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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第1章 西の街へ
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19.それから

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


プリンをごちそうになってから俺たちはサリィに別れを告げ、日没前にフィックスの街の領主の館へ戻った。

ここにもう一泊させてもらい、俺は明日王都セントラールへ帰る予定だ。

夕食前に、ニーナとパンドラに二人はこれからどうするかを話し合いをした。


ニーナは王都を見てみたいという事だった。

ニーナの移転門ゲートの魔法は、行ったことのない場所には行けないため一度王都セントラールに行っておきたいという事と、長い間人里と接点がなかったため街の状況をいろいろ知っておきたいという事だった。

パンドラはニーナと行動を共にするとのこと。

ただ出立前にやっておきたいことがあると、「ちょっと待っててね。」と言い、パンドラは右腕を水平に上げて外套を広げた。


「アルカード。出なさい。」


沈黙。

・・・・・・。

パンドラの表情が固まる。


「アルカード・・・。」


パンドラの左ほおがひきつる。明らかに返答がないことに苛立っている。

パンドラの外套の裏の影には、吸血鬼バンパイヤのアルカードが隠れている。

それを呼び出しているはずだが、名前を呼ばれても出てくる気配がない。

すると突然、パンドラは広げた自らの外套の奥に左手を突っ込んだ。

外套から抜き出されたパンドラの手にはコウモリが握られており、キィキィと悲鳴を上げている。

パンドラはおもむろにそのコウモリを床に叩きつけた。


「ぎぃゃああああああああ!!!!」


そこにはタキシードを着た大男が、頭から落下し首の向きが明らかに変な方向に曲がっている姿があった。

首の骨が折れた激痛で、のたうち回る大男。

すぐにパンドラが大男の頭を踏みつけて動きを止めると、恫喝する。


「うるさい!黙れ!」


その声はいつものかわいらしい声ではなく、地に響くような低いトーンで、その目はいつもの自愛に満ちたまなざしでなく、もう一人の怖いパンドラだった。

首が180度曲がった状態で大男は返事をする。


「も、申し訳ございません…、パンドラ様!」


首の骨が折れても死なない生命力ってすごいな、と変なとこに感嘆してしまう。


「呼ばれたらすぐ出てくるようにって言ってあるでしょ!」


「申し訳ありません。私日中は寝ていますもので、夜になってからでないと・・・」


「もう日は沈んだわよ!いつまで寝てんのよ!!!」


そう言って吸血鬼バンパイヤの頭を強く踏むパンドラ。頭蓋骨からミシミシとう音が聞こえてくる。


「アガガガガガガガ!!!!も・・・申し訳ありませんんんんんん!!!!!」


「まあ、いいわ。次から気を付けなさい。」


そう言って吸血鬼バンパイヤの頭から足を下すパンドラ。

吸血鬼は自分の両手で頭の向きを直すと、その場に正座し土下座した。

なんというか…すごい光景だ…。


「アルカード。あなたこの街の商人ギルドのことで何か知ってることはある?」


「申し訳ありません、ご主人様。私が知っている情報は、特にございません。」


「まぁ、あなたは今まで社会と関わりを持って来なかったものね。それじゃあアルカード、あなたこれからこの街の商人ギルドの不正なお金の流れについて調査してきなさい。一部の権力者が不当な利益を得ている可能性があるわ。それを暴く証拠を集めてきなさい。それと商人ギルドと一部の領議会議員との癒着についても調べるのよ。領主が提出した議案に反対した議員を中心に調査するといいわ。」


「そう言われてみれば、確かにこの10年くらいで一部の金持ちが力を持ってきているようです。興味がないためあまり気にしていませんでしたが、この領主の館よりも豪華な家屋が何件かあります。そういう者たちが不正をしているようなら、その証拠をもって裁判なりで追放するという事ですね。」


「あなた遠隔通話リモートトーキンの魔法は使えるわね?毎日定期連絡をしなさい。ある程度証拠が集まったところで次の指示をするわ。この任務にあなたの利用価値の確認も兼ねてるわ。もしあなたが役に立たないようなら、その時は分かっているわよね?」


「ヒッ!いえ、必ずやパンドラ様のお役に立ちましょう!!!それでは行ってまいります!」


そう言うとアルカードは再びコウモリの姿に変え、夜の街へ飛んで行った。

アルカードの姿を見送るとパンドラは振り返り、かわいい声になって言った。


「おまたせ!」


そう言うと、両手の人差し指をほほに当て、舌を出しながらウインクした。

この変わり身が恐ろしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


翌朝、俺たちは二日間お世話になった領主にお礼を告げ、王都への帰路に発った。

別れ際、領主の娘ユーフォリアが寂しくなって泣きだしたためパンドラが抱きしめて慰めるということがあった。

たった二日いただけなのに見事な懐かれようだ。

パンドラは近いうちにまた来るからと約束をして納得してもらっていた。


王都へ向かう馬車の中で、ふと俺はそのシーンを思い返し、そういえば吸血鬼バンパイヤの館でパンドラが吸血従者バンパイヤフォロワーの女の子たちに対してもすごく優しく接していたのを思い出した。


「そう言えば、パンドラってかわいい女の子が好きだよな?」


と、言うと、パンドラは急に顔を赤くしながら


「な・・・何よ?!かわいい女の子が嫌いな人間がどこにいるのよ?!老若男女を問わずかわいい女の子は好きに決まってるでしょ?!」


「た・・・確かにそうだけど・・・。」


そして、吸血鬼バンパイヤの館での出来事を思い返して、あることに気付いた。


「あれ?そう言えば、吸血鬼バンパイヤにエナジードレインした時って腕でつかんだだけで生命力吸収してたよね?ユーフォリアにエナジーリリースするのも、別にキスしなくてもできたんじゃ・・・?」


「な…ななな・・・何言ってるのよ?!口移しの方が無駄なく生命力を移せるのよ!!!」


「まさかお前・・・ユーフォリアがかわいいから口移しで…」


「いやーーーー!!!!!」


恥ずかしがったパンドラの平手打ちを食らい、吹き飛ばされ馬車から転げ落ちる俺。


少しの間、失神して意識を失っていたようだ。

目を覚ますと、恥ずかしさで顔を赤く染めながらごめんなさいと言うパンドラと、大爆笑中のニーナがいた。


学習しました。パンドラをからかったりとか、絶対しちゃだめ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そうして俺たちの西の街フィックスでの出来事は終わった。

そして王都へ帰るとあんな出来事が待っているとは、この時は全く想像していなかった。

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