22.なんでも屋
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『なんでも屋』そう書かれた看板が掲げられた建物の横に馬車を止める。
ニーナがその看板を読み、俺に質問する。
「なんでも屋?ここがバーンの職場か?」
「ああ。職場兼、居候させてもらっている住居だ。」
「何の店なんだ?回復薬配達専門ってわけじゃないよな。」
「簡単に言っちゃうと、冒険者ギルドの仕事のおこぼれをもらってる会社だ。会社っつってもオーナーがいて従業員は俺と俺の上司のシンエモンさんの二人だけなんだけど、ただ俺らの剣の腕の信用度とオーナーの秘密厳守の信用度を買ってもらって、冒険者には頼みにくい仕事なんかが回ってくるんだ。」
「へー。でも儲かってるわけでなないようだな。」
そう、見るからにみすぼらしい建物だ。街の中心部にあったような石造りの頑丈な家とは違い、木造建築で風雨にさらされた外壁はくすんだ色をしている。隙間風には慣れたが、雨がひどい日には雨漏りがひどいのが悩みだ。建物を見るだけで、儲かっていないのは一目瞭然だろう。
「見た通りだ。つーかシンエモンさんが儲かりもしないような仕事ばっかするから…。あとオーナーも自分が気に入らない仕事は引き受けないしね。」
後で馬車から荷物を降ろしたり、この借り物の馬車を馬屋に返しに行ったりしないといけないが、まずは報告だ。
王都では非常に珍しいスライド式の木製の扉を開け、中に入る。
「ただいま帰りました。」
俺が帰宅の報告をしながら中に入ると、そこに居たのはぼさぼさの黒髪を後ろに束ねた中年の男。ちょっとしゃくれたアゴ、痩せこけた頬には無精ひげが目立つ。痩せてはいるものの、その四肢の筋肉は引き締まっており、戦士としての力量も感じさせる。この人が俺の上司のシンエモンさんだ。
ちょうど剣の手入れをしていたらしい。その剣は王国でよく見る両刃の剣ではなく片刃の剣で、刀身は薄く、わずかに反っている。刀という異国の剣だ。
「おお?!バーンか。仕事は無事完了したでござるか?」
「はい、シンエモンさん。フィックス領主の娘は無事に回復しました。」
「それは良かったでござる。」
「ござるって!?どこの言葉だ?」
シンエモンの言葉遣いに違和感を覚えたニーナが言った。俺だってまだこの人の言葉遣いにはまだ慣れない。
「ん?そちらのおなごたちは何者だ?」
ニーナとパンドラの姿を見てシンエモンが尋ねるので、俺が紹介する。
「この二人は道中で出会って、いろいろと助けてくれたニーナとパンドラです。ニーナ、パンドラ、この人は俺の上司のシンエモンさんだ。シンエモンさんは海の向こうの島国出身なんで、言葉遣いがちょっと独特なんだ。」
「こんなべっぴんさんを二人も連れて来るなんて、バーンも隅に置けないでござるなあ。そちらのお嬢さんは異人さんでござるか?」
そう言われたのは銀色の髪の毛のパンドラ。
「やっぱりパンドラの髪は目立つよな…。」
この国の人種は、基本黒髪だ。
シンエモンさんは異国人だが、髪も肌の色もこの国の国民と大差ないため普段それほど目立つことはない。文化は非常に違うのだが。
そんなセントラールの街中を、この銀色の髪のパンドラを連れて歩くことは非常に目立ってしまいそうだ。
二人がそれぞれ魔法使いと吸血鬼であることは隠すことにしてるけど、なんだかんだこの二人は目立つ。なかなか面倒そうだ。
「私、帽子かぶった方がいいかしら?」
「そうだな…街中ではなるべく外套のフードを被るくらいしておかないと、道行く人みんな振り返りそうな気がする。」
そんな会話をしていると、奥から声がした。
「あら?バーン、帰ってたのかい?」
そう言って出てきた声の主は、シンエモンさんの奥さんであり、この会社のオーナーでもあるビャクヤさんだ。
ビャクヤさんは、なぜシンエモンさんなんかにこんな美人の奥さんが?と言われるくらい器量の良い女性で、一言で言えば"オトナの女"だ。性格は竹を割ったような真っすぐな性格の人で、人当たりの良い人なのだが、シンエモンさんに対しては厳しい。シンエモンさんもビャクヤさんには逆らえない。そんな二人のやりとりは、多少シンエモンさんがかわいそうになることがあるが、見ていてほほえましい。俗にいう尻に敷かれているというやつだ。これはこれで一つの夫婦の形としての完成形なのだと思う。
ビャクヤさんは俺にとっては雇い主であり、良き姉貴分といった感じの人だ。
「ビャクヤさん、無事にフィックスから帰りました。」
「そりゃよかった。さあシンエモン、バーンの荷物の片付けを手伝っておやり!おや?お客さんも連れてきたのかい?シンエモン!お客さんにお茶を出すんだよ!」
ビャクヤさんはシンエモンさんに次々と指示を出す。そして俺が連れてきたニーナとパンドラを見て、突然動きが止まった。
正確に言うと、パンドラを見て、だ。
ビャクヤさんはパンドラを見つめたまま固まっている。
俺も振り返ると、パンドラは、あっ?!という顔をしている。
しばし沈黙が続く…。何事が起きたか分からない俺たちも何と声を掛けていいか分からない。
最初に口を開いたのはビャクヤさんだった。
「パンドラ様?」
ビャクヤさんがパンドラの名前を呼ぶ。え?知り合いだったの?
「パンドラ様ですよね?!そんな…お変わりなく…」
「えっと…」
パンドラの方は何か言葉に詰まっている。人違いだと言おうとしてるのか?
「私です。ビャクヤです!パンドラ様に様々なオンミツの特殊技能を授けていただいた弟子のビャクヤです!!!暗殺集団を一緒に壊滅させたビャクヤですっ!!!」
ちょっと待って?!オンミツのスキルとか何それ?ビャクヤさんなんかすごい技持ってたの?つーか暗殺集団壊滅ってなにその武勇伝???ビャクヤさんってめっちゃ強かったの???
さらっとカミングアウトされる武勇伝にビックリしていると、俺だけでなくシンエモンさんも初耳だったようで、口をポカーンと開けて目を丸くしている。
パンドラは顔を斜めに伏せながら横目でビャクヤさんを見て、ちょこんと手を上げると言った。
「…はーい!ビャクヤちゃん、お久しぶり!元気にしてた?」
直後ビャクヤさんがパンドラに飛びつき、そして泣き出した。
突然の光景に俺たちはあっけにとられる。
どこか少女のような幼さもある外見のパンドラに、大人のビャクヤさんがしがみついて泣くという不思議な光景だったのだが、その時はなぜかビャクヤさんが子供のように見えた。




