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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第2章 王都襲撃
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23.邂逅

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 少ししてビャクヤさんが落ち着いてから、俺たちはテーブルを囲んでゆっくり話をすることにした。

シンエモンさんが台所から人数分のお茶を持ってくる。

 俺たち4人が座る四角いテーブルの上に、いびつな形の陶器製のコップに入れられたお茶が並ぶ。残り1杯のお茶を持ってシンエモンさんは一人離れた場所の椅子に座った。

 俺は、まず任務が無事完了した事を報告し次いでニーナとパンドラを紹介する。

 そして、この場にいる全員が気になっているであろう事をズバリ単刀直入に聞いてみた。


「ビャクヤさんとパンドラって、知り合いだったんですか?」


 見つめあうビャクヤさんとパンドラ。どっちが話す?って感じでアイコンタクトして、先に口を開いたのはパンドラだった。


「ちょっと昔、一緒にお仕事してたのよね。」


「はい…。」


 嬉しそうに相槌を打つビャクヤさん。いやいや、それじゃ全然分かりません。みんな気になってるのは、さっきの物騒な話の事ですよ。


「失礼でござるがパンドラ殿。妻に昔オンミツ術のご指導をいただいたとか。恥ずかしながら拙者その話を聞くのは初めてなもので、お二人に何があったか聞かせてくださらんか?」


「そもそもオンミツって何なの?」


 シンエモンさんの問に俺も付け加えさせてもらう。言葉の意味を知らないまま話を続けられても理解できないと困るから。


「えっとね、オンミツっていうのは、盗賊シーフ暗殺者アサシン諜報員シークレットエージェントとかを総称したような職種クラスの事ね。魔法とはまた違ったオンミツ独特の術式があって、私一時期その修行してた事があったから使えるの。それでビャクヤちゃんがまだ子供だったころ…。」


「あれは15年前になりますね。」


「やだー?そんなに経つかしら?ビャクヤちゃんいくつになったの?」


「28になりました!」


「大人になったわね~。」


「あの…パンドラ様はおいくつになられたのでしょうか?15年前と全く変わらないようですが…」


「ギクッ?わ、わたしはね、実はエルフみたいな長寿の一族の血が入ってるのよ。」


 …苦し紛れだ。


「そうだったのですね!最初見た時に全く変わってなくてビックリしてしまいました。」


 …ごまかせたようだ。あまり突っ込んで聞かれても困るだろうから、ここらで話を戻させてもらうよう俺は口を挟む。


「それで、15年前ビャクヤさんが13歳?の頃に二人は出会ったんですか?」


「そうね。あの頃はビャクヤちゃんはまだ13歳の子供だったのよね。懐かしいわ。あの頃のビャクヤちゃんは両親を殺されたばかりで復讐する事しか生きる目的がない子だったから、私がちょっと力を貸してあげたのよ。いやー、あいつらのバックにあんな大層な組織があるなんてビックリしちゃったわよね!」


「でもパンドラ様と私の手に掛かれば大した事なかったです!それにあの事件があったお陰で、この街で悪事を働く組織には滅ぼしに来るやつらがいるって噂が広まっちゃって、それ以降この街の治安もずいぶん良くなったんですよ。」


「懐かしいわね~。」


 この二人恐ろしいことを笑顔で話している気がする。


「オンミツの特殊技術スキルとは、具体的にどんな技があるんでござるか?」


 奥さんの知られざる過去が気になるシンエモンさんから質問が飛ぶ。


「本当は流派とかあって、それぞれにいろいろすごい奥義があるんだけどね。私も表面的な技をかじった程度だし、ビャクヤちゃんに授けた技も基本的な技だけよ。例えば、精霊魔法エレメンタルマジックと同じように精霊を用いて姿を隠す遁術という術があるわ。影縛りっていう術は魔法で言う麻痺スタンみたいなもので、敵を動けなくさせる術。分身っていう術は魔法で言うと虚像ミラーイメージと同じようなものね。使い手によっては虚像を生み出す幻影分身の術だけでなく、本体とは別の行動をする実体としての分身の術が使える術者もいるらしいわ。そう考えるといろいろ教えたわねー。」


「そうですね!」


「ちょっと待ってくれでござる。つまりビャクヤは、その魔法のような術をいくつも使いこなせるって事でござるか?」


 驚くシンエモンさんに対し、パンドラが答える。


「そうよ。それに術式だけでなく、剣術や特殊武器の投擲術とか体術とかね、いろいろ実践的な事を教えたから。ぶっちゃけあの時も私の手助けなんか無しに、ビャクヤちゃん一人で暗殺集団を壊滅できたんじゃないかしら?」


 シンエモンさんが驚きの表情を隠せないでいる。そりゃそうだ。剣一筋で生きてきたのに、実は自分の奥さんの方が強いかもしれないのだから。その様子に気づいてビャクヤさんが言った。


「シンエモン、剣術だけなら私はあなたに及ばないわ。それに人の強さっていうのは技術だけでなく心の強さが一番重要でしょ。だからいつも頼りにしてるわよ。」


 ビャクヤさんがシンエモンさんを褒めるなんて珍しい!ということは、励まさなければいけないほどシンエモンは凹んでたって事か?

 シンエモンさんを見ると、照れてる。褒められてそんなにうれしいのか。わかりやすい人だ。


「しかし…話を聞くと、そのオンミツっていうのは一人いるだけでこの国も転覆しかねないな。」


 俺は思った事を素直に口に出した。話を聞く感じだと暗殺集団を壊滅させるだけでなく、この国の暗部を一掃したようにも思える。オンミツ術の基本的なところを教わったビャクヤさんとパンドラの二人だけでそれだけのことをしたという話なら、オンミツ術を極めた人間が一人いるだけで、その人間が悪意を持てば一国を転覆させることはわけないだろう。


「昔と比べて人間という種は弱くなったな…。」


 ニーナがぽつりとつぶやいた。


「弱くなった?」


「ああ。争いが少なくなったせいもあるかもしれないが、個としての戦闘能力が格段に低くなったようだな。吸血鬼バンパイヤ1体だけで国が亡ぶ可能性があるとか言っているのだろう?昔は吸血鬼バンパイヤと単騎で対抗できる戦士も数多くいた。それが今では普通の魔法使いですら絶滅寸前なんだろう?」


 おそらくニーナが比べているのは古代超帝国時代の事だろう。その時代を生きた人間はもはやいないのだから、ニーナが言っていることが理解できるものはいないかもしれない。パンドラが答える。


「そうね。オンミツという職種クラスも、私が修行したころですら廃れてきていたし、今ではもう絶滅しちゃったかもしれないわね。」


「そう考えると、突出した一人の戦士や魔術師の出現により、世界は一変する可能性もあるということだ。今のこの国に住む人間はそういうとても不安定な平和の上で生きているということだな。」


「その平和を守っていくには、さらに上の段階まで強くならなきゃいけないってことか。」


「そうだ。バーン、おまえはその世界の片りんを目にしただろう?世界の平穏を守る役目を担いたいと思うのなら、さらなる高みを目指せ。」


「ああ。」


 俺の強くなりたいという思いを知ってか、ニーナのその言葉は俺の胸に響いた。同時にそれがとても困難なことであるとも理解しているつもりだ。俺が少し不安そうな顔をしていたのか、パンドラが言った。


「大丈夫よ。バーンならきっともっとずっと強くなれるわ。」


「ありがとう。」


 その後ビャクヤさんから聞いたのは、暗殺集団を壊滅させた後にパンドラと別れたこと。その後も裏稼業を生業にしていたところにシンエモンさんと出会い裏稼業を引退したこと。その後シンエモンさんと一緒に今の仕事を始めたことなどだった。


「でも私に『拙者が食わせてやるから心配するな』って言ったシンエモンの稼ぎが少なくて苦労してるんですよ。」


「うっ?!」


 シンエモンさんが隅っこで小さくなる。返す言葉もないらしい。


「大変そうね。バーンを雇うお金も大変なんじゃない?」


「うっ?!」


 俺もシンエモンさんと同じリアクションを取る。密かに俺も気にしていたことを…。


「それがですね、逆なんですよ。実はバーンをここで雇ってくれって紹介して来たのが、この国の宮殿騎士団の騎士団長のアーク様なんです。その縁もあって騎士団長様からたくさんお仕事を頂いているんですよ。バーンがいなくなっちゃったら逆に仕事がなくなって干上がっちゃうんです。」


「何?バーンってそんな偉い人と知り合いなの?」


「ああ。騎士団長は俺の憧れの人なんだ!今回の西の街まで高回復薬ハイポーションを運ぶ仕事もアークさんから受けた仕事なんだ。依頼完了の報告しにいかないといけないな。」


「そうね、こんなところで世間話してる暇があったら、早くアーク様へ報告へお行き!」


「ハイ!」


 俺が席を立とうとすると、ニーナが言った。


「バーン、私はこの国の魔法がどれほど発達しているか見てみたいんだが、その騎士団長に頼めばこの国の魔法使いに会わせてくれるかな?」


「多分大丈夫だ!それじゃ一緒に行こう!」


「私もお城に入ってみたいから連れてって。」


 そうパンドラも言い、3人でセントラール城へ向かう事にする。


「パンドラ様、今日のお宿は決まっていますか?ボロ屋ですけど、良かったらニーナさんとご一緒にここに泊まって行かれませんか?」


「ありがとビャクヤちゃん!それじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。」


「それじゃ、夕食もご用意させてもらいますね!私料理も上手になったんですよ。」


「わー!楽しみ!」


そして俺たちが店から出る時、見送りに来たビャクヤさんがパンドラに話しかけた。


「パンドラ様、先ほどは変わらないと言いましたが、やっぱりちょっとお変わりになられましたね。」


「そう?」


「なんというか…、昔は少し近寄りがたい雰囲気があったのですが、今はとても話しやすくなりました。」


「うふふ…、ありがとビャクヤちゃん。」


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