120.バーンVSザンキ 4
客席に被害が及ばないようニーナの魔法によって闘技場に発生させられたドーム状の魔法防御壁の中では、ザンキの剣技『飛び散る雷鳴』による飛散する雷撃が充満していた。
「どうなっているんだ?」
スクリーンに映されていた映像も、激しい放電現象の前にホワイトアウトし、二人の姿が確認できない。
観戦する全ての者が、その中の状況がどうなったのか注目していた。
やがてドームの中の放電は静まり、激しい高熱により地面が焼けた煙と土埃に代わる。それも少しずつ薄れてくると、二人の姿がぼんやりと見えてくる。
ザンキの魔法剣『貫く雷鳴』には、二種類の雷撃を撃つことが出来た。一つは真っ直ぐに飛ぶ『貫く雷鳴』、もう一つは指向性を持たず全方位に向けてランダムに雷撃を放射し続ける『飛び散る雷鳴』。
前者はザンキが最も得意もする攻撃で、これまでほとんどの敵をその一撃で仕留めてきた。
ダンジョンにもぐる時には、数多くの敵と遭遇する。その全ての敵に『貫く雷鳴』を撃っていてはすぐにザンキの魔力が尽きてしまう。そのためそれを放つのは、強敵と遭遇した時だけだ。だがダンジョンの奥底へ行くと、そんな強敵ばかりに囲まれてしまう時もある。ある時は見つけた隠し部屋の中で魔物に囲まれ、ある時はパーティ全員が弱り切った時に複数体の強敵と遭遇してしまった時がある。その時に放つ奥の手が後者の『飛び散る雷鳴』だ。撃つ時には仲間に被弾しないよう避難させる必要があるが、この攻撃で敵全体を攻撃し、ほぼ全滅させる。そんな危険な荒技だ。まさか一人の人間相手に撃つ日がくるとはザンキも思ってはいなかった。
だが仕方がなかったのだ。ザンキは先ほどの『貫く雷鳴』のカウンターを浴びて、感電症状で既に体を満足に動かすことができくなっていた。今まで敵に食らわせていた攻撃を自ら食らう事があるとは思わなかった。その時点で負けを認めても良かった。だが白金級冒険者として、冒険者パーティ『精霊の剣』の一員として、そしてバスク帝国最高の攻撃力を持つ魔法剣『貫く雷鳴』の所有者としてのプライドが、そうさせてくれなかった。
何が何でも勝つ。
そして遂にザンキは禁じ手を出してしまう。バーンに対して『飛び散る雷鳴』を放った。もはや対戦相手が死のうが、どんな大惨事になろうが構わなかった。
ザンキの持つ魔力を使い果たし、放電を終える魔法剣『貫く雷鳴』。
放電を終えた今、辺りは地面の焼けた煙と土埃で視界を塞いでいる。
やってしまった。
さすがのザンキにも後悔の念が押し寄せる。
あまりの高熱で、相手の死体が原型をとどめていない可能性もある。その場合、いくら帝国最高の神官がいようとも蘇生不可能であろう。
だが、それしかなかったのだ。自らの、そして帝国のプライドを守るためには。
セントラール王国の剣士を殺してしまった罪は自分が負おう。国際問題に発展したら、それは相手が弱かったことが悪いと押し通してもらうしかない。
白煙が消えるまでにザンキは覚悟を決める。そして少しずつ薄れてゆく白煙の先に、自らの冒してしまった罪を確認しようと目を凝らす。
そこには……、
「ふぇ~……、びっくりした~……」
そこには、先ほどと同じ姿勢で、剣を構え、そして驚いた顔をしているバーンの姿があった。
「バッ、バカな?!」
珍しくザンキから大きな声が漏れる。
それも仕方がない。惨殺してしまったはずの人間が、無傷でそこにいたからだ。ザンキには目の前に何が起きたのか分からない。とにかくバーンは無事だった。
「すげえ技だな!びっくりしたぜ!」
殺したはずの対戦相手が、悠長に話しかけてくる。
ザンキは驚きとダメージで硬直している。
そしてバーンから、恐るべき一言を聞かされる。
「言ってなかったけど、俺の剣は雷撃耐性が付いてるんだよね」
「ら……雷撃耐性?!」
だとしたら、たとえ打ち返されることがなくても、この対戦相手の前では最初からザンキの攻撃は全て無力だったという事だ。
「バカな?!」
ザンキがもう一度大声を出す。
その一言を聞く前にバーンはザンキへと走り出す。
右後ろに剣を構え走る。ザンキへの攻撃に入れる距離に入った時にフレイムソードを振りかぶり、そして走る勢いのままザンキに振り下ろす。
慌ててザンキは防御の姿勢に入る。両手でつかむ『貫く雷鳴』を頭上に掲げ防御する。フレイムソードと『貫く雷鳴』が衝突したその瞬間。
パキーン!
金属音が響く。
そして何かが回転して飛んでゆき、ドサッ!と地面に落下する。
ザンキは冷や汗を垂らしながら、それを目で追う。
信じられないといった表情の、その視線の先、地面に落下し突き刺さっていたのは、折れた『貫く雷鳴』の刀身だった。
視線を正面に戻す。
そこには驚いた表情でこちらに剣を向けたバーン。
そして自分の両手でつかんでいた剣は、鍔の先が折れてなくなっていた。
「そこまで!」
場内アナウンスからアルベルトの声が響く。
直後、円形闘技場内は観客の大歓声に包まれた。
バスク帝国の誇る、白金級冒険者が敗れたのだ。
それは、ここにいる観客の誰一人もが予想しえない結末だった。
名も知られていないセントラール王国から来た一人の剣士が、バスク帝国でも最強の魔法剣と呼ばれる『貫く雷鳴』のザンキを倒したのだ。
終わってみれば一方的な試合だった。
ザンキの攻撃はいずれも無力で、バーンの攻撃一振りで『貫く雷鳴』を折られザンキは戦闘不能となった。
バーンはまだ、フレイムソードの力の全てを出しきっていない。
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「なにをやっとるんじゃあいつは!」
個室観覧席の一つの中には、白金級冒険者パーティー『三日月の聖杯』のメンバーがいた。そのメンバーの一人、ドワーフのボンゾは拳を握りながら熱くなっていた。
「相手の剣を正面から受けてどうするんじゃ!そこは受け流すところじゃろう!へたくそかっ!」
「ザンキさんを応援したい気持ちも分かりますが、あなたが怒ってどうするんですか……」
「うるさいミハエル!誰もザンキなんぞ応援しとらんわ!」
ミハエルと呼ばれた男は、両手を挙げて呆れる仕草を示す。
「それにしてもあの剣、『貫く雷鳴』を折ってしまうとは。ワシの斧と打ち合いしてみたいもんじゃの!」
「斧と打ち合う剣なんて聞いた事ありませんよ。それにしても、ザンキがあの様子では、次の任務は彼らではなく我々の出番になりそうですね」
ボンゾはミハエルの方をチラリと見ると、少し笑って頷いた。
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「剣を折っちゃって悪かったな」
バーンはザンキに話しかける。
「雷撃耐性があるというのは本当か?」
ザンキは折られてしまった自らの剣の心配よりも、バーンの剣に興味が湧いていた。
「ん?ああ。その通りだ。前に吸血鬼と戦った時にも、お前と同じような雷撃攻撃されたことがあったんだけど、勢いで吹き飛ばされただけでほとんどダメージなかったぜ」
「ヴァ……ヴァンパイアだと?一体で国を傾かせると言われるほどの魔物と戦った事があるのか?」
「いや、倒したのは俺の仲間なんだけどね。それにそんな噂で聞いていたほどじゃなかったよ」
「な……なんと……」
ザンキは絶句する。バーンの底の知れない強さに。もしかしたら最初から勝ち目がなかったのかもしれない。いや、剣の力に頼り切っていなかったら勝つチャンスもあったのだろう。だとしたらこれは、最近剣の力に頼りすぎていた自分に対する、皇帝陛下の戒めだったのだろうか。思慮深いあの若い皇帝なら、その可能性は大いにありうる。
バーンはザンキが何を考えているか分からず、どうした?といった表情でザンキを見る。
ザンキは先ほどまでは絶対に負けないと思っていたが、こうまで完璧に負けると悔しさすら感じることもなかった。
「フッ、俺の負けだ……」
ザンキは笑いながら、自らの敗北を認めた。




