37.王都セントラールの一番長い日2
パンドラは騎士団長アークに案内してもらい、鮮やかな赤いじゅうたんの上を歩き王城を進む。自分の背の高さの倍はあろうかという扉の前に辿り着くと、その扉の左右にいた槍を持った衛兵がゆっくりと扉を開ける。そこが国王との謁見の間であろう。1000人以上が余裕をもって入れるとても広い部屋で、3階建ての建物よりも高い天井、左右には兵士が整列しその最奥まで自分たちが進む道を作っている。突き当りの壁には高い天井から下げられる真っ赤な大きな旗。そこに描かれている剣と盾と龍はこの国の紋章。その旗の下、一段高くなったところにある王座に居座る老人こそ、この国の国王であろう。
先導するアークが国王の前まで到着すると片膝を付き礼をする。パンドラもそれに続く。
「面を上げろ。余がセントラール王、バスタシェルト・ラ・セントラール・ザナドゥ12世である。」
響く低い声で国王がそう言うと、二人は顔を上げる。白髪で波打った長髪、やはり真っ白な太いまゆげに隠れそうな深い彫の奥の鋭い瞳。目を見ればだいたいその人物の底が知れるというが、セントラール王もやはり国王にふさわしいとても力強い視線をしていた。その黒い瞳で二人を見つめる国王に、アークが口を開く。
「陛下、こんな時間に謁見の機会をくださりまことにありがとうございます。こちらの者は私の弟子の剣士バーンの友人である、旅人のパンドラと申します。」
パンドラの事を旅人と紹介するアーク。要件以外の自分の怪しい素性はぼかして紹介してくれたのだろう。それに続いてパンドラが話し始める。
「国王陛下、この度は突然の訪問申し訳ありません。既にアーク様よりお聞きになられたかもしれませんが、インフェルノと名乗る剣士が現在この街に向かっております。」
パンドラはインフェルノに関する自分の知りうる情報を全て話した。国王は突然訪問したパンドラに対し、話をさえぎることなく最後まで聞き続けた。そしてパンドラが話し終えると国王は再び口を開く。
「そなたの知っている話はそれで全てか?実はな、フィックス領主ブライトンからもほぼ同じ内容の報告が伝書バトで届いている。伝書バトにはそなたの事も書かれていて、ブライトンが世話になっていると言っておった。フィックスでは今ブライトンがいろいろと改革をしているそうだな。その件については、セントラール国王として私からも礼を言わせてもらう。
しかしその刺客の件だが、正直信じられなかったがどうやら本当かもしれんな、アークよ、正門を閉門し襲撃に備えよ。完全に制圧しこのセントラールに一人で乗り込もうとする蛮勇を恥じさせてやれ。以上だ。」
「お待ちください陛下。一つお教えください。龍の宝珠とは何なのですか?」
「……知らんな。そんなもの聞いたこともない。」
そう言うとセントラール王は席を立つ。これ以上話を聞く気はないのだろう。おそらく国王は龍の宝珠について何か知っている。だがそれを人に話すつもりはないのだろう。謁見の間より出て肩を落とすパンドラにアークが話しかける。
「気を落とすな。お前の突拍子もない情報でも国王より対応の命令が出たのだ。騎士団を動かすことができる。私も今すぐ城門を守りに行く。」
この国で最も強いと言われている騎士がそう言ってくれるのはとても心強い。だがパンドラは龍の宝珠がどんなものであるか、相手の狙いが何であるかが分からない事がまだ不安だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、セントラールの街の門の前は混乱する人だかりがあった。それはそれまでずっと開け放たれていた城門が閉じていたからである。そしてその門は多くの兵によって護衛されていた。戦争が始まるのか?そんな不安が一同を恐怖させた。しかし騎士たちが説明するには城門を一時閉鎖するとの事、少しの間街への通行を制限すると言う話だけだった。
そんな城門を護衛する騎士たちの中に、ミスリルシルバー合金で出来た真珠色の全身鎧に身を包んだ、セントラール最強の騎士、騎士団長アーク・エオプ・テリウスの姿もあった。
門の前に集まる者たちには説明を行っているのだが、人だかりの後ろの方まではまだ状況が伝わっていない。そのため閉ざされた門を見て不安がるものがまだたくさんいた。門の前まで行き説明を聞き、今日は街に入るのを諦め去ろうとする者たち。そんな者たちを見て並ぶのを止めて列から離れる者たち。それでも順番を待ち門のところまで行こうとする者たち。そんな人の流れは、だんだん去る者の方が多くなり人だかりは少しずつ減り、喧噪も大人しくなってゆく。
「なあ、そこのあんた。この街は手続きさえすれば誰でも入れるって聞いたんだが?」
入り口近くで一人の男が、アークに声をかけた。辺りにはもっと軽装の騎士が多くいるなか、わざわざ全身鎧のアークに話しかけたのは、この中で一番偉い人間だと思ったからか?普通なら逆に話しかけにくいものだが、この男の髪の色からしておそらく異国人だ。いろいろ風習が違うのかもしれない。
「ああ、すまないな。今日はここを通すわけにはいかないんだ。特にお前のように腰に剣をぶら下げた剣士はな。」
「なんでだ?この街にも冒険者は出入りするだろう?」
「…?」
アークはその男から感じる気迫がだんだん強くなっていくのを感じた。
「騒ぎを起こすのが早かったか。城内までは普通に入り込めると思ったんだが。こうなったら力づくで通してもらうぞ。」
その言葉で、この男がバーンを襲った襲撃者だと悟る。
「襲撃だ!全員配置に付け!騎士たちは一般人を遠ざけよ!!!」
大声で回りに指示をだし剣を構えるアーク。そしてその男は正体を表した。
「装着!」
男の胸の赤いネックレスが強い光を放った直後、その男は3本角の悪魔のような全身鎧に包まれた。




