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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第2章 王都襲撃
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24.騎士団長アーク・エオプ・テリクス

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 セントラール王国宮廷騎士団、騎士団長アーク・エオプ・テリクス。通称『真珠色の騎士ナイトオブパールホワイト』。ミスリルシルバー合金でできた真珠色の全身鎧フルプレートメイル姿で有名な彼こそ、王国最強の騎士と呼ばれているその人である。


 "最強"とは言っても、戦争のないこの国で強さを評価する方法は3種類ある。


 1つ目は、魔物や山賊などの討伐である。

 王国内で魔物や山賊などの出没が報告されると、そのレベルに応じた討伐隊が結成され派遣される。これは実質宮廷騎士団唯一の実戦の場であり、その成果で報酬も変わる。ゴブリンやオークなどの弱い魔物の討伐より、オーガやトロルなどのより強力な魔物を討伐するほどやはり評価も上がる。


 2つ目は、4年に1回開催される武術大会である。

 セントラール王国武術大会は王国以外からの参加も可能で、観覧に来る観光客も多く国を挙げて行われている一大イベントである。模擬刀による訓練ではなく実剣による実戦であり、神官や僧侶などの回復魔法使いを準備して敗者の怪我も回復させているが、時々不慮の死亡者が出る事もある。死者を蘇生する魔法などないため、それなりの覚悟を持った者しか参加はできない。

 騎士団長アークはこの武術大会において現在4連覇中で、名実ともに王国内最強と名高い。


 3つ目は、この国特有の数値化制度による能力値ステータス評価である。

 セントラール王国では、政策によって人や武器の能力を魔法で数値化し評価を行っている。身体能力測定と、王国魔法機関の数値化部門にて魔法での測定を行っているが、その結果が騎士団や魔法機関などの王国の主要な役職での評価に直結して展開されている。誰にでも分かるよう相対的に評価するためという名目だが、この制度には批判的な意見も多い。なぜなら強さというのは、筋力や敏捷性という身体能力だけでなく、経験やその場の判断力などの数値で表せない部分の方が重要だという意見だ。だが実際にこの数値化制度によって良い評価を得た人間の優秀さも証明されており、現在もこの制度の運用は続いている。


 騎士団長アークは、能力値ステータス評価こそ他の団員に劣る項目があるものの、討伐の実績や武術大会の成績において他の追随を許さない。そしてその正義感の強い人格こそ、国王の絶対の信頼と国民全体からの尊敬を一手に受けている理由である。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 セントラール城の入ってすぐの広間では、城で働く人たちなどでごった返し、出入りが絶えない。

 俺は騎士団長を呼び出してもらって待っている間、広間の片隅のソファでニーナとパンドラに騎士団長がどんな人なのかという説明をしていた。


「ミスリルシルバーの鎧か!見てみたいものだな。」


「ニーナはアークさんよりもその装備に興味があるのか?!」


 そんな会話をしていると、突然垂れ流しの邪気を感じ、俺たちは一斉に振り向いた。


 そこを歩いていたのは出兵前の魔獣討伐へ向かう騎士団の一隊。俺たちが強い嫌悪感を感じたのは、その中の一人の男だった。そいつは人間離れした2m30cmの長身、金色の長髪、その瞳は最悪の狂相、三白眼の男だった。装備も一人だけ独特で、胸から肩までを一体のプレートで覆う特殊な形の鎧、スカート形の腰部鎧には大型のサーベルを下げている。

 そいつも俺の視線に気付くと絡んで来やがった。


「なんだ?部外者が入ってきていい場所じゃねえぞ?ここは城で働く人間しか立ち入り禁止だ。」


「てめえの面を見に来たんじゃねえよ!俺は騎士団長に会いに来たんだ。」


「ケッ!団長と顔見知りだからってここで偉そうな顔してんじゃねえぞ!」


 こいつの名はブラックゲード。俺が世界で一番嫌いな男だ。それはお互い様らしく、顔を合わせるといつもこんな感じだ。

 ブラックゲードという男は、とにかく残虐な性格で、その殺戮欲求を正当に満たすためだけに騎士になった。

 ある時ブラックゲードが大量に回復薬ポーションを買ったことがあるのだが、それは自分の怪我の回復のためではなく、山賊討伐の時に山賊の手足を切り刻んだ後に回復薬ポーションを掛け死なないようにいたぶるために使ったのだという。四肢を切断された山賊が痛みと恐怖で殺してくれと泣き叫んでいたと聞く。さすがにその時はやりすぎだと怒られたそうだ。そして、それ以来こいつは魔獣討伐専門となった。

 生物を殺すことに喜びを感じる下種野郎だ。

 こいつは法律に反することはしていないため、法で罰せられることはない。だがこいつの本質は悪。とにかく俺はこいつのことが大嫌いだ。相手も同じようで、俺のことが気に食わないらしく顔を見ればいつもケンカを売ってくる。

 にらみ合いが続いた後、


「ケッ!こっちはてめえに構ってるほど暇じゃねえんだよ。行くぞ!」


 と言って、討伐隊を連れて外へ歩き出す。他の隊員それにも続く。あんな奴とチーム組まされるやつらも大変だろうな…。


「なんだあいつは?邪気垂れ流しだったな。」


 ニーナもパンドラも嫌な感じは感じていたようだ。関わらない方がいい奴だと説明をする。だがいつかあいつと俺は殺し合いの決闘をする日が来るような気がしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その後少しして騎士団長アークさんがやってきた。


「待たせて悪かったな。」


 清潔に短く刈り込んだ髪。意志の強さを感じる太い眉と強い視線。今年40歳になるこの人がセントラール騎士団団長アーク・エオプ・テリクスだ。


「アークさん!」


 ゆったりした白いシャツに黒いスラックスという、そのアークさんの服装を見てニーナが言った。


「なんだ?ミスリルの鎧は着てないんだな?」


「ハハハ…鎧を着るのは式典や出兵の時だけだよ。ニーナさんとパンドラさんかな?ブライトン卿から伝書バトが届いて聞いているよ。それよりこんなところで話すのも何だ。私の部屋へ行こう。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺たちはアークさんの部屋へ通してもらった。

 騎士団員には全員城内に寝泊まりができる部屋が与えられる。だが団員全てに私室が用意されているわけでなく、多くは他の団員との共同部屋となっている。騎士団長であるアークさんの部屋はそんな団員の中でも一番豪華な部屋である。

 ニーナは部屋の入り口近くの鍵付きの格子扉の中にある真珠色の全身鎧フルプレートメイルを珍しそうに眺めている。その鎧は、銀よりも美しく輝くミスリルシルバーと貝などから採取した特殊な成分との合金製で、対魔法防御能力もあるのだという。


「これは見事な鎧だな!」


 俺とパンドラはアークさんの部屋のゆったりとしたソファに座らせてもらっていると、アークさん自らお茶とお菓子を持ってきてくれ言った。


「これはこれはお褒めにあずかりありがとう、ニーナさん。ドワーフの国で作ってもらったものなんだ。」


「ほほう!」


 そんなニーナをしり目に、アークさんは俺たちの対面に座った。


「ご苦労だったなバーン。それでどうだった?初めてだろうフィックスに行ったのは?」


「はい。最初ただの荷物運びなんてって思っていましたけど、この街と全然違う都市を見るのは新鮮でした。フィックスは治安も悪くてひったくりを取り押さえたり、街はずれの村では税金に苦しんでいる貧しい農家の方と知り合ったりしました。この世界はまだ俺の知らないことがたくさんあります。」


「そうだろう。だからバーン、お前は早く騎士になりたいと言うが、その前にもっと色々な世界を見て来た方がいい。騎士になるなんていつでもできる。だが宮仕えの身になってしまえば自由はなくなり、その国以外のことを知る機会を失ってしまう。今のうちにいろいろな経験を積むといい。」


 俺の返事を聞くとアークさんは満足そうな顔をして言った。おそらく今回俺に高回復薬ハイポーションをフィックスまで届けさせたのは、俺にこの街の外の世界を経験させたかったという目的もあったのだろう。


「だけど俺より若くて騎士になっているやつもたくさんいるし…。」


「それは退役後、元騎士団員という肩書を得たい貴族の若者たちだろう。お前が欲しいのはそういう肩書ではなく本当の強さじゃなかったのか?」


「そうなんですけど、俺はアークさんみたいになりたいんです。」


「俺の背中を追いかけてくれるのは嬉しいんだがな。お前がなるべきは俺のコピーではなく、その向こう。俺を越えて強くなったお前自身だよ。」


「難しいです。分かるような分からないような…。」


「ハハハ!今は分からなくても、いつか分かる日がきてくれればいい!とにかく任務ご苦労だったな。報酬は店の方に届けておくよ。」


「ありがとうございます!」


 そこで鎧鑑賞が終わったニーナがソファにやって来る。


「騎士団長殿とバーンはどういう知り合いなのだ?」


「アークさんは俺の命の恩人で、剣の師匠なんだ。」


「ほう?命の恩人とはただ事ではないな?」


 俺は、俺とアークさんの出会いからこれまでを二人に話した。


 俺が生まれた村は、魔物によって滅ぼされた。その時俺の命を救ってくれたのはその時はまだ団長に就任前の一介の騎士だったアークさんだった。その時俺もこの人のように強くなると誓ったのだ。俺はその後アークさんを追ってこの街セントラールへやって来て、アークさんから直々に剣を教わった。俺はアークさんのような騎士になるため、敢えて冒険者ギルドへは登録しなかった。そんな俺にアークさんはシンエモンさんを紹介してくれ、俺は今そこで剣の腕を磨きながら働いている。


「なるほど。そんなことがあったのか。ところで騎士団長殿。団長殿は魔法も使えるのか?」


 その言葉に驚くアークさん。表情が硬くなる。俺も寝耳に水だ。アークさんが魔法を使うなんて聞いたことがない。なぜならアークさんは王国一の剣士なのだから。


「なぜそんな事を聞くのですか?ニーナさん。」


「団長殿から魔力を感じるので。本来騎士とは剣術の達人で、魔法使いとは別の職種クラスと聞くが?」


「フフフ。鋭いですね。実は私は武器・防具強化のための付与魔術エンチャントマジックと、体力回復や解毒などの初歩的な回復魔術ヒーリングマジックが使えます。魔物討伐の時以外、ほとんど人前で使ったことはありませんし、話したこともなかったのですがそれを見抜くなんて。ニーナさん…、あなたは何者なのですか?」


「やはり魔法騎士であったか。聖騎士パラディンと呼んでも差し支えないくらいだな。私は、異国からやってきた魔法学者だ。この国の魔法について勉強させてもらいたいと思ってるんだ。もしできたら、この国の魔法使いに紹介してもらえないかな?」


 魔法学者という急ごしらえの言葉に当然疑問を持つアークさん。だがおそらくニーナが悪い人間ではないことはすぐに見抜いたのであろう。笑って答えた。


「なるほど、それではそちらのパンドラさんも魔法を使えるのですね?」


「え?!私?わたしは、その、レンジャーなので職種クラスに基づく簡単な魔法なら…。」


 急に振られてびっくりしたパンドラは、おそらくその職種クラス特殊技術スキルも修めているのであろうレンジャーという職種クラスの名前を出すことでお茶を濁す。


「なるほど。それではお二人の事を、この国の魔法機関の責任者に伝えてみましょう。忙しい方なのでお会いできるかどうか分かりませんが。それと一つだけ先に言っておきたいのですが、その責任者の魔法使いセガール殿なのですが、ちょっと変わった方なので、失礼があってもお許し願いたい。」


「変わった方?なのか?」


「ええ。なんというか、いわゆる魔法バカなのです。…それでは私がセガール殿に伝えに行ってくるので、この部屋でお待ちください。」


 まもなくしてアークさんが戻ってくると、一人の老紳士が一緒であった。


 白いシャツにグレーのジレベスト、真っ赤なリボンタイが印象的な、すらっとした体型の老紳士。グレーのフード付きのマントを羽織り、手には木製の杖を持っている。杖は持ってはいるものの背筋は真っすぐだ。長いあごひげ、痩せた顔に深く刻まれたシワ、好奇心にきらきらした目。

 アークさんと一緒にやってきたこの老人こそ、忙しいはずのその人、セントラール王国魔法機関最高顧問、魔法使いセガールだった。

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