28.新たな依頼
俺は今、セントラール騎士団の騎士3人と一緒に馬車に乗っている。目的地は2週間前に訪れたばかりの、西の街フィックスだ。
ニーナとパンドラと別れてから2週間が経った。最近のなんでも屋の仕事は雑務が多く日曜大工の手伝いなどに駆り出されたりしていたが、ついに先日大きな仕事がやってきた。騎士団長のアークさんから呼び出しがあり依頼されたのは、西の街フィックスの領主ブライトンの護衛任務だった。セントラールの騎士3名と一緒に護衛することになったのだが、俺のことはブライトン卿の直々のご指名だそうだ。これも前回の高回復薬の輸送任務を無事にやり遂げ、領主の信頼を得たためだろう。これで俺が騎士に推薦してもらう道にまた一歩近づいたな。
前回は一人で小さい幌馬車に乗っての移動だったが、今回は4人移動のため、二頭引きの少し大きめの馬車に乗っている。しかも手綱を握っているのは騎士なので、俺は移動中は寝ててもいいくらい。車体の揺れさえ我慢すれば非常に快適だ。
今回一緒に行動する騎士は、3人とも俺より年上で腕の立つ人たちだ。それだけ今回の護衛任務は重要なのだろう。
「バーン君は今回の仕事内容は詳しく聞いているか?」
そう話しかけてきたのは、この中で最年長のゲオルグだ。
「いえ。向こうに着いたら説明してもらえると聞いています。」
「そうか。まあ先に簡単に背景を説明しておこう。フィックスではブライトン卿が民主的な政治を目指してきたところ、商人ギルドが力を付けすぎてしまった。その結果大商人たちが政治にも影響するようになってしまい、陰でかなりの不正が行われるようになってしまったそうだ。そこでブライトン卿は、商人たちの不正を暴き粛清を行うことにしたらしい。先日遂に商人ギルドのギルドマスターである大商人を摘発したそうだ。現在も裁判中らしい。しかし卿はそのせいで商人ギルドを完全に敵に回してしまった。それ以降、卿は命を狙われるはめになった。現在は護衛を増やした中で執務にあたっているそうだが、今度フィックスの関税見直し法案についての意見交換会というイベントがある。多くの人の前に出なければいけないため、そこで命を狙われる可能性が非常に高い。そこで護衛の強化として我々4名の精鋭がわざわざセントラールより呼び寄せられたという話だ。」
「なるほど。今は非常に不安定な時期なんですね。」
そこに加わってきたのは、俺と年の近いザックだ。
「なーに、俺たちは政治の難しい事なんて考えなくたっていい。命令に従ってしっかり領主を護衛するだけよ!」
確かにその通りだ。そして剣の腕ならそこそこ自信がある。問題は自分たちの隙をついて領主だけ攻撃される事だ。そこは気を引き締めて行かないといけないだろう。
「街が見えて来たぞ!」
手綱を握っているグスタフの声に、3人が前方を見る。2週間前に見た時と同じ街の入り口。フィックスが見えてきた。
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関所での手続きを終え、馬車はフィックスの門をくぐる。セントラールのような石畳ではないが、しっかりと舗装された土の道路を馬車は進む。街の中心部まで行くと、石畳の舗装に変わる。少しずつインフラも整っている。この街もだんだんセントラールのように発展している最中なのだ。
「腹減らねえか?領主のところに行く前にどっかで軽く飯食わないか?」
そういうザックの提案に全員賛成し、食事のできる店を探す。すぐに目に飛び込んできたのは、人だかりのできているカフェだった。
「あれ?こんなとこにカフェなんてあったっけ?」
2週間前までは少なくともこんな人だかりはなかった気がする。
「バーンは2週間前に来たばかりだって言ってたな。オープンしたばかりか?人だかりができるなら、よっぽどうまいんだろう。」
ザックの言葉に昼食はこの店に決定した。
店舗の入り口に行くと、入り口は入店待ちの客が列になっていた。入り口の上には赤い字の『SALLY'S CAFE』という新しくてきれいな看板が大きく掲げられており、ドアの横には『NEW OPEN』と書かれたスタンド看板が置かれていてメニューなどが書かれていた。NEW OPENという事は、やはり2週間前にはなかったんだよな。
列に並んで待っている間、ふとニーナとパンドラの事を思い出す。今二人ともこの街にいて、少なからずパンドラはブライトンと一緒に仕事をしていると思われる。だとしたら運が良ければ会えるかなかもしれない。ニーナたちと別れてからは特に大きな事件もなく過ごしていたため、遠隔通話の指輪を使う事もなかった。つまりあれ以来話もしていない。俺が少し自分の時間が取れた時にこちらから連絡してみようか?
そんな事を考えていると列が少し進み、前方から店員と思われる声が聞こえてきた。
「お前たちは何人だ?4人ね。その次は…?」
「ん…?」
見ると、ストレートでロングの黒髪で俺より20cmくらい小さい身長の女の子だ。どこかで見たようなシルエット、聞き覚えのある声、なによりあのぶっきらぼうなしゃべり方は、まさか…?
「おっ?あの店員の女の子かわいくない?」
そうザックが呟いたのが聞こえたのか、その店員はこちらを向き、俺たちの姿を見ると急に笑顔になり俺たちのところに歩いてきた。
「バーン!」
「ニーナ!!!!!何してんのこんなとこで?!」




