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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第2章 王都襲撃
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42.王都セントラールの一番長い日7

「ここまででよい。」


 国王は引き連れた衛兵を制止する。ここはセントラール城内、通称展望台と呼ばれる中央塔へ続く階段の入り口だ。


「ここで、これ以上誰も上に登って来ないよう監視していろ。」


「はっ!」


「姫は一緒について参れ。少し階段が続くが我慢してくれ。」


「はい。」


 そう言われたのは、国王の孫娘に当たるフローラ。現在公務で外出中の第一王子ローランドの長女であり、現在第一王位継承権のあるローランド王子が王位に就いた場合の次期王位継承者に当たる。


 国王バスタシェルトは、人の資質を見抜く特殊能力を持っていた。この国の盤石の統治も、その人選によるところの力が大きい。直接彼が王国内の人事全て決めているわけではないが、重要な人事に関しての最終承認がバスタシェルトに仰がれるため、彼が見抜いたその人間の能力・人柄などを踏まえ、そのまま承認したり、また別の配属先を指示したり、不適切と判断した場合は否認したりしている。

 そんな国王の目から見て、その息子であり時期王位継承者である長男のローランドは、いささか国王としての資質に劣るところがある。悪いわけではないが、まだまだなのだ。だから今のうちに政治にかかわる仕事に就かせて修行をさせている。全く才能がないわけではないため、努力次第でなんとかなるであろう。

 現在横に従わせている、ローランド王子の娘つまりバスタシェルトの孫娘であるフローラだが、実はローランドよりも人の上に立つ資質を持ち合わせていた。なにより自分と同じように、人の資質を見抜く特殊能力を持っているのである。そのため自分のために力となってくれる人材を適切に選び抜くことができる。

 国王だけでなく人の上に立つすべての人間に共通して言えるのは、自分で何かを行う力よりもその部下たちの力の方が重要だという事だ。飽くまで最終決定は国王自身が行うが、実務は全て部下が行うのだから。いくら最終決定能力だけ優れていても、実務を行う者が無能では話にならない。もちろん人材育成も大事なのだが、それを行うのにもやはり育てる人間を見極める事がなにより重要だ。

 そして自分の孫娘だからというひいき目抜きに、フローラは人並み外れて賢く、人当たりも良い。これにさらに威厳や威圧感などを兼ね備えたら、すぐにでも王位を孫娘に引き継ぎたいくらいだ。それくらい高い評価をしているため、もし息子に今以上の成長が見られないようであれば、次期王位継承者は孫娘にと考えている。

 そんな国王が最も信頼する孫娘を連れて目指しているのは、セントラール王城中央塔最上階である。


 セントラール王城中央塔最上階の展望室では、セントラール城だけでなくその外側にあるセントラール城下街全体を見渡すことができる。フローラは、今何者かがセントラールを目指し侵攻しようとしているという話を聞いていた。国王は展望室から城門の外の様子を確認するために、今自分を連れて階段を上っているのだと思っていた。

 塔は高く、階段は続く。運動に慣れていないフローラもそうだが、60近い高齢の国王も階段は大変だろうと思っていると、国王は階段を登りながら話しかけてきた。


「フローラよ。ローランド王子が国内不在の今、わしが一番信頼の置ける人物はおまえしかいない。そのためおまえに、わしの身になにかあった時のために聞いておいてほしいことがある。」


「陛下、そんな弱気な事をおっしゃらないでください。まだまだこの国には陛下のお力が必要です。」


「心配かけてすまないな。そういう意味で言ったわけではないのだ。万が一の時のために伝えておきたい事がある。それはいつ話してもいいのだが、それを今日聞いておいてくれるか?」


「はい。」


 もうしばらく階段を登ると、最上階の展望室に辿り着いた。展望室とは通称で、正確には街を展望できるのは部屋の周囲の廊下の窓からで、中央の部屋は廊下に囲まれた真ん中にあって部屋の中から城下を展望できるるわけではない。部屋の中は、さらに高い天井の窓から照らされた日の光で明るかった。部屋の中央には何のためにあるか分からない台が置いてあり、部屋の床には不思議な模様が描かれている。この部屋は城の中でも特殊な空間であることは間違いない。


「フローラよ。この国の大草原には、かつてドラゴンが棲んでいたという話は聞いたことがあるか?」


「ドラゴン…ですか?すいません。初耳でした。むしろドラゴンなどは空想上の生き物だと思っていました。」


「うむ。それが今では一般的な考えだ。だが王家にはドラゴンがいたという話が伝えられている。信じられないかもしれないが続きを聞いてくれ。」


「はい…。」


「およそ1000年前まで、この大草原には草原竜グラスドラゴンと呼ばれる緑色のドラゴンがいた。ドラゴンは人間よりも知性が高く、そして圧倒的に強く、我々人間からしたら神とも呼べる存在だった。ドラゴンがいるためこの草原には他のモンスターが現れることもなく、皮肉にも人間を襲うものは同じ人間だけだったという。そんなドラゴンにも寿命がやってきた。当時少数で争いを続けていた人間たちを、英雄と呼ばれた初代セントラール王、ガーランド・ラ・セントラール・ザナドゥⅠ世が、その圧倒的な武力と人望で一つの国にまとめ上げたののもその頃だった。初代王はその人柄によって、グラスドラゴンと友人であったという。老衰によって死ぬ直前であったグラスドラゴンは、初代王と一つの約束を交わしたそうだ。それはドラゴンののどにあるという、ドラゴンの魔力の詰まった龍の宝珠ドラゴンオーブを、自分の死後守ってほしいということだった。龍の宝珠ドラゴンオーブはドラゴンの死後も残り、その強い魔力を求める者は後を絶たないはずだが、その力を悪用される事を恐れたグラスドラゴンは、死後もその宝珠の力でセントラールをモンスターから護る代わり、悪意ある者の手に渡らないよう未来永劫守ってほしいという約束だった。初代はグラスドラゴンと協力して龍の宝珠ドラゴンオーブを隠す部屋を作った。ここがその部屋だ。」


「えっ?!」


「いまから唱える呪文を覚えておいてくれ…。『偉大なる草原の王者よ。盟約によりガーランドの血族である我が、龍の宝珠を護る事を誓う。…』」


 国王は呪文を唱えてゆく。それはドラゴンの魔法により封印された宝珠を呼び出すための呪文であった。

 国王は呪文を唱え終わる。すると、屋根から明るく照らされている部屋の中央にある台の上に、輝く球体が現れた。


「これがセントラールに代々伝わる王国の秘宝、龍の宝珠ドラゴンオーブだ。これを求めて今インフェルノという異国の剣士がここを目指しているという。万が一すべての防衛線が敗れても、わしはこの存在を口にするつもりはない。じゃからわしがもしそこで殺されるようなことがあった時は、フローラよ。おまえがこの宝珠を護ってくれ。」


 この国に攻めこもうとしているのはただ一人の剣士だと、フローラは聞いていた。万が一にもその者が、国王の元までたどり着くとは考え難い。だが祖父は真剣だった。こんな祖父を見たことはなかったし、父が不在の今、祖父に何かあった場合にこの国を守らなければいけないのは自分なんだという事も自覚した。そしてフローラは答えた。


「…わかりました。」


「まだ若いおまえにこんな重責を背負わせて申し訳ないな。」


 だがフローラならば大丈夫であろうという事も見抜いた上だ。


 その時、ゴオーン!と遠くから轟音が響いた。インフェルノによって街の正門が破壊されたのだ。やはり恐れていたことが起こったとバスタシェルトは思った。普通の剣士ではない。そう思ってすぐに龍の宝珠ドラゴンオーブを再び封印しようとした瞬間、どこからともなく声が響き渡った。


「フハハハハハハ!ようやく見つけたぞ!そんなところに隠してあったか!」


 突如、目の前の何もない空間に黒いもやが現れる。そしてそのもやは人の形となる。すぐに国王は、半透明のそれが人間でないことを悟る。


「な…亡霊ファントム?!」


 亡霊ファントムと呼ばれたそれは龍の宝珠に手を伸ばす。


「長年探し続けたぞ!これでついに私は物質界に降りられる!」


 亡霊ファントム龍の宝珠ドラゴンオーブをその手に掴んだ瞬間、その場がまばゆいばかりの光に包まれる。あまりのまぶしさに二人は目を閉じ、そして目を開けた時、そこには実体化した亡霊ファントムの姿があった。それは先ほどまでの禿げあがった頭ではなく真っ白な長髪、そしてその額には禍々しい第三の目が光っていた。


「ついに手に入れたぞ!」


「き…貴様は何者だ?!」


「冥途の土産に教えてやろう。我は地上最強のサイコパワーユーザー、鬼眼族のトライアイズだ!案内ご苦労だったな。死んでよい!念動破サイコバレット!」


 トライアイズの右手から見えない弾丸が飛んだ。瞬時に国王は孫娘をかばい盾になろうとした。だが見えない弾丸が国王に当たる瞬間、窓の外から一直線に飛んできた何かがそれを打ち落とした。


 バスタシェルトは目を疑った。そこには先日謁見に現れたパンドラという娘がいたからだ。


「遅くなってごめんなさい!」


 片膝を付き片手を横に上げ、国王と姫を護るようにそこにいたパンドラはトライアイズに立ち向かう。


雷撃ライトニングボルト!」


念動斬サイコスラッシュ!」


 二人は同時に攻撃を仕掛ける。だがパンドラの攻撃は無効化され、トライアイズの術はパンドラを切り裂いた。


「がはっ!」


 腹部を抑え倒れるパンドラ。見ると無残に切り裂かれた腹部からは内臓が飛び出、口からは血を吐いている。一方雷撃を受けたはずのトライアイズには傷一つない。


「我に歯向かうとは愚か者め。苦しみを味あわせてから殺してやる。」


 救世主の出現に一瞬助かったかと思ったが、目の前の恐るべき敵の前ではその救世主でも適わなかった。


「ぬ?」


 殺されると思った瞬間、トライアイズの表情が固まった。


「インフェルノめ?負けたのか?何をやっているあいつ?チッ。お前たちの始末は後だ。瞬間移動テレポート!」


 突然意味の分からない言葉を言い残し、トライアイズは姿を消した。

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