18.サリィ
結局俺は泣いてる少女の前でおろおろするしかできず、ニーナとパンドラに対応を任せた。
少しして落ち着いたようで、少女は自分のことをいろいろと話してくれた。
名はサリィといい、年齢は11歳、街から少し離れた農村で父と二人で暮らしているらしい。
母親は昨年病気で亡くなってしまったのだそうだ。
母が亡くなって以降父親が元気をなくしてしまったそうで、そんな父のために母が得意だったお菓子を作ってあげようと思い、その材料を買いに街へ来たそうだ。
そしてお店を探している途中、先ほどのひったくりに会ってしまったらしい。
彼女は「お小遣いを貯めて街へ来たのに何も買えなくなっちゃうと思った。」と言って、また泣きだした。
怖かったことを思い出したのだろう。
ちなみにひったくりから取り返した少女の所持金は、たった銅貨100枚=10G(=1000円くらい)だった。少ないお小遣いを少しずつ貯めたのだろう。そんな大切なお金でお父さんにお菓子を作ってあげたいだなんて・・・
「なんていい子なんだ!!!」
突然3人の会話に割り込む俺。
「お菓子作ってあげたらお父さん絶対元気になるよ!」
話を聞いてて俺は涙が出てきちゃったよ。
俺のテンションが高すぎたのか、3人は同時に笑いだした。…この場合笑われたというのが正しいのか?
どちらにせよ、さっきまで泣き止ますことができなかったサリィも笑ってくれてよかった。
ちょうどニーナの服も買い終わったところだし、危ないから3人でサリィの買い物に付き合うことになった。最初サリィも、いいんですか?と恐縮していたが、だんだんと打ち解け、そのうちニーナとパンドラと手をつないで歩いていた。
ニーナは買ったばかりの服に着替えていて、魔女っぽい感じから旅人とか町民っぽい感じになった。これであまり目立つこともないだろう。
卵と牛乳、そして砂糖を買い、なぜか当然のように俺が荷物持ちとなった。
買い物はすぐに終わった。サリィが、ちょっと歩くけど良かったら私の家で一緒にお菓子を食べませんかと誘ってくれたため、家まで送って行くことにした。
サリィの家は街の北にあるらしく、俺たちがやってきた東門とは別の北門を通る。
門を通る時、通行料一人1Gの支払いをした後、荷物検査があった。
「これが街で買ったものか?持ち出し税は1Gでいいだろう。」
警備兵から意味の分からないことを言われた。
「持ち出し税?なんだそれ?だって買うときにも消費税取ってるだろう?二重に取るのかよ?!」
「何を言ってるんだお前?この街は初めてか?この街では物を買うときの消費税とは別に、街の中に売るための商品を持ち込む時の関税が10%。逆に買ったときの商品を持ち出す時にも関税が10%かかるのだ。それが払えないのなら街の中で消費してしまうか、物を買うのをやめるんだな。」
「服はどうなるんだ?」
「街の中で着たなら通行時に税金はかからない。門を通る時に売れる状態の新品だった時にかかるものだ。他にも細かいルールがあるが、とにかく我々が言った金額を払えばいい。払えないのならば置いて行け!」
「それにしたって10%って高すぎだし、1Gだと10%以上じゃないか!」
「細かいところは我々が決める。あまり文句を言って私に仕事を邪魔するなら捕えるぞ!」
「バーンさん、いいんです!」
俺はサリィにたしなめられ、サリィは黙って1Gを支払った。
子供の前で騒ぐのも大人げない気がしてそれ以上追及できなかったが、なんだか釈然としなかった。
サリィの村へ向かう道中、俺は尋ねた。
「サリィ、騒いでごめんな。王都では国内の物資の通行に係る税金はないんだ。この街の税金は高いんだな。」
「前は5%だったんですけど、最近また税率が上がったそうです。私が生まれる頃は通行料もなかったそうなんですけど。」
「そうなのか…。」
「お父さんも、税金が高くなって作ってる野菜を街で売るのが大変になったって言ってました。」
「なるほど…。」
後で税金が高くて困ってる人がいると領主に伝えてみるかな…。
サリィの村に入ってからも4人で話しながら歩いていると、やがてサリィの家が見えてきた。
「お父さんただいま!」
サリィの父は外で畑仕事をしていた。
「おかえり。そちらの3人は?」
俺たち3人はサリィの父に挨拶をする。
「こんにちは!」
「こんにちは。」
挨拶を返してくれたサリィの父は、村以外の人がこんなところまで来るのは珍しいという顔をしていた。
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「娘を助けてくださりありがとうございました!!!」
サリィの家に招かれ、サリィが父に事情を説明すると、サリィの父は深々と頭を下げた。
領主だけじゃなく、この人も娘大好き人間だな。
「サリィの父親のバートンと申します。バーンさん、本当にありがとうございました。」
「バートンさん、頭を上げてください!たまたま通りすがりにひったくりを取り押さえただけですよ!」
「ちょっと出かけてくるって言っていただけなので、まさか街まで行くとは。知ってたら危ないから一人で行かせなかったのですけど。」
「だってお父さんに内緒でお菓子作りたかったんだもん!」
「そうか、ありがとうサリィ。でも危ないから今度からは一人で街へは行かないでくれよ。」
「うん!」
「もっと街の治安が良ければいいんでしょうけどね。」
「そうなんですよ。城壁に囲まれているのに、逆に中の方が治安が悪いくらいで。昔は街の中には警備兵も多く、こんなじゃなかったんですけど。」
「そうなんですか…。さっき門で関税を取られたんですが、あれも昔はなかったそうですね。」
「ええ…最近は商人ギルドがやりたい放題で…。商人ギルドの者なら関税も通行税も免除されるんです。ですから街の中の商人だけが儲かるようにできているんですよ。我々は作った農作物を街に売りに行くのに税金が増え、生活必需品を買ってくるのにも税金がかかる。街の外に住む私たちの暮らしは厳しくなるばかりです。かと言って街に家を買う余裕もないですし…。」
聞けば聞くほど悪政だな。
「領主のブライトン様は私たちのためにいろいろと議案を出してくれているようなんですけど、なかなか議会を可決しないそうで…。噂ではフィックスの領議会の者の多くが商人ギルドから不正な利益を得てるっていう話も耳にします。」
「ちょっと調べてみる価値はありそうね。」
俺とバートンさんの会話にパンドラが割り込んできた。
「調べてみる?パンドラ、この街に誰か知り合いがいるの?」
「知り合いはいないけど、しもべが一人いるじゃない。あいつにいろいろ探らせてみるわ。私も元々そういう調査が得意なんだけど、今回はしもべ使ってみるわ。あいつがどれだけ使えるか確認する意味も含めて。」
バートンさんが何の話?という顔をしているので、「すいませんこっちの話です。」ってごまかしておく。
そしてバートンさんは、街と関係のない俺たちにこんな話をしても困らせるだけだと思ったようで、
「すいません、なんだか愚痴を聞かせてしまったみたいで!それで…娘を助けていただいてありがたいのですが、何もお礼できるようなものがなくて…。」
「いえいえお構いなく!」
と、俺が言うとニーナが、
「いや、サリィがプリンというものを作ってくれるというので、それをお礼にもらうつもりだぞ!」
と、なんかめっちゃ楽しみにしてる風に言った。
「ニーナお姉ちゃん、今から作るから待っててね!」
「いや、手伝おう!作り方も見せてくれ!」
「いいよー。」
「私も手伝うわ。」
と、女子3人は厨房へ行った。めっきり打ち解けているようだ。サリィ、俺には敬語なのに・・・。
残された俺とバートンさんで待っている間、話をしていたが、フィックスの治安の悪さ、税金などの悪政が商人ギルドの台頭と共に悪化している風に感じた。後で領主に直接相談してみよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うまいっ!!!」
サリィと作ったプリンを一口食べ、ニーナが叫んだ。
ずっと森で暮らしてきたため、プリンを初めて食べたのだろう。
大げさだなあと思いながら俺も一つもらって食べた。
「うまい!」
程よい甘み、手作りの温かさ、別段特別なところは何もない。だがしかし、うまい。素朴な家庭の味というやつだこれ。
ニーナはすぐに1個食べてしまった。
「サリィは天才だな。」
「えへへ、お母さんに教わったんだよ。」
「サリィのお母さんが天才なのか。」
と、ニーナとサリィが仲良く話している。
精神年齢が近いのだろうか?この二人は話が合うようだ。
「お父さんも食べて!」
「そうだ、サリィはお父さんが最近元気がないから、元気を出してもらおうと思ってプリンの材料を買いに行ったそうですよ!」
「そうか。ありがとうサリィ!」
そう言ってプリンを一口食べるバートン。そして両目をぎゅっとつぶると、大粒の涙があふれだした。
分かる!分かるよバートンさん!あんたの娘は良い子やで!育て方間違ってなかったんやでー!
「そうか。泣くほどうまかったか。」
と、ニーナが的外れなことを言い、みんなが笑う。
「サリィ、私は毎日プリンが食べたいぞ!」
「じゃあ私が大きくなったらケーキ屋さんになるから、ニーナちゃん毎日来てね!」
「もちろんだ!」
※通貨単位見直しました。
1S=銅貨1枚=10円
1G=銀貨1枚=100円
100G=金貨1枚=1万円
目安としてだいたいこれくらいのイメージとします。




