48.王都セントラールの一番長い日13
「ニーナ様、パンドラ様、バーン様、国王の謁見の準備が整いました。」
宰相が、別室で待たされていた俺たち3人を迎えに来た。緊急の謁見のため、服装はそのままでいいらしい。
「皆さんには、私の後に続いて国王の前まで歩いて進んでもらいます。そこで一礼をし、それぞれ名前を名乗ってください。その後国王陛下からお話がありますので、陛下から何かご質問があった場合はお答えください。」
「礼の仕方とか、なにか守らなければいけないマナーとかありますか?」
俺が質問すると
「今回の謁見は緊急のものであり、正式な集まりではありません。そのためマナーを知らない冒険者がいるように、あなたたちにも細かい作法は要求されませんので大丈夫です。ただ陛下に対しご無礼のないようお気を付けください。」
「なるほど。」
マナーが苦手な俺でもなんとかなるだろう。
そして俺たちは宰相に連れられ、謁見の間に入った。
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真っ赤なじゅうたんを歩く。それだけで緊張してしまう。そして宰相に連れられてとても大きな扉の前に辿り着く。扉の両隣にいる兵士に宰相が目で挨拶をすると、兵士はその扉を開く。扉の向こうが謁見の間であり、中にはとてもたくさんの人がいた。
中央のじゅうたんの左右には、セントラール騎士団、魔法機関、城内にいた貴族や執務官たち。この城の重要な人間は全て集まっているようだ。そして部屋の一番奥の、一段高くなった場所には、玉座に座るセントラール王と、その横にはフローラ王女の姿があった。
俺たちは国王の前まで行く。宰相が片膝を立てて座るので、俺とパンドラもそれに続く。ニーナは直立不動のままだ。座らせて方がいいのかなと思って「ニーナ?」と声を掛けると、国王から声が掛かった。
「良い。面を上げろ。余がセントラール王、バスタシェルト・ラ・セントラール・ザナドゥ12世である。」
宰相が立ち上がるので、俺たちもそれに従った。そしてまずニーナから名乗った。
「千年の森の魔法使い、ニーナだ。」
そこでざわつきが起こる。千年の森の魔女だと?!伝説じゃなかったのか?しかしその姿を見た者は誰もいない。いや今日起こった奇跡を考えたら納得できる。しかしあんなに若い娘だったとは?そんな感じの話し声が聞こえた。
ざわつきが少し収まってから、次にパンドラが名乗る。
「純血吸血鬼パンドラです。」
先ほどよりさらに大きなざわつき、悲鳴も聞こえた。
「静かにせよ!余の客人の前だ!控えよ!」
大騒ぎになる前に国王の言葉で一同を大人しくさせる。だが明らかに雰囲気がおかしい。今にも大混乱になりそうだ。
「セントラール城下町のなんでも屋に努めています、剣士バーンです。」
俺が名乗った時には、誰も何も言わなかった。いいけど。そして再び国王が口を開く。
「此度のセントラール襲撃事件について、関係者より聴取し、王国として内容の全貌は把握した。事件の顛末について、今から宰相より報告がある。黙して聞くがよい。」
そして横にいた宰相が振り返り、今回の事件についての説明を始めた。
「今回の騒動は全て、サイコパワーという古の邪法を使うトライアイズという超古代帝国の亡霊によるものです。ニーナ様、間違いありませんね。」
「そうだ。」
ニーナが頷くと宰相は話をつづけた。
「トライアイズは呪いの首飾りを使い、北方連合王国最強の剣士インフェルノをそそのかし、単騎でセントラールを襲うよう指示しました。その際トライアイズは、セントラール王国の武力をはるかにしのぐ魔法の鎧と魔法の剣をインフェルノに与えました。その魔法の武具による被害は皆様もご存知のよう、鉄壁のセントラール正門を破壊してしまうものでした。しかしインフェルノにわずかに残る理性によって、今回の騒動における死者は0名です。インフェルノは、王国騎士団団長アーク様、城下町の剣士シンエモン様、という2名の剣豪を破りましたが、こちらにいらっしゃいます魔法剣使いのバーン様によって制圧されました。一方でトライアイズの暗躍は続いておりました。トライアイズは手薄となった王城に直接乗り込み、国王陛下と王女様を襲い、王家に伝わる秘宝龍の宝珠を手に入れます。それまで亡霊であったトライアイズは、龍の宝珠の力によって実体化し、肉体と強い力を手にします。トライアイズにより殺害されそうになった国王陛下と王女様の命をパンドラ様に救っていただきました。国王陛下と王女様の殺害に失敗したトライアイズは正門へ向かうと、邪法サイコパワーを使い任務に失敗したインフェルノもろともこの街全体を破壊しようとします。およそ3kmにも及ぶ暗黒のエネルギー体を空に発生させ街へ落とそうとしましたが、千年の森の魔女ニーナ様により、暗黒球およびトライアイズ自身も異次元空間へ落とし消滅させられました。これにより今回の騒動は完全に終結し、セントラール王国に牙をむく存在を殲滅したものと認識します。…以上が今回の顛末の全てとなります。異論のある方はいらっしゃいますか?」
群衆の中から手を挙げ質問をする者がいた。
「申し訳ありません。そのドラゴンオーブとは、いったいどういうものだったのですか?」
「それは余から話そう。龍の宝珠とは、代々王位継承者にのみ伝えられてきたこの国の秘宝で、これまで国王となるべき者以外はその存在すら知るものはいなかった。それはかつてこの地に棲んでいたという草原竜の命のエネルギーそのものだと聞いている。初代セントラール王と草原竜との契約により、龍の宝珠を護ってゆく代わりに、その力の加護でセントラールの平野地帯に魔物が出ないよう護ってもらっていたのだ。」
「それは悪漢に奪われた後、現在はどうなったのでしょうか?」
「ニーナ殿…」
「うむ。それはトライアイズと共に時空の果てに消失した。現在はもうない。」
それを聞いてまたざわめき立つ。そして宰相からニーナに質問が飛ぶ。
「それでは、これまで草原竜の加護で守られていた我が国には、今後モンスターが出現する可能性が高いという事ですか?」
「そうだ。特に山や森などに棲む魔物が人里へ出てくる可能性が高い。これからは街の外では気を付けることだ。」
またざわつく城内。
「まあ、出現してくる魔物の対応についてはおいおい考えてゆくしかないだろう。それでだ、国王よ。我々に今後どうしてほしい?このまま国に残っていいのか、それとも出て行った方がいいのか?」
ついにニーナが本題を切り出した。今回の一件を終えて、二人の正体が分かった今、王国が二人に対してどういう姿勢を取るのかという結論を求めた。そして国王はゆっくりとその口を開いた。
「お二人には、これからもこの国を護っていただきたい。」
「それが人にものを頼む頼み方か?」
そのニーナの言葉に城内が凍り付く。それは決して国王に対するものの言い方ではない。場合によっては死罪になりかねない。周りの全員が怒りとも恐怖とも知れぬ驚きで言葉を失っていると、その沈黙を国王が打ち破った。静かに玉座より立ち上がり、ニーナの前まで降りてゆく。その厳しい表情からは国王の気持ちは読み取れない。そして国王は、ニーナの真正面に立った。
静かに目を合わせる二人。そして国王は、臣下たちの目の前で、ニーナにひざまずいたのだった。
「ニーナ様、失礼ですが我々は先ほどまで、あなたが我が国の敵か味方かとかそんな話をしておりました。ですがそういう話ではないと私は気付きました。あなたは陰ながらこの国を見守ってきてくださった守り神です。ニーナ様、そしてパンドラ様。今までのいくつかの失礼をお許しくださるのなら、今後もこのセントラールをお守りください。」
この国の最高位である国王がひざまずいて頼みごとをしたのだ。つまりニーナはセントラールにとって国王よりも上位の存在とされたのだ。
「分かった。国王よ。この千年の森の魔女ニーナは、セントラール王国に再び千年の平安を守る事を誓おう。」
その時、セントラール城内に歓声が響き渡った。




