃げられましたね…。」
「うーん…。でも今滝の中に入って行ったよな?滝の裏に空間があるのかな?」
その後、俺たちは滝の横の崖を調べると、滝の裏側まで続く歩行できる足場を見つけた。
俺たちはその足場を伝い、滝の中に向かっていった。
ウィル・オー・ザ・ウィスプというモンスターについてはいろいろな設定があると思いますが、この物語においては今回の説明のようなアンデッドモンスターという設定とさせてもらいます。




