21.王都セントラール
高さ10mくらいあるのではなかろうかというとても高い城壁が、見渡す限り続いていた。
その城壁の向こう側にあるセントラール王国最大の都市こそ、王都セントラールだ。
城壁を囲うように張り巡らされている堀には、10人以上が横に並んで歩けるほどの幅の、大きくそして頑丈な橋が架かっている。その橋を渡りきると、初めて見る者は感嘆するという荘厳な正門にたどり着く。ここがセントラールの街への入り口である。その巨大な門は現在では常時開け放たれており、その門の中に作られた小さな囲いで、王都への入場者・退場者の通行を管理している。
小さな一頭引きの幌馬車に乗ったバーンたちも、そこで入場の手続きを行っていた。
180cmという人間族としては高めの身長、鍛えられた屈強な肉体、逆立った黒髪、長旅で傷んだ外套を羽織り、中には革の鎧、腰には古びたショートソード、使い込んだ旅の装備。武器だけはいささか貧相だが、緊急事態のため旅の途中盗賊より奪ったもののため仕方がない。それ以外は屈強な冒険者のいでたちの男。それがバーンという男の外見だ。
バーンは、西の街フィックス領主の元へ高回復薬を届ける仕事を終え、セントラールへ帰ってきた。
出発した時は一人だったが、なぜか帰ってきた今は3人でいた。
旅の途中で合流した仲間の一人は、長く美しい黒髪が印象的な少女。
その澄んだ黒い瞳は、初めて来るこの街を物珍し気に眺めている。
旅用の革のブーツ、膝が隠れるくらいのスカート、そして日よけの外套、そのどれもまだ買ったばかりという感じで旅に慣れない雰囲気。実際その服装は、この街に来る直前にフィックスで買ってそろえたばかりだ。
彼女の名前はニーナ。こう見えて何千年も生きている魔法使いだ。
彼女はその強力な魔法の力で不老不死となった。何千年も森の中で暮らしていたが、バーンと出会い街へ出てきた。
「ここが王都セントラールだ。」
すごいだろ?という意味で俺が話しかけると、ニーナは「なるほど…。」と興味深そうに見回した。俺が想像していた驚いたリアクションは返ってこなかった。
長い間森の中で一人で暮らしていたのだから都会は珍しいと思ったのだが、そうでもなかったかな?
ニーナは古代超帝国時代から何千年も生きている魔女だ。今では滅びてしまった古代超帝国は、きっともっとすごかったのだろう。
そういえばニーナの過去の話って何も知らないな。今度ゆっくり聞いてみよう。
「パンドラはここへは来たことはあるか?」
「そうね。たまにだけど。」
そう答えたのは旅の途中合流したもう一人の仲間、パンドラだ。
パンドラはとても珍しい透き通る銀色の髪をしており、整った顔立ち色白で上品な雰囲気は、どこか貴族のお嬢様のようにも見える。
瞳の奥には人を惹きつける魔性も秘めているが、実際はとても話しやすい社交的な性格だったりする。
このニーナの親友であるパンドラも、不老不死の存在だ。
ニーナが自身の強大な魔力によって不老不死になったのに対して、パンドラはその種の特性として不老不死である。その種族の名は純血吸血鬼。すべての吸血鬼の祖先であり、唯一無二の存在だそうである。
吸血鬼と言えば人類の天敵とも呼ばれ恐れられているが、パンドラは人類に対しとても友好的なので時々吸血鬼であることを忘れてしまうこともある。
しかし敵対する者に対してはやはりその恐ろしい本性を表す。
この二人に逆らうことは絶対にしてはいけないだろう。
俺たちは正門での手続きを終え、街の中へと入る。
「まずはどこへ行くんだ?」
ニーナから問われ、俺は答える。
「まずは任務が無事に終わった報告を上司にして、その後依頼人に報告に行く。街の案内はそれからだな。」
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馬車に乗りながら幅の広い石畳の道路を進む。道路の中央が馬車の通り道、左右に徒歩の人が通る歩道となっている。このような作りのインフラを備えた都市は、国内広しといえどこのセントラールだけだ。そんな俺の街の説明を、ニーナはなるほどと聞いている。
「かなり高い城壁に囲まれていて、鉄壁の城塞都市という感じだが、よく戦争があるのか?」
「いや、王国の周りにはそれほど力を持った国はない。組織単位の争い事は絶えないが、この国が国家間の戦争に巻き込まれる事なんてここ何百年もないよ。それだけ現在の王国は強大なんだ。」
「それじゃなんであんなに高い城壁が必要なんだ?」
「あの城壁は1000年以上前からあるんだ。まだセントラール王国が統一される前に作られ、そしてどの戦いでも破られなかったため、セントラール王国がこの周辺諸国を統一したって教わったよ。」
「なるほど。確かにあれならその辺のモンスターもこの街には入ってこれないだろうしな。でも空を飛ぶモンスターに襲われたら危ないかもしれないな。そういえば今はもうこの国にはドラゴンはいないらしいな。」
ドラゴン?!空想上の生物だという人もいる、地上最強の生物の事だ。もちろん俺自身見たこともなければ、見たという人を聞いたこともない。ニーナは…見たことがあるのだろうか?
「ニーナはドラゴンを見たことがあるのか?」
「昔この平原には、草原竜が住んでたんだ。」
「えっ?!」
そこにパンドラが補足をする。
「草原竜は2000年前に寿命で死んじゃったのよね。」
「えっ?!えっ?!えっ?!」
そんな歴史聞いた事もなかった。
「バーンはまだ生まれる前だものね。この草原はもともとは草原竜のものだったのよ。草原竜が寿命で死んじゃって、人間たちが住み始めたの。最終的にこの国が残ったってことは、このセントラール王国にドラゴンの加護があったってことね。」
俺が街を紹介するつもりが、いつのまにかパンドラにこの国の歴史を教わることになっていた。
そんな会話をしながら馬車は大通りから裏通りへ、さらに人気のないところを通り、目的地へたどり着く。
そこは川沿いに建てられた古びた木造の建物だった。入り口には「なんでも屋」という看板が掲げられていた。




