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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第2章 王都襲撃
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44.王都セントラールの一番長い日9

 セントラール城中央塔最上階、パンドラは国王と姫の命を守ったが、トライアイズの攻撃を受け血まみれで倒れていた。パンドラは切られた腹からはみ出る内臓を無理やり手で押し戻し、必死で腹部を押さえている。辺り一面血の海で、口からも吐血し、呼吸も荒い。もはや息も絶え絶えで、死も間近だと思われる。

 もはや助からないだろうと思いながらパンドラの横に座り込む国王と姫。


「すまない、わしたちの身代わりに!」


「助けてくれてありがとうございました…、ああ…私…どうしたら…、」


 泣きながら感謝の気持ちを表すフローラ姫。女性の泣き顔が嫌いなパンドラは、彼女を安心させようと声を振り絞る。


「私なら大丈夫だから…」


 そう言って自分の腹部を見せる。目を移すと、なんと先ほどざっくりと切られたはずの腹部の傷口は、すでにくっつき始めていた。


「何と?!」


 言葉を失う国王とフローラ。


「私は吸血鬼バンパイヤだから…」


 後で考えたら、なぜそこでカミングアウトしたのか自分でも分からなかった。理由を挙げるとしたら、バーンの時と同じ、なんとなくだ。吸血鬼バンパイヤという種族は人間から忌み嫌われている。それを伝えた事で恐れられるだけの可能性の方が高い。国王と姫の命を助けた事で上がった好感度も、これで台無しかな?と思った。しかし二人の反応は予想してたものとは違った。


吸血鬼バンパイヤ様、ありがとうございます!」


 フローラのその涙は、先ほどまでのパンドラが死んでしまう悲しみの涙から、吸血鬼バンパイヤならばもしかしたら助かるかもしれないという喜びの涙に変わっていた。


「お人好しのお姫様ね…。うぐっ…。」


 再び苦痛に顔をゆがめるパンドラ。


「ちょっと血を流しすぎちゃったかな…」


 腹部の傷はふさがったものの、体内の多くの血液を流しすぎた。さすがのパンドラも意識が薄れてゆく。パンドラは不老不死ではあるが、完全な不死身ではない。致命傷を負う事があれば純血吸血鬼バンパイヤオリジンパンドラとて死ぬ事はある。だんだん呼吸が途絶えがちになってゆく。

 その苦しそうな姿を見て、やはり危険な状態だと知ると、フローラは思い切って口を開いた。


「私の血を吸ってください!」


 吸血鬼バンパイヤは若い乙女の血を吸って自らの生命力とすると聞く。だとしたら国王と自分の命を救ってくれたこの吸血鬼バンパイヤを助けるために、今度は自分の命を投げ出してもいいと思ったからだ。


「な…何言って…ダメよ…加減を間違えたらあなたも吸血鬼バンパイヤになっちゃう…」


「加減をすれば大丈夫なのですね?だとしたら大丈夫な分だけでもお吸いください。」


「な…?!」


「パンドラ殿…わしからもお願いする。孫娘の血を吸ってもらえないだろうか?」


 このバカ国王?!吸血鬼バンパイヤにかわいい孫娘を差し出すっていうの?!パンドラは逆に腹立たしさを覚えたが、フローラは覚悟してパンドラの口元に自身の首元を持って行く。


「ごめんなさい…少しだけ…」


 パンドラは二人の厚意に甘えることにした。とは言っても少しだけ。フローラの首筋に牙を立てる。パンドラは美しい娘が好きだ。特に美しい娘の笑顔が大好きで、悲しむ顔は見たくない。だから彼女は人の血を吸う事はない。その娘を悲しませたくないからだ。だが今回に限っては、自分の命の危機と、この二人の気持ちに甘えさせてもらいフローラの血液を少しだけもらった。


「ハァ…、ハァ…、ありがと。もう大丈夫よ。」


「これだけで良いのですか?」


「ええ…。」


 心なしかパンドラの呼吸も落ち着いてきた。


「本当、バカな人たちね。私が悪い吸血鬼バンパイヤだったらどうするの。」


「お言葉ですが、私にはあなたがそういう人ではないと分かります。」


「パンドラ殿、孫の言うのは本当なのだ。フローラには人を見極める力がある。力量や性質を読み取ることができるのだ。そなたが信じられると分かったからこそ血を吸ってほしいと言ったのだ。」


 信じられないけど、似たような男を知っている。彼の場合は、もっとぼんやりとした力のようだけど。だから国王の言う事も理解できた。


「分かったわ。ありがとう、お人好しのお姫様。でもまだ終わってない。恐らくあいつは正門に向かったわ。正門が見えるところまで連れてってもらえないかしら?」


「ハイ。」


 フローラに肩を借り、国王と3人で窓まで行く。セントラール城中央塔の最上階であるここの窓からは、城下が一望できた。ここからでは遠くてはっきり分からないが、正門が壊されているように見えた。

 そして門の向こうに空を飛ぶ人間らしき影がみえた。おそらくあれは先ほど自分たちを襲ったトライアイズだと悟る。そして突然、正門の上部に巨大な黒い塊が発生した。


「何だあれは!!!」


 この世の終わりのような景色を前にし、国王と姫は絶句する。だが城門の上にニーナがいることを感じているパンドラはつぶやく。


「大丈夫よ、あそこには私の友達がいるの。」


 黒色球が落下すると同時に異次元空間に飲み込まれてゆくその一部始終を目にする3人。

 そしてその後、遠くてはっきりとは見えなかったが、ニーナがトライアイズを倒すことを確認すると、パンドラは安心し、そして意識を失った。

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