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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第3章 ウィル・オー・ザ・ウィスプ
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54.ユーフォリアとフローレンス

「妹を知っているのか?!」


 ガタッと音を立てて思わず立ち上がるインフェルノ。その音に、テーブルを囲む仲間たちだけでなく、カフェ店内にいる他の客たちも注目する。そんな周りの視線に気づくと、


「あぁ、すまない…。」


 そう言って、慌てて着席する。


「こんな遠くの国に妹に知り合いがいるなんて、初めて聞いた。君は妹とどういう関係なんだ?」


 インフェルノの勢いに圧倒されているユーフォリアは、怯えながらゆっくり口を開いた。


「あ、あの、驚かせてすみません。いえ、その知り合いというわけではなくて…。ちょっと信じられない話かもしれないのですが…。私、夢の中でフローレンスと会ったんです。」


「夢?」


「ご、ごめんなさい。すいません、だから…。」


「その夢はどんな夢だったか教えてくれないか?」


 夢だと聞いても真剣な表情を崩さないインフェルノ。そんな彼に気圧され怯えながら、ユーフォリアはおどおどと話し始めた。


「は、はい。あの、さっきも話しましたが、私も少し前まで病気でずっと眠っていた時があったんです。その時に夢の中で会ったんです。その、あなたの妹さんかどうかは分からないんですが…。」


 あまりに真剣なインフェルノに、ただの夢の話のため怒られないか不安な表情のユーフォリアは、テーブルの他の人に困った表情で助けを求める。そんな彼女にパンドラが声を掛ける。


「ユーフォリア、どんな話でもいいから聞かせて。大した情報じゃなくてもいいのよ。」


 そうパンドラから言われると、ユーフォリアはちょっと安心した表情になり、続きを話し始めた。


「本当に夢の中の話なので、はっきりしないところもたくさんあるんですが、夢の中で、大きな邸宅の庭で彼女に会ったんです。庭には噴水があって、美しい真っ白な薔薇の咲いていて、テーブルのところにあなたと同じような明るいブロンドの髪の少女が座っていました。」


「おそらくオレの家だ…。」


「お前の家にも白いバラが?」


「ああ…。」


 ユーフォリアの見た夢を、真実と信じて疑わないインフェルノ。ユーフォリアの話は続く。


「彼女は私に気付くと驚いた顔をしていましたが、私が挨拶をすると嬉しそうに挨拶を返してくれました。彼女は私と会うまでずっと一人でそこにいたらしくて、だから私を見てびっくりしたそうです。久しぶりに人とお話できて嬉しいと言ってくれました。彼女は最初真っ暗な場所に居て、とても不安だったそうなんですが、毎日お兄さんの声が聞こえてきて、それで今いる庭に辿り着いたと言っていました。彼女の名前はフローレンス、お兄さんの名前がインフェルノという言っていたのを覚えています。後は、彼女と私は同い年で、お互い貴族の娘として生まれてきたというところが一緒だったので、そんな愚痴というか、不満を話し合ったりしました。どうせ将来は政略結婚するんだろうとか、好きな人と恋愛してみたいとか。あと彼女にはお兄さんが、私には弟がいるので、兄弟に対する不満とか。そんな話です。」


「そうか。そんな事を言ってたのか…。」


 少し嬉しそうな顔をするインフェルノ。


「他には何か話してなかったか?」


「ずっとここから出られなくて寂しいと。でもきっとお兄さんが助けに来てくれるはずなので待っていると言っていました。」


 それを聞いたインフェルノは、思わずがばっとユーフォリアの手を握った。ビックリするユーフォリア。


「もしまた夢の中で妹と会ったら、必ず助けに行くと伝えてくれるか。」


「あ、はい。あの……手…。」


「ああ、すまない。取り乱してしまった。」


 慌てて手を離すインフェルノ。プリンを食べているニーナが、スプーンでインフェルノを指さし話始める。(※お行儀悪いですよ)


「今の話が本当におまえの妹本人だったら、助かる可能性が少し見えてきたな。もし体だけ生きていて、心が死んでしまっていたら二度と目覚めることはないと思う。だが夢の中でしっかり生きているなら、その心を肉体に呼び戻してやれば良いだろう。ユーフォリア、また夢で会う事があったら私に教えてくれ。」


「はい!」


「そうか!それは嬉しい情報だ。こんな場所でそんな情報が聞けるとは思わなかった!本当にありがとう!」


 嬉々としたインフェルノにまた手を握られそうになり、ユーフォリアは慌ててテーブルの下に手を隠す。


「あはは…。」


 ともかく有益な情報が聞けてよかった。


 その後も積もる話は多く、いろいろと雑談が続いた。

 席を立つ時、ユーフォリアが俺にこっそり話しかけてきた。


「ねえねえバーンさん。あの人ってヤバくないですか?」


「ん?インフェルノか?」


「ええ。顔はイケメンだけど、妹さんの話になると目が血走りますよね。なんかすごい残念な感じ。」


「ああ、確かに。そもそも妹を助けるためにこの国まで戦争しに来たのも、操られてたって言うけど本人の意思なんじゃねえかな?」


「うっわー。」


「ヤバいよな。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その日は俺たち一行はまたブライトン卿の邸宅に泊めてもらう事にし、翌日の出発の準備をしていた。


「ええ?山を越えるだけで1週間以上もかかるのか?」


 ニーナが大きな声で叫んだ。

 これから向かうインフェルノの国へ行くには、まずは王国の北側にそびえる山脈を越えなければならないのだが、どうやらその山を越える事がとても大変だという話をしているらしい。


「そうです。それでもこの道が一番早いのです。それでもとても険しい山ですので馬車でおおよそ1週間以上はかかってしまうのです。」


「やっぱり空を飛んで行こう?」


 それは俺が強く拒否させてもらった。

 馬車の御者をしてくれている騎士とニーナは、他の方法はないかといろいろ話し合う。


「もし山がなくて平坦な道だったらもっと早いのか?」


「そうですね。山を切り崩して平坦な道ができれば、山の向こうまで1日で行けるかもしれませんね。でもとても高い山ですから、人間の力では百年かかってもそんな工事は終わらないでしょう。ですので…。」


「ちょっと地図を貸してくれ。」


 ニーナは話を遮って地図を奪うと、それをじっくりと見る。


「出発をちょっと遅らせてくれ。少し様子を確認してくる。」


 そう言うとニーナは一人で飛び出して行った。

 そんなニーナを見送った騎士は俺に言う。


「どこへ行ったんですかね?」


「さあ?」


 ニーナが帰ってきたのは、ずいぶん遅い時間になってからだった。


「よし、明日の朝予定通り出発しよう。」


 翌日俺たちは信じられないものを目にする。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝、この街に残るパンドラと、ブライトン、ユーフォリアたちに見送られ、俺たちの乗る馬車は出発した。

 パンドラと別れたため、客室馬車には俺とニーナとインフェルノの3人が乗車している。

 フィックスの北門を抜け道沿いに北上する。少し行ったところを曲がるとサリィの住む村に行く道があるが、そのまま通過する。

 そして、山が険しくなる方へ向かう。


 セントラール王国の北部、この大陸の中央を分断するように東西に大きな山脈がある。険しい山脈が大陸を分断しているため、北側と南側との国交は少ない。

 俺自身も南側で生まれ育ったため、山脈の北側に行くのは今回が初めてだ。山を越えたところには荒野に都市国家が点々とあり、さらにその北方には広大なバスク帝国、そしてバスク帝国から北東方向にインフェルノの故郷である北方連合国家がある。北部へ行くには西の海を船で行くのが一番安全なのだが、遠回りになってしまい、そこそこ日数がかかってしまう。そこで少し道中大変になるが、俺たちは山越えの道を進んでいるのだが…。


「嘘だろう…?」


 御者の驚きの声が聞こえてきたため、俺の座っている座席の後ろ側、馬車の進行方向の客室の窓を開けて確認する。


「どうかしましたか?」


 返事を聞くまでもなく、目の前の景色を見て御者の驚いた理由を知る。

 山が削り取られ、ゆるやかな勾配の道が真っすぐに続いているのだ。

 まだ踏み固められていない茶色い土がむき出しになっている。削り取った量の多いところは、左右の山崩れを防ぐために岩が乱暴に積み重ねられている。


「ニーナ?!」


 俺は昨日の夕方ニーナが外に出ていた理由に気付いた。


「走りやすいだろう?」


 御者から声が掛かる。


「もしかしてこれはニーナ様が?」


「そうだよ。」


 ケロッとした顔で肯定するニーナ。ニーナは昨日のうちに魔法で山道を削り出してこの道路を作ってしまったのだ。普通にやったら何十年…、いや百年以上かかってしまうであろう工事をたった半日でやってしまったのだった。


「恐ろしいな…」


 口数の少ないインフェルノも呆れた顔をしていた。


 ニーナの作った道を通り、山の向こうの村に着いたのは日が暮れる頃だった。これまで1週間くらいかかって、それも大変な山道を越えないと行けなかった場所に一日で行けるようになったという事は、今後山の南北の交流が増え、この道は発展するかもしれない。


 峠を越えた先の村に着いたのは日が沈んでからだった。この村はどこの国家にも属していない貧しい村だそうだが、一応山越えの道の通り道だったため宿屋などもあると聞いている。

 ニーナはしっかりした宿泊施設がある町なら一緒に泊まるそうだが、今夜はフィックスに戻るという事で転移門ゲートの魔法で帰って行った。


 宿屋を見つけると俺たちは入って行った。二階が宿泊施設、一階が酒場になっているようだった。なんだか人が多い。いつもこうなのだろうか?なんだかとても騒がしいが、その雰囲気が賑やかなのではなく、尋常ではない雰囲気だということに、すぐに気づいた。


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