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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第3章 ウィル・オー・ザ・ウィスプ
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52.夜明け

 セントラール王国を襲った悪夢の一日から、一夜が明けた。

 どんな出来事があろうとも、太陽はまた同じように昇る。


 インフェルノは冷たい牢獄で一夜を明かした。

 牢獄の天井近くにある小さな窓から、部屋に朝日が差し込む。目を覚ましたインフェルノは毛布にくるまった体を起こす。冷たい石のベッドで寝ていたため少し体が痛い。

 この毛布は、インフェルノの凶行を止めてくれた男、バーンが夜更け前に訪れた後、差し入れされた。おそらくバーンあいつの指示だろう。インフェルノはあまり人に弱みを見せるタイプの人間ではないが、その厚意に甘え毛布にくるまって寝た。バーンに「魔女に妹を助けてほしいと伝えたい」と話し「分かった。」と言われた後、ひどく安心した自分がいた。正直その夜は眠れないと思っていたが、今度こそ妹を助けてもらえると確信した安心感に、インフェルノは久しぶりに深い眠りについた。そういえばしっかり眠ったことなど長い事なかった気がする。


 目を覚ましてから少しすると、兵士が牢の鍵を開けた。


「出ろ。」


 インフェルノは、おそらく死刑になるだろう事を自覚していた。

 インフェルノは、セントラール王国という大国に対して一人で牙を向き、襲い掛かった。騎士団長に瀕死の重傷を負わせ、城門を破壊した。亡霊ファントムに操られていたとは言え、一人で戦争を起こしたという事は事実だ。建前としても罰を与えなければ国家として示しがつかないだろう。

 しかしおそらくそれだけで済むと予想している。インフェルノの故郷であるマインステート王国は、大陸北部にある連合国家の内の一国であり、この国とは遠く離れていて国交もほぼない。だからセントラール王国がマインステート王国に圧力をかけようとしても大したことはできない。また単純に敗戦の責任を取らせようとしても、俺の事はマインステート王国と関係ないと切ってもらえれば国家間はそれで済むだろう。その場合、見せしめのためにインフェルノの死刑は確定だろうが。あと一つ心配なのは、自分がこうなったことで、家の爵位ははく奪になると思う。妹を助けてもらったとしても、その後貧しい生活をさせることになる。だが命には代えられない。妹には貧困に耐えてもらって、強く生きてほしい。そう考えていた。


 今兵士に連れて行かれる先が死刑台でないことを祈る。もしそうだったら少し暴れるつもりだ。そもそも今手かせも何もなく兵士の後ろを歩かされている。今兵士に襲い掛かれば簡単に剣を奪い逃走できるだろう。この国の平和ボケは重症なのだろうか?

 多分面倒な裁判はなく死刑になるだろうが、だが昨夜バーンと約束したのだから、死刑台に行く前に魔女に会わせてもらえるはずだ。

 本当は目の前を歩く兵士にどこに連れて行くのか質問するのが早いのだが、言葉少ないインフェルノにはそれができなかった。

 そして黙って連れて行かれると、建物の外に出た。外はとても心地よい快晴だった。祖国と違ってこの国の気候は暖かい。そして少し歩いて先の角を曲がると、そこの建物の玄関に大きな馬車が2台停まっていた。そしてその前には数人の人影が。


「おお、来た来た。おーい!」


 それはバーンの声だった。バーンと、二人の女性、数人の兵士がいた。兵士はそこまで案内すると、インフェルノの身柄をバーンに預けて戻っていった。


「それじゃ行くか!」


「どこに?」


「おまえの故郷にだろ?」


「はあ?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 インフェルノの故郷へと向かう馬車の中、インフェルノはクッション性の良い真っ赤な革張りの座席に座っている。隣にはバーンが。対面の席には女が二人座っている、一人は黒髪、一人は珍しい銀髪だ。二人ともまだ若い。というか、この馬車だ。中は広く、車輪のクッションが高性能なのか、揺れが少ない。つまりとても快適だ。貴族の生まれのインフェルノでさえこんな立派な馬車には乗ったこともない。


 馬車の中はなぜか沈黙が続いている。全員誰かが話始めればいいと思っているのだろうか?一番説明してほしいことがたくさんあるのは自分だが、聞かなきゃ説明しないつもりか?

 インフェルノが、悔しいがやはり自分から聞かないとダメかとイライラしていると、ついにバーンが紹介を始めた。


「ニーナ、パンドラ、こいつがマインステート王国のインフェルノだ。インフェルノ、こっちの二人は、千年の森の魔女ニーナと、純血吸血鬼バンパイヤオリジンパンドラだ。」


「?!」


 インフェルノは目を見開く。まず魔女と紹介された女。まだ10代半ばの小娘にしか見えない。だがもしかしてこの娘が…


「この娘が亡霊ファントムを倒したという魔法使いか?!」


 まさか信じられないという表情でインフェルノが問う。


「そうだ。」


「そうか…。で、もう一人は何と?」


純血吸血鬼バンパイヤオリジンのパンドラだ。」


「よろしくね。」


「俺の聞き違いでなければ、吸血鬼バンパイヤと言ったか?」


「そうだ。」


 普段あまり表情を崩すことのないインフェルノが、複雑な表情をして一同を見回す。3人は黙ってインフェルノを見つめる。


「そうか。もう何があっても驚かん。ここにいるという事は味方なのだろう?インフェルノだ。二人ともよろしく頼む。」


 何か納得した顔で挨拶をするインフェルノ。


「インフェルノ、一応言っておくが、これから国外へ向かうわけだが、国外で二人の事はあまり公にしないでほしい。騒がれても困るので。」


「ああ、こんなに若い娘が大魔法使いと吸血鬼バンパイヤだと知れたら、どこの国でも大騒ぎになるだろうな。分かった。それで、俺の事情は伝えてもらってあるのか?」


 そこでニーナがやっと口を開く。


「聞いているぞ。妹が眠り病という病にかかっているそうだな。私にもそれがどんな病気なのか、治せるのか治せないのか、実際に会ってみないと分からん。だからとりあえず会いに行く。今の段階ではそれしか言えん。それで納得してもらえるか?」


「ありがとう。魔法使いよ。恩に着る。」


「それでだ。移動手段なのだが、転移魔法は一度訪れた場所にしか行けん。そうすると私は飛行魔法によって空を飛んで移動するのが一番早いのだが、連れて行くにあたって高いところが苦手なやつが一人いてな。それでこうして馬車で移動させてもらうことにした。少し日にちがかかってしまうが問題ないな?」


「ああ、妹は一年間眠ったままで、体自体に異常があるわけではない。対処が数日遅れても容態に変わりはないだろう。急いでくれてありがとう。」


「次にこれからの道のりだが、王国の北にある山脈を越えるのに、お前たちが最初に会ったフィックスの街から北上する道のりが一番通りやすいらしい。一度フィックスに寄って少し私の用事を済まさせてもらう。パンドラはそこで分かれる。フィックスで仕事をしているのでな。その翌日からは3人でこの馬車で峠越えだ。3人と馬車の御者をしてくれている王国の騎士たちとだな。馬車はこの馬車と荷物を乗せているもう一台がある。それぞれ2人の騎士が乗っていて、交代で御者をする。とは言っても馬の体力もあるので一日の移動距離は限られているが。野営の際はお前たちは野宿してもらうが、私は転移魔法で家に帰って寝させてもらう。私が用事がある時はちょくちょく転移魔法で抜けさせてもらう。そんな感じだ。何か質問はあるか?」


「ああ、ありがとう。移動の話は分かった。ところでこの俺の身柄はどうなっている?妹のところまで案内したら、セントラールへ戻って処罰されるのか?」


「なんで?おまえはそのまま故郷くにへ帰ればいいじゃん?」


「?俺はセントラールに立てついた逆賊だぞ?」


亡霊ファントムに操られてたんだろう?」


「だとしても…」


「私が国王に釈放させろって言っておいたから大丈夫だ。」


「そんな簡単な話じゃ…。え?国王に…?」


「そうだ。私が国王の許可を取ったから大丈夫だ。お前はそのまま故郷くにへ帰ればいい。特に処罰はない。」


「そんな滅茶苦茶な…。」


「インフェルノ。ニーナはそういうやつなんだ。こっちがペースを合わせるしかない。」


 バーンはインフェルノの肩に手を置いてそう言った。


 とにもかくにも、眠り病に侵されたインフェルノの妹を救うための俺たちの新しい旅が、今始まった。


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