26.ファイヤーボール
次にセガールは、才能のある子供に魔法の教育をしているところへ案内してくれるそうだ。
「なんじゃクアドラ?おまえも来るのか?」
「ハァ~、魔力測定なんてやる人間少ないから、ワタシの仕事はいつも暇なんだよ!」
「ホッホッホッ、それじゃクアドラが忙しくて困るくらいたくさんの魔法使いを育てないとな。」
「ハァ~、それはそれで勘弁しておくれよ!」
そんなお年寄りたちの面白い会話を聞きながら移動する。老人が元気に働いているのは良いことかもな。若い魔法使いがもっとがんばらないといけないのだろうけど。
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城から出て別の建物に移動する。そこは屋根がなく、石壁で囲まれた訓練場という感じの場所だった。
そこにいたのは、魔法使いの教師と教え子の10歳くらいの男の子の二人だけだ。
「なんじゃ?今日は他のみんな休日か…。」
セガール曰く、ここでは子供に魔法を教えているのだけれど、子供には魔法を使う負担が大きいため週2~3回しか教えていないそうだ。ここで魔法を習っている子供は現在8人いるらしい。16歳を過ぎるとまた別の場所で指導しているそうだ。とにかく王国では子供のころから英才教育をしているという事をニーナに自慢したかったらしい。
少年はファイヤーボールを使おうとしていた。俺たちが見学していると、振り上げた手のひらの上にちっちゃな、サクランボくらいの大きさの火の玉が現れる。前方のところどころ黒く焦げた石壁には三重丸の的が書かれており、その的に向かって火の玉を思い切り投げる。しかし的までは届かず、途中で地面に落ちて消えた。
「ダメだダメだ、ピート!もっと思い切り投げないと!」
ピートと呼ばれた少年に、教師の厳しい言葉が部屋に響く。するとニーナが少年の傍へ近寄って行き、話しかけた。
「火球の魔法か!子供なのにすごいな。」
「お姉ちゃんだれ?」
「私はニーナ。ちょっと見てろ。」
ニーナはそう言うと、指先を的へ向ける。
「火球!」
呪文を唱えると、指先にリンゴくらいの大きさの火球が発生し、真っすぐ的へ飛んで行った。
バシッ!という音と共に火球は的の真ん中に的中し、石壁を黒く焦がして消える。
おそらくニーナとしては力はかなりセーブしているのだろう。
だがそのデモンストレーションは、その場にいた全員を驚かせた。
「おお!」
「お姉ちゃんすごい!」
その魔法はセガールも褒めたたえた。
「素晴らしい!火球の大きさや威力は普通だが、的に向かって真っすぐ飛ぶ軌道!素晴らしい集中力じゃ!」
「少年、そんなに力まなくてもいいんだ。石を投げているのではない。これは魔法なのだから。火の玉が的に飛んでゆくイメージを頭に描いてみろ。」
「うん!」
ニーナのアドバイスを聞き、もう一度ファイヤーボールを作るピート。するとニーナがピートの肩に手を乗せ、「もっと肩の力を抜け」と言う。すると少年の力みが消え、ピートの手のひらの上には、先ほどよりも二回りほど大きい大きさの火球が発生した。
「いいぞ。そして火の玉は壁の的までそのまま真っすぐ飛んでゆく!」
「そのまま真っすぐ飛んでゆく!」
ピートはニーナの言葉を繰り返すと、先ほどとは違いゆっくりと腕を前に倒す。すると、勢いはないもののファイヤーボールはなだらかな弧を描いて飛び、壁に当たって掻き消えた。的からは離れていたものの、飛距離が劇的に伸びた。
「すごい!!!」
「おお!!!」
ニーナほどとまでは行かないけれど、ピートのファイヤーボールの劇的な進化に俺たち全員から拍手が起こる。
「ありがとうお姉ちゃん!」
ニーナのアドバイスにお礼を言うピート。ニーナはそんなピートの頭をなでてやる。
「ご指導ありがとうございます!お若いのに素晴らしい魔法ですね!」
ピートの指導をしていた、髪の毛が耳の上にしかないおじさんの魔法使いがお礼を言った。セガールがニーナを紹介する。
「こちらは魔法学者のニーナ殿じゃ。魔法について勉強しながら旅をしているらしい。じゃが今のを見ると、魔法学者というより立派な魔法使いと呼ばせてもらっても差し支えないな。」
「えっ?!今ので?」
ニーナもちょっと焦る。なぜなら長い修業が必要な魔法使いはいずれも高齢で、肉体年齢が16歳のニーナが魔法使いだとバレると怪しまれるという事で隠しているからだ。だから力をセーブして火球を放ったのに、それでも十分立派な魔法使いを言われてしまった。
「まあでもあの威力では、殺傷力はほとんどないじゃろうなあ。本当の火球の見本を見せてやろう!」
そう言うと、負けず嫌いのセガールが少年の横に立つ。呪文を唱え両手を前に差し出す。左手を右手首に添え、右手の手のひらを的にむける。
「火球!」
ニーナと同じサイズの火球が発生し、勢いよく壁に飛んでゆく。バシィン!!!と大きな音を立て壁に激突したそれは、石壁に小さな穴を開けた。当たった場所は三重丸の的の一番外側だったが。
「おお!すごい!」
再び拍手が起こるが、威力はあったけど何かニーナの方がすごかったようなような気もする。
「ホッホッホッ。実際の戦闘では敵にダメージを与えないといけないからな。これくらいの威力がないとな。」
「ハハハ…。」
ニーナも苦笑いするしかないようだ。なんか魔法のレベルって難しいんだな。
「バーン!お前もやってみろ!」
「へっ?俺は魔法使えないって!」
「騎士団長みたいになりたいんだろ?魔力も0じゃないんだからできるって!」
確かに騎士団長アークさんは魔法も使えると言った。アークさんを目指すなら俺も魔法の修行が必要だという事だ。
「うう…どうやったらいい?教えてくれよ。」
「うむ。手をかざせ。そこに火の精霊サラマンデルを具現化するのだ。」
「サラマンデルって何だよ?」
「火トカゲだ。ともかくやってみろ。イメージしてみろ。」
「んんん…火球、火球、火球…」
「魔力1のお前に火球が出せるはずないだろ!とりあえずは火を出してみろ!人差し指を立てて、その指先に火を起こすイメージするのだ。」
「火、火、火ね…」
目の前に掲げた人差し指に火を起こすイメージを固める。その瞬間。
ボッ!
と、マッチを擦ったような小さな火が一瞬出て、すぐに消えた。
「出た!」
「ギャハハ!!!小っちゃ!!!魔力1じゃそれが限界か!!!」
爆笑するニーナ。
「おいおいおい、俺をバカにしたかっただけかよ?!」
「悪かった悪かった!それじゃちょっとフレイムソードを持って的の方に行ってくれ!」
「へっ?」
ニーナの提案に大人しく従う。みんなが見ていない物陰でこっそりとフレイムソードを出し、的の前まで歩いてゆく。みんなの方を見て尋ねる。
「俺は何をすればいいんだ?」
「ピート、バーンに向けて火球を投げてみろ。バーン!火球をそれで打ち返してみろ!」
「はあ?!」
大声で聞き返す俺。しかしピートは素直にニーナに従い俺に火球を投げてくる。あれ?!打ち返すってどういう事?斬ればいいの?打ち返す?えっ?えっ?えっ?
ピートが俺に向かって投げた火球に対し、俺はとっさにフレイムソードの刃先ではなく平らな部分で打ち返した。
バシッ!という音を立てて火球が空に向かって跳ね返り、だんだん小さくなっていった。
「ギャハハ!本当に打ち返しおった!!!」
どういう事?遊ばれてる?
見ればピートも一緒に笑っている。
「本当は危ないから人に向けて投げちゃだめだぞ。でも今はバーンの訓練だ。もっと投げてやれ。」
「うん!」
そう言うとまたピートが火球を俺に放つ。危ねえ!!もう一度フレイムソードで空に打ち返す。
「当たったらどうすんだ!!!」
「ギャハハ!」
すると今度はニーナも俺に火球を放った。今度は速い。ギリギリ正面で切り裂く。
「コラ!ニーナ!当てる気で放っただろ!」
「これはどうだ?!」
今度は2発同時に。1発は斬ったけど、1発が胴体に当たる。
「グエッ!」
ダメージは小さいけど痛い。ニーナはまだ止めない。次々と火球を俺に向けて放ってくる。それも休むことなく延々と。時々それにピートも加わる。しかし俺はだんだん慣れてきて、何発かは食らった後には、全て空に向けて打ち返すようになってきた。
「ハーハハ!見たか!」
俺が高笑いすると、ムッとしたニーナは連弾を放った!
「チョッ!待って?!」
ボスボスボスボスボス!最初の2発は打ち返したものの、その後の全部が俺の腹に的中。激痛に俺はひっくり返った。ニーナとピートの笑い声が聞こえる。悔しい…。
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その場で起こっている出来事を、嘘だろう?と思ってセガールは呆然と見つめていた。それは考えられないほど連続で火球を放つ少女の姿だ。こんなに早く連射できるものなのか?いやよく考えたら、そもそもこの少女は最初から呪文を詠唱していなかった。魔法を発動するためには呪文を詠唱した後に魔法の名前を唱えるのが常識だ。無詠唱魔法だと?それに延々と魔法を使っているのに魔力が尽きる気配がない。どれだけの魔力を持っているというのだこの少女は?そういえばちょうど横にクアドラがいたことに気が付いた。
「クアドラ、あの少女の魔力をこっそり測定できるか?」
「ああ…やってみるよ。」
そう言って持っていた魔力測定用の器具を使ってニーナの魔力を測定する。出た結果は…
『999』
セガールとクアドラは言葉を失う。あれだけ魔法を使って、なおまだ測定不能な魔力を持っているのか?!何者なのだこの少女は?!セガールは、王国最高の魔力を持つ自分をはるかに超える魔力の持ち主が、こんな幼い少女だと思うと背筋が凍る思いがした。




