27.そして日常へ
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ニーナは自分に向けて魔法を使われたことに気が付いた。
(あっ?!やばっ?!油断してた!)
バーンと戯れるのが楽しくて夢中になってしまい、不覚にも魔法を使われるまで気付かなかった。見るとセガールとクアドラの二人の顔が青ざめている。おそらく魔力鑑定の魔法を使い、自分の魔力を測定されたのであろうことを悟る。
もうこれ以上長居する理由もない。怪しまれただろうから、そろそろおいとましよう。バーンも魔法の対処がかなり理解できたはずだ。良い修業になっただろう。
「バーン!そろそろ終わろうか!」
石壁の前で寝転がっているバーンは、了解の意思表示に右腕を上げて合図した。
「お姉ちゃん!楽しかったね!」
ピートが無邪気に言う。この子も楽しみながら魔法を使ったため、肩の力みがなくなり最初に比べて格段によくなった。ニーナはピートの頭に手を置いて笑った。
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セントラール城でお世話になった人たちに別れを告げ、俺たちが城から出た頃には辺りはもう暗くなっていた。欠け始めた月がぼんやりと夜道を照らしている。月明りだけでなく、大通りには一定間隔事に松明を焚いた街灯が設置されていて、夜道を照らしている。嵐の時以外は月が出ていなくても王都の大通りは明るい。とは言え通行人は日中ほど多くはないが。そんな夜道を俺たち3人は歩く。
「ニーナちゃん、最後魔力測られてたわよ。」
「あ、パンドラも気付いてた?」
「ちょっと待って?!マジでか?」
俺は慌てる。魔力を測定されたのであれば、この国で一番の魔法使いセガールよりも高い魔力がおそらく計測されたであろう。それまで頂点にいた者たちに対して、突然現れた自分たちよりも大きな力。それに対して好意的な対応をしてくれるなんて、どう考えてもない気がした。危険視されるか敵視されるかそれとも利用しようとされるか…。
「まあ態度もそんなに変わってなかったし、大丈夫じゃない?そもそもあんだけセーブして放った火球でビックリするなんて思わなかったし。この国の魔法使いはどんだけ弱いんだ?」
気楽なニーナ。まあまだ起こっていないことに対して過剰に不安になっても仕方ない。何か起きてから考えよう。
「これからはなるべく人前で目立つ魔法は使わないようにするよ。」
そうニーナが締めくくった時、パンドラがピクンと反応した。
「ちょっとごめんなさい。しもべから定期連絡だわ。」
そう言うと遠隔通話の魔法で、その場にいないアルカードとの会話を始める。
「ご苦労様。おはようございますじゃないわよ!こんな時間に起きるのはあんただけよ!そう。商人ギルドで不正を行っている人間の名前は一通り分かったのね。引き続きその詳細を調べておいて頂戴。え?資料を作るのに吸血従者に手伝わせたい?…いいわよ。その代りおさわり禁止だからね。後でしっかり確認するから。近いうちに私もそっちに行くから。それじゃね。」
パンドラは手下のアルカードに、西の街フィックスにおける商人ギルドの腐敗の調査を行わせている。証拠を集めて不正を働く悪人どもを粛清するためだ。一般に吸血鬼は人類の天敵と呼ばれているが、この純血吸血鬼パンドラは、逆に正義の味方のようだ。
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俺たちはなんでも屋に帰宅した。遅れて外出していたシンエモンさんも帰ってきた。
「いや~、探したでござる。あれ?サヨちゃんは帰ってしまったでござるか?」
「もう遅いんだからとっくに帰ってもらったよ!」
そうビャクヤさんから言われたシンエモンさんは、猫を抱えていた。
「なんだその猫は?」
「おお、ニーナ殿。近所の子供から猫がいなくなったと言われて探してきたのでござる。なあミケ、もうサヨちゃんに心配かけてはいかんぞ。」
「ニャア~。」
シンエモンさんに話しかけられて、猫は頷いた。まるで本当に会話してるみたいだ。
「猫探しまでやってるのかこの店は?それにシンエモン、猫としゃべれるのか?猛獣使いの才能があるんじゃないか?」
いるよね、こういう動物に話しかける系の人。でも猫探しの仕事は俺が手伝っても一度も見つけられたことがないけど、シンエモンさん得意なんだよなあ。
シンエモンさんはその日のうちにその猫を依頼主のサヨちゃんの元まで届けに行った。
しかしこの手の仕事は全然儲からない。なぜなら依頼人は子供であることがほとんどなのだ。でも子供に頼まれるとシンエモンさん断れなくて引き受けちゃうんだよね。そういう理由でなんでも屋はいつでも経営難です。
その夜は旅の疲れと城での疲れで、俺は早めに寝てしまった。パンドラとビャクヤさんは夜遅くまで思い出話に花を咲かせていたみたいだ。
そしてセントラールに帰って来て、二日目の朝。ニーナたちはこれからフィックスへ向かうと言った。
「バーン、街の案内をありがとう。とりあえず私はこれで転移門の魔法でフィックスからセントラールの間は自由に行き来できるようになった。これからパンドラと二人でまたフィックスに戻ろうと思う。パンドラがやっている仕事があるし、私もあの街でちょっとやりたいことがあるんだ。」
「そうか。何かあったらいつでもここを訪ねに来てくれ!」
「私がいなくなるとバーンも寂しいだろう?だからこれをやろう。」
と言ってニーナが差し出した、シルバーの指輪を俺は受け取った。それは遠隔通話の魔法が込められたマジックアイテムで、その相方をニーナが持つことでいつでも連絡可能だそうだ。俺はそれを右手の人差し指にはめる。
「ありがとう。ニーナの力に頼らなきゃいけない事なんかない方がいいに決まってるけど、何かあったら連絡するよ。」
そして二人は、転移門でフィックスへ。俺はまたなんでも屋勤めの日々が再開した。
第二章における登場人物の登場だけでここまでかかってしまいました。
次回より、ようやく物語が動き出します。




