57.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村3
部屋に入ってインフェルノと二人になったところで、俺はニーナに遠隔通話の指輪で連絡を取った。
「ニーナ、今大丈夫か?」
『お?バーン!おまえから遠隔通話かけてくるなんて、珍しいな!指輪あげてから、使うの初めてじゃないか?』
「そうだな。ちょっと聞きたい事があって連絡させてもらったんだけど、ニーナはウィル・オー・ザ・ウィスプって知ってるか?」
『珍しいモンスターの名前だな。私も名前しか聞いたことがないかな。』
「そうか。実はこの村でシルバー階級の冒険者パーティーが全滅したんだけど、ウィル・オー・ザ・ウィスプに襲われたんじゃないかって話なんだ。冒険者ギルドから全滅の原因の調査団が来ていて、俺たちも調査が終わるまでこの村から出させてもらえないらしい。それで明日は調査を手伝うことにしたんだ。」
『そうか。私の手助けは必要か?』
「いや、それは俺とインフェルノでなんとかするよ。」
『そうか。じゃあさっさと解決してくれ。明日出発できないなら、私は明日一日こっちにいるから。出発する時にまた連絡してくれ。』
そう言って通話は終了した。俺が必要ないと言ったら本気で手伝ってくれないらしい。いや、いい、それでいい。なんか俺ここまで一人で活躍した場面がないような気がするし。ニーナに頼り切りでは強くなれない。今回こそは自力で活躍しよう。
「話は終わったか?」
部屋にいたインフェルノが言う。
「ああ。」
「それじゃちょっといいか?バーン、おまえあれは何だと思う?」
部屋の窓から見える外の景色は、月明りが村を照らしていた。田舎の夜は早い。どの家も明かりがついておらず、もう就寝しているのではなかろうか?インフェルノが指さしている方には小川が流れていて、水面にはゆらゆらと月明りを反射していた。
「ん…?」
水面の月影とは別に、何か発光している物体がある。
「なんだあれ?誰かがいるのか?いや…、あれは、人間じゃないな。」
遠くからなのでよく分からないが、その光はふわふわと移動している。明らかに人間がランタンをかざしているのとは違った動きだ。もしかしてあれが噂のウィル・オー・ザ・ウィスプかもしれない。
「確認しに行くか?」
俺の意見を確認してくるが、その答えは分かり切っているだろう。
「ああ、行こう。」
俺とインフェルノは装備を整えると、部屋から飛び出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ジュリアはローズと同室だったが、ローズが先に風呂へ向かったため、ベッドに一人座り、これまでの出来事を振り返っていた。
ジュリアとイアンは、冒険者ギルドで出会った。パーティーを組み一緒に地下迷宮を探検することも何度かあった。イアンは有望なルーキーとしてとんとん拍子にシルバー階級まで上がって行った。自分もイアンを追いかけるようにブロンズ階級まで上り詰めた。
そんなイアンの死の連絡を聞いた時は耳を疑った。正直ジュリアは未だにイアンの死を受け入れられていない。
ケブラーより、雇った冒険者パーティーが全滅したという連絡があったが、イアンの死体はまだ見つかっていないという。ジュリアは、捜索をギルドに申し出たが、取り合ってもらえなかった。
今回のシルバー階級パーティー全滅は、帝国内での出来事ではなく、辺境の小さな村の出来事という事で、大きな問題として取り上げてくれなかったのだ。そのため自分が中心となって声を掛け、イアンとも顔見知りのゴーズ、ローズ、オジーにも来てもらった。だがもしも本当にウィル・オー・ザ・ウィスプが出て、それがシルバー階級の冒険者では手に負えないモンスターだと分かったら、帝国に戻りゴールド階級の冒険者を呼び寄せなくてはいけない。
とにかく自分がしっかりと調査をしなければ。
そんな考え事をしていると、部屋の外からガタガタという物音が聞こえてきた。こんな時間になんだろうと気になり寝室の扉を開けると、装備を整え階段を下りてゆこうとするバーンとインフェルノを見つけた。
「あなたたち、こんな時間にどこに行くの?!」
「川辺に光る物体を見つけたんだ。確認してくる。」
「ちょっと待って!」
ジュリアは仲間を呼ぼうとするが、その間に彼らはどんどん行ってしまう。慌てて外套だけ羽織って一人で付いてゆく。
「待って!私も行きます。」
「怪我しても知らんぞ。」
「はい。」
インフェルノが冷たい一言で突き放す。ジュリアは自分の能力が仲間より劣る事は理解している。そんな自分に対して、何かあってもこの人は守ってくれないと言っているのだ。だからと言って付いていかないという選択肢はない。ジュリアは、自分の恋人の生死を、本当に死んでしまったのならその真実を、この目で確認したいのだ。
少し落ち込んだ顔をするジュリアに、バーンが話しかける。
「本当に足手まといになるようなら、あいつは付いてくるなって言うよ。そこまで落ち込まなくてもいい。」
「あ、ありがとうございます!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺たちは宿屋の窓から光が見えた辺りまでやって来たが、近くにウィル・オー・ザ・ウィスプらしき光は見当たらなかった。
「この辺だと思ったんだけどな…。」
「あの光は動いていたから、どこかに移動してしまったのかもしれないな。」
「この川の上流が例の冒険者パーティーが全滅した現場です…。」
「行ってみるか?」
「でも夜中に森の中に行くのは危険です…。」
「だってさ、バーン。お前の意見は?」
「行こう。ジュリア、君は戻るか?」
「わ、私も行きます!」
「危ないと思ったら一人でも逃げろよ。」
「はい。」
そうして俺たちは、夜の森へ足を踏み入れていった。




