43.王都セントラールの一番長い日8
セントラールの街の正門の外では、インフェルノ襲撃の後始末に追われていた。
破壊された正門の瓦礫を片付けるセントラールの衛兵たち。門の外では、バーンに敗れたインフェルノとその治療に当たる治癒魔法使いの周りを、数名の騎士が取り囲んでいる。胸に下げられていた呪いの首飾りを外すと、インフェルノの体に纏われていた真っ赤な鎧は消えた。その胸にはフレイムソードの斬撃でつけられた大きな傷跡があるが、治癒魔法使いによって治癒してゆく。命に別状はなさそうだ。
意識のないインフェルノを取り囲む騎士の中に、治療を終えた騎士団長アークの姿もあった。そしてその横にはバーンもいた。
インフェルノを治療せよと言ったニーナと、それに素直に従い指示をだしたセガール。そして突然現れたバーンとバーンの持つ魔法の剣。アークは後で詳しく話を聞かないといけないと思った。だがこれだけの人智を越えた脅威の前に、正門が破壊された以外に大した被害もなく収まったのは奇跡としか思えなかった。ニーナは、まだ終わっていないと言っていたらしいが、実際のところその場にいた全員がインフェルノを取り押さえることができて安心しきっていた。
そこに、突如それは現れた。
まだ多くの群衆の集まるセントラールの街の城壁の外。それを見下ろす空中に突然それは現れたのだ。それは薄暗い色のローブを身に纏い、白い長髪を風になびかせながら空中に浮いていた。最初それに気づいた者はごくわずかだった。そしてその声が響いた時、群衆は見上げた。空中に浮かぶその男を。
「インフェルノ?!貴様何をしている?我の与えた赤鉄鎧の首飾りの力で、この国に我の恐怖を与えるのがお前の役目だぞ!」
怒りに震えたその声は、気を失っているインフェルノには届かない。しかしその声を聞いた群衆は騒ぎ立ててる。空を飛んでいる人間がいる。そしてその人間こそ、今回の黒幕であるとほぼすべての者が気付き、これから起こるであろう惨劇に恐怖した。
「役立たずめ!貴様はもう用済みだ。この街もろとも消し去ってやるわ!」
宙に浮かぶ男はそう言うと、両手を上に上げた。
「熱量塊球オオオオオ!!!」
男のさらに上空に、突如真っ黒な球体が現れる。そしてそれはだんだん巨大化し、最終的に直径3kmにも及ぶ超巨大な塊となる。暗黒の球体に日光をさえぎられたセントラールの街は、まるで夜のような暗さになった。
「亡べ!」
そう言って両手を前に降ろすと、同時に支えを失ったかのように超巨大な黒い球体がセントラールの街目がけて落下を始めた。
何が起きたか分からないが、とにかく終わった。多くの人間がそう思った。
「次元の落とし穴」
その姿に気付いていた者は少ないであろう。城壁の上にいたニーナが魔法を唱えた。その瞬間、見渡す限り続く暗黒の球体の下に、同じ規模の大きさの円状の異次元の扉が開いた。
遠くから見たそれは、黒い球が水の中にゆっくり沈んでゆくように見えたと言う。
落下する黒色球は、その下に開かれた異次元の扉にゆっくりと沈み、球体が半分のドーム状となるとその下の影は急速に小さくなっていった。そして暗黒球がすべて飲み込まれると、群衆の頭上には波を打つような空間の揺らぎが残った。そして静かにそれも収まっていった。まるで何事もなかったかのように。
なによりその光景に驚きを隠せなかったのは、攻撃を仕掛けたトライアイズであった。
「何が起こった?!」
そして城壁の上からトライアイズに話しかけるニーナ。
「黒幕はお前だな?お前は何者だ?!」
「小娘…お前がやったのか?!愚か者め、我に逆らった事を後悔させてやる。我が名は鬼眼族のトライアイズ。地上最強のサイコパワーユーザーだ!」
「P・Pだと?ずいぶん古臭い言葉を持ち出してきたな?3000年ぶりに聞いたぞ。おまえ魔王シックスウイングにでもなったつもりか?」
「ほう、貴様シックスウイングを知っているのか?!そうだ。我が再び6人の魔王を復活させ、今度こそこの地上を支配する大魔王となるのだ。魔法を上回る最強の力、P・Pを持つ我の力によってな!逆らうバカは死ね!念動斬」
パンドラに放ったP・Pをニーナに放つ。だがその力はニーナの前で掻き消える。
「バカな?」
「P・Pが魔法を上回るだと?愚かなのはおまえの方だ。だとしたらなぜP・Pは滅びた?それは魔法より劣るからだ。」
「ふざけるな!」
怒るトライアイズはその額の第三の目、邪眼による行動強制をかけようとする。だがニーナに変化はない。
「言っておくが私の前ではいかなる状態変化攻撃も無効だ。」
「ふざけるなふざけるなふざけるな!!!念動破!!!」
指先から見えない弾丸を連射するトライアイズ。だがそれは全てニーナの目の前に掻き消える。
「一流の魔法使いの周りには、常時対魔法防御壁が発動されている。そんなちんけな攻撃は私には届かないよ。」
「ウグワアアアアアアアア!!熱量塊球!!」
両手を挙げ、先ほどの暗黒球をもう一度発生させようとするトライアイズ。
「もういい、古代超帝国時代の亡霊よ、もう二度とこの世に迷い出て来るな。次元落とし」
ニーナが魔法を唱えた瞬間、トライアイズの足元に先ほど熱量塊球を吸収した異次元の扉が開く。そこから発生した超重力により異次元に引っ張られるトライアイズ。
「ぐあおおおおおああおお!!!」
必死で耐えるトライアイズ。だがその姿はだんだん壊れた映像を見ているように歪み始め、少しずつ姿が薄くなってゆく!
「バカな?!龍の宝珠の力によって完全に復活したのに…」
「仕方ないだろう。ドラゴンより私の方が強いのだから。」
トライアイズがその言葉を聞いて絶望した瞬間、その全身全て異次元空間へと落ちて消えた。トライアイズが最後に発生させた暗黒球ごと。
辺りには、何も変わらないセントラールの街だけが残った。




