16.帰還
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俺たちと吸血鬼との戦闘は、こちらの圧倒的戦力で勝利した。
本来、吸血鬼とは人類にとっての脅威なのだが、俺と一緒に行動してくれている魔法使いニーナと純血吸血鬼パンドラの二人の前では、吸血鬼を退治することなど赤子の手をひねるより容易であった。
というか、正確にはニーナと俺は何もしていない。パンドラ一人で吸血鬼をフルボッコにしたというのが正解だ。
そして結果的にその吸血鬼(名前をアルカードと言うらしい)は改心し、パンドラのしもべとなった。
吸血鬼に血を吸われ吸血従者となっていた娘たちは、パンドラによってアルカードの支配から解放された。
今後娘たちがどうするかに関しては、また後で話し合うことにした。
190cmを超す大男のアルカードは、人型でも大蝙蝠形態でも目障りのため、普通サイズのコウモリの姿に変えさせ、さらにパンドラの許可があるまでパンドラの外套の影に隠れているよう命令された。
そうして吸血鬼の館での戦いは終わりを告げたのだった。
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「さあ、帰ろうか。」
バルコニーに出てそう言うニーナ。パンドラも続く。しかし俺だけまだ部屋の中に残っている・・・。
「ほら、バーン!行くぞ!夜が明けてしまうぞ。」
俺は躊躇している。
「やだ。……歩いて帰る。」
我ながら、駄々っ子のようで見苦しいと思ってはいる。
「おまえ、夜明けまでに帰らないと領主に怪しまれるだろ?!心配させないように今夜のことは何事もなかったように装わなきゃだめだろう?!」
ニーナから怒られるが、でもさっきみたいに怖い思いをするのは嫌なんだ!
ううう…と唸る俺。
「こら!逃げるな!」
と、ニーナに抱き着かれると強制的に飛翔呪文を唱えられる。
その後のことは思い出したくない…。
領主の館に帰り着くまでの間ずっと、ここに来た時と同じように俺はニーナに抱き着いて悲鳴を上げていた。
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夜が明ける前に、俺たちは領主の館に戻ることができた。
「ほら、着いたぞ。」
館に戻り地に足を着くと、安心感から俺はその場にへたりこんでしまった。
俺から二人に付いていくと言い出しておきながら、道中情けない姿をさらして迷惑をかけてしまったことに対し、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「ほんと……ごめん……」
ニーナはクスクス笑いながら、
「まあ、誰にだって苦手なものはあるさ」
と、フォローはしてくれたものの、その目は明らかに俺をバカにしていた。
パンドラも笑いをこらえるのに必死だ。
だが、言い訳する気もごまかす気にもなれない。本当ごめんなさいと思うばかりだ。
自分より二回りも体格の良い男が、空を飛ぶのが怖いと抱き着いて暴れる。女性から見たら、かっこ悪いを通り越して気持ち悪いとしか言いようがないだろう。(あまりの恐怖に俺の自虐も過剰な気がするが。)
なのにそんな俺に対して気持ち悪いとは一言も言わず、我慢してここまで連れて来てくれた。そこはなんだかんだニーナの性格の良さなんだろう。
笑われるくらい、なんだっていうんだ。
「こんなに足を引っ張って迷惑をかけているのに…、腹を立てず面倒を見てくれてありがとう…。」
思わず感謝の気持ちを口に出してしまう。
ニーナとパンドラは目を合わすと、また笑いながら、
「いや、気にするな。」
と、無様な俺に声をかけてくれる。
俺はなんて弱くてちっぽけなんだ。それに対して彼女の心は広い。認めるしかないな。彼女は心から尊敬できる大魔法使いだ。
これまでそれほどたくさんの彼女の魔法を見たわけではない。だが思い返せばどれもすごいものばかりだった。気を失っていたので覚えていないが瀕死の俺の傷を治してくれたり、箱の中からフレイムソードを出してくれたり、そして森の奥から盗賊の洞窟まで転移する門を開いてくれたこともあったな。
「…………転移門?」
あれ…………?
「帰りは吸血鬼の館から転移門を使って帰ってくれれば良かったんじゃ?」
ニーナが踵を返して言う。
「さあ、一度それぞれの部屋に戻って朝までもうひと眠りしようか!」
「ニイイイイナアアアアア!!!!!」
「ギャハハ!バーンが怒ったー!」
こいつ転移門使い方が早いって知ってたけど、怖がる俺を面白がっていやがったな!!!




