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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第3章 ウィル・オー・ザ・ウィスプ
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55.ウィル・オー・ザ・ウィスプの棲む村1

 フィックスを出た俺たちは、北の山脈を越えふもとの小さな村に辿り着いた。

 ニーナは一旦フィックスに戻り、俺とインフェルノ、そして同行のセントラールの騎士4名を合わせた6人はこの村に泊まるため宿屋を見つけ入ってゆく。すると建物の一階にある酒場がなんだか騒がしいのが気になった。


「すいません。6名なんですが、部屋は空いてますか?」


「いらっしゃいませ。2人部屋を3つでいいですか?6名様朝食付きで570Gになります。」


「はい、それでお願いします。」


 今回の旅路の費用は、ニーナの口利きで全額国が負担してくれることになっている。一人100Gくらいだと少し高めな気もするが全然余裕だ。


「ありがとうございます。お部屋を準備させてもらいますので、30分くらいお待ちください。」


「ところで、なんだか騒がしいようですが、何かあったんですか?」


「はい…、お客様たちもいろいろ聞かれるかもしれませんが、実は先日冒険者パーティーがこの先でモンスターに襲われて全滅したんです。それもシルバー階級クラスのパーティーが。それについて雇い主のケブラー氏のところに、近くの冒険者ギルドから調査団が状況の確認に来ているのです。」


「シルバー階級クラスの冒険者パーティーが全滅?!」


 冒険者には全部で7つの階級クラスがある。

 最上位に、国家から認定されるプラチナ階級クラスというものがあるが、天災級のモンスター討伐など、国家事業を優先的に行う特別な階級だ。国家お抱えの冒険者として、他の階級クラスとは一線を画す。

 その例外を除くと、冒険者ギルドで認定されている階級クラスは6つとなる。その6つの内、1級となるゴールド階級クラスは、ギルド内で最高レベルの特殊なクエストを専門に行う階級クラスで、その人数も数えるほどしかいないという。一般に依頼できる冒険者で最高レベルなのが、その次のシルバー階級クラスの冒険者という事になる。

 その下にまだ4つの階級クラスがあることから分かるように、シルバー階級クラスの冒険者とはとても強い。

 クエストに慣れていないレベルの低いパーティーが全滅するというのはよくある話だ。パーティー編成のバランスが悪かったり、慣れない冒険の引き際を間違えることも多い。だがシルバー階級クラスの冒険者パーティーが全滅したという話は、正直聞いたことがなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 宿屋の一階の酒場では、太った男が座ったテーブルを、4人の男女が取り囲んでいた。

 太った男は、こんな辺鄙な村にはふさわしくない、仕立ての良い立派な服を着ている。見るからに金持ちそうだ。

 そして取り囲んでいる人間は、屈強な肉体、使い込まれた革の胸当てや腰に下げている剣などの装備からして冒険者だ。

 さっきの店主の話からするに、太った男が全滅した冒険者パーティーの雇い主で、取り囲んでいる男女が冒険者ギルドから遣わされた調査団で間違いないだろう。


「だから文句を言いたいのは私の方だ!護衛のために高い金を払ってやってるのに全滅されて迷惑を被ってるんだ!」


 太った男が大声を上げる。


「ですがケブラーさん、シルバー階級クラスの冒険者パーティーが全滅するなど前代未聞です。あなたの指示した任務が不適切でなかったかという疑いがあるのです。もっと詳しい事情を聞かせてもらわないと。」


「だからなんで私が責められなければならないのだ!あいつらが勝手に行動して勝手に全滅しただけだ!私は何も知らん!」


 取り付く島もないといった感じだ。


「不愉快だ!帰らせてもらう!行くぞ!」


 太った男はお供の人間を引き連れ、宿屋を出て行ってしまった。

 残された冒険者たちは途方に暮れた顔をしていたが、俺たち一行を見つけると声を掛けてきた。


「失礼ですが、あなたたちは?」


「俺たちはセントラール王国から来ました。彼の故郷のマインステート王国へ向かっている途中です。」


 そう言うと、冒険者同士で少し話し合ってから俺たちに困った事を告げた。


「実は先日冒険者パーティーがこの近くで全滅しました。死因がはっきりわかっていないため現在調査をしています。もしかしたら殺人事件の可能性もあるため、調査が終わるまでこの村から出ないようにしてください。」


「ちょっと待って!そんな横暴な。俺たちは急いでるんだ!」


 冒険者たちの一方的な通達に俺が声を荒げると、意外にも急いでいる本人のインフェルノが口を挟んだ。


「どうでもいいが今店主に聞いたところによると、全滅したのはシルバー階級クラスの冒険者パーティーだそうだな?見たところお前はブロンズ階級クラスじゃないか?本当にそいつらを全滅させることができたモンスターがいたとしたら、お前たちだけで対処できるのか?」


 冒険者はドッグタグを胸に下げている。ドッグタグには死んだときに身元が分かるよう名前などが刻印されているが、ドッグタグは階級クラス毎にその名前の材質が使われているため、ドッグタグを見ると階級クラスが分かるようになっている。この調査団にはシルバー階級クラスの冒険者が3名いるが、今話している女性冒険者はブロンズ階級クラスのようだ。

 ブロンズ階級クラスと言っても、シルバー階級クラスの次のランクであり、パーティーを組んで中型モンスターの討伐を行うレベルのため、そこそこの手練れと言える。


「それは…われわれの目的は調査だけなので……」


 返答に詰まる冒険者。


「お前たちに任せていたら、俺たちはいつまでたってもこの村に足止めされそうだ。俺たちが調査を手伝ってやろう。」


「え?!」


「え?!」


 驚いたのは冒険者たちだけでなく俺もだ。何言ってんのインフェルノ?!


「さあ、まずは今分かっているところまで教えてもらおうか。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 まずは冒険者たちが自己紹介をしてくれた。

 先ほどから話をしている髪の短い女性は、レンジャーのジュリアと名乗った。驚くことに唯一のブロンズ階級クラスの彼女がこの調査団のリーダーを務めているという。調査の担当はジュリアで、他の3名は戦闘がメインなのだそうだ。そのためそれなりに強い3名だという。

 顔もそうだがゴリラのような筋肉質な男は、戦士のゴーズ。まだ若いがベテランの戦士だそうだ。身長は俺と大差ないが、力比べでは絶対に負ける自信がある。とにかく筋肉がすごい。

 他の2名は魔法使いだった。灰色のローブを着た老婆は、治癒魔法使いヒーラーのローズ、黒いローブを着た老人は黒魔法使いのオジーと名乗った。

 全滅したパーティーには魔法使いがいなかったため、魔法を使うモンスターが現れた時のために魔法使いを連れてきたらしい。


 俺たちも無難に自己紹介をする。この村には道中たまたま立ち寄っただけだという事を強調しておく。


「で、全滅したパーティーの死体は確認できたのか?」


「はい、それが、死体が見つかったのは6名のうち5名だけで、もう一人は川に落ちたのではないかと言われています。死因はまだはっきりわかっていないのですが、致命傷となっている傷は、5名とも体に穴が貫通していて、穴の周りは焼け焦げていました。焼けた剣を突き刺したか、魔法によるものではないかとみています。」


 いつのまにかジュリアは敬語になっている。インフェルノの口調が怖いためだろう。


「だとすると同じ敵に殺られたということだな?6名を殺したと思われるモンスターに心当たりは?死体の発見現場はどこだ?」


「死体が発見されたのは、森の中の川沿いです。そしてその川には、昔からウィル・オー・ザ・ウィスプが出ると言われているそうです。」


「ウィル・オー・ザ・ウィスプ?」

※通貨単位が少し前の設定と違っていたので訂正します。

Sエス=銅貨1枚=10円

Gジー=銀貨1枚=100円

100G=金貨1枚=1万円

目安としてだいたいこれくらいのイメージとします。

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