121.反省会?
円形闘技場での国際交流試合と称された実際はアルベルトとニーナのデートを賭けた戦いに、俺は勝利した。
相手を殺すな、客席に被害を出すな、つまりやりすぎるなと言われていた試合だったが、最後勢い余って対戦相手ザンキの剣を折ってしまった。怒られるかと思ったが、今のところ怒られていない。この後怒られるかもしれない。そんなわけで、勝負には勝ったのだが内心冷や冷やしている。
試合が終わり控室に戻ると、係りの者が誘導してくれた。そして今まで一緒に観戦していた観覧室ではなく、少し大きめの別室に案内された。
そこにはアルベルトやニーナたちだけでなく、見知らぬ顔の者たちが数名控えていた。雰囲気からすると、ザンキの仲間の白金級冒険者たちだろう。
俺と同じくらいのタイミングにザンキも部屋にやってきた。そして、それぞれ案内された席へと座る。
「ニーナさん、バーンさん。まずは改めて我が国の白金級冒険者たちを紹介させていただきたいと思います。向かって右側に座っているのは、白金級冒険者パーティー『精霊の剣』のメンバー、手前からカロン、ザンキ、メトロメノス、ジライヤです」
名前を呼ばれると、順番に立ち上がり、一人一人礼をする。
一度にまとめて紹介されても、名前覚えきれる自信がない。
「そして左側にいるのが、同じく白金級冒険者パーティー『三日月の聖杯』のメンバーで、手前よりミハエル、ボンゾ、マーズ、オルリスタット、バルザックです」
「エルフにドワーフか?」
ニーナが珍しいものを見たという顔で、そう言う。
確かに、よく見ればひとり目の男の耳は長く、二人目の男は背が低くてひげが多い。見るからにその種族特有の外見をしていた。
「はい。おっしゃる通り、ミハエルはエルフ、ボンゾはドワーフです」
「エルフとドワーフが同じパーティーなのか?仲が悪いって聞いた事があるけど」
「お嬢ちゃん、それはワシたちは国を出た者だからじゃよ。ドワーフもエルフも、保守的な者ばかりで多種族とあまり交わりたがらんのだ。好奇心旺盛な人間族は交流を持とうとそれぞれの国を訪れることがあるが、ドワーフがエルフの国や、エルフがドワーフの国へ行く事は考えられんな。だから仲が悪いなんて言われたりするんじゃ」
「なるほど!それは知らなった」
「ワシも外の世界へ出て、今までいたドワーフの国がいかに狭い世界だったか身に染みて知ったわい。やはり旅はした方が良いな……」
「ボンゾ。お喋りはその辺に」
ドワーフはお喋りなようで、エルフのミハエルに諭されて、舌ベロを出しておどけてみせ、話すのをやめた。
俺は思わず笑ってしまったが、帝国の白金級冒険者たちは表情を変えることがない。よく見る光景なのだろうか?
少し中断されたが、アルベルトが話を再開する。
「こちらは本日セントラール王国よりいらした魔法使いニーナ様と、ニーナ様の騎士バーンさんだ」
次に俺たちを紹介する。
ニーナは「よろしくな」と短く挨拶をし、俺は黙って軽く会釈をした。
「さて、先ほどは二人ともこの度は交流試合お疲れ様。バーンさん、お見事でした。ザンキ、結果は残念だったがよくがんばってくれたな」
「陛下!」
アルベルトの言葉を遮る形で、ザンキが言葉を発する。こういうのって失礼に当たらないのかな?白金級冒険者なら許されるのかな?
「いつも無口なザンキが珍しいわい……」
ボンゾが、独り言を呟く。そうか、珍しいのか。
「どうしたザンキ?」
ザンキをとがめることなく、アルベルトは言いたいことを聞こうという姿勢を見せた。
「陛下、この度は帝国を代表して試合に挑んだにも関わらず、みじめな姿を国民の前にさらしてしまい、申し訳ありませんでした」
ザンキは深く頭を下げた。
あー、やっぱ負けたら怒られちゃう感じ?
だとしたら、なんか悪い事したな……。
「ザンキよ、誰もお前を責めはせぬ。帝国の代表として良く戦ってくれた。頭を上げるが良い」
アルベルトは意外と怒ってなくて、穏やかな表情でザンキに慰労の言葉を投げかけた。
「ありがたきお言葉。このザンキ、今まで魔法剣に頼りすぎていた事がよくわかりました。深く反省しています」
な、なんだと?こいつは何を反省しているんだ?剣に頼りすぎちゃいけないのか?それを言ったら、俺なんかいつでもフレイムソードにおんぶにだっこなんだが……。
すると、ボンゾがまた黙っていられなくなって、話に割り込んできた。
「そうじゃそうじゃ!最後のは何だ貴様?あんな無理やり刀をぶつけて防御したら、例え剣が互角でも刃こぼれするじゃろうが!以前のお前なら、あんな大振り受け流して反撃できたはずじゃろう!」
「ボ・ン・ゾ!」
再びミハエルがボンゾのお喋りを注意する。
そんなドワーフはさておき、アルベルトは複雑な表情をしている。
するとアルベルトの隣に座っていたニーナが口を開いた。
「そのドワーフの言う通りだな。貴様は剣士なのだろう?あの無様な戦い方はなんだ?」
ニーナまでザンキを責めるのか?何が悪かったんだ?
「おまえはあの魔法剣を手に入れてから、どれくらい経つ?おまえの戦い方は、あの魔法剣を初めて手に入れた素人そのものだ。剣を敵に向けて電撃出してただけじゃないか。確かにお手軽だが、そんな使い方だけならあの剣さえあれば誰にでもできるぞ」
ニーナの言葉に、そうだそうだと言わんばかりに、ドワーフのボンゾがしきりに頷いている。
「返す言葉もありません。俺は『貫く雷鳴』を手に入れてから、あまりに強力な力ゆえ、慢心しておりました。そんな俺の驕りに喝を入れるため、陛下が今回俺をお呼びくださったこと感謝しています。おかげで目が覚めました」
ボンゾはさらに頷く。
でも話が見えてこない俺は、つい口を挟んでしまう。
「なあ、こいつはそんなに怒られるようなことをしたか?全力で俺と戦っただけじゃないのか?」
すると部屋にいる全員が俺を見て、何を言ってるんだという顔をしてきた。
「小僧、たしかにお前さんもなかなかの腕前のようじゃが、今回一方的な戦いになったのはザンキに取って相性が悪かっただけだ。つまりそれは、陛下が慢心しているザンキに灸を据えるために、お前を当てがったという事じゃ。もしザンキが魔法剣に頼りきりでなければ、いきなり雷撃を放つ事などせず剣対剣での戦いになり、結果は分からなかったじゃろう。そうじゃな、陛下?」
「えっ?」
急に話を振られてあたふたするアルベルト。いや、アルベルトはニーナとのデートが掛かっている負けられない試合だから、最高の剣士を用意したとか言ってたからなあ。
どうやら良い方に深読みしてるみたいだから、そういう事で俺も話を合わせておくか。
一部始終を知るニーナも、こいつらの誤解を面白がっているのか、ニヤニヤしながら眺めている。
アルベルトは返答に困っていたら、ザンキが続きを話し始めた。
「陛下自ら戦略を説明されずとも、陛下はいつでも二手三手先を読んでいるのは承知しています。その戦略についてゆくことのできなかった自分を恥じるだけです。……陛下!」
「うむ、どうした?」
「まことに勝手ですが、このザンキ、今日より一旦、白金級冒険者を辞退させていただきたいと思います」
「なんと!」
その発言には、ボンゾを始め、部屋中の人間が驚いた。
「敗北を恥じることはないぞ、ザンキ。別にお前に罰を与えるつもりはない」
「いえ、陛下。俺は今一度、自分の剣術を磨き直したいと思うのです。宮仕えを一度離れ、修行の旅に出たいと思います」
「しかし、『貫く雷鳴』は折れてしまったのだぞ」
「だからこそ、もう一度自分の剣を探すことも、その旅の目的としたいと思います」
アルベルトを見るザンキの真剣なまなざしから、その発言の本気度が伝わってくる。
だがアルベルトも、すぐにはうんと言えないようだ。
「うーむ……。ニーナさん、『貫く雷鳴』を魔法で直す事はできませんか?」
藁にも縋る思いでニーナに尋ねるアルベルト。
すると、思いがけない返事が返ってくる。
「できるよ」
「え?」
それにはアルベルトだけでなく、ザンキもあっけにとられたような表情になっていた。
「直そうと思えば、簡単に直せるよ。でもなあ……」
「何かひっかかることがおありですか?」
「アレはそんなに大層なものじゃないよ。アレはただの電撃発生器で、剣としては二流品以下だよね?それにあれだけの雷撃を発生させる魔力を持っているなら、単純に魔法を覚えれば剣なんかなくても雷撃を使えるようになるよ?そしたらわざわざ直さなくても……」
「それは本当ですか?」
「ああ。どうする?直す?」
「実は、あの剣には一度装備すると外せないという呪いがかかっていて、常に近くに置いておかねばなりませんでした。言い訳になりますが、そのせいで別の剣を装備することもままならず、剣術修行がおろそかになってしまったというのもあります。剣を使わずに雷撃を使う事が可能ならば、『貫く雷鳴』は修理していただかなくても結構です」
ザンキのその言葉に、アルベルトは言う。
「そうか、それではニーナさん、ザンキに雷撃魔法をご教授していただいてもよろしいですか?」
だが、ニーナの返事の前に、ザンキが割り込む。
「いえ、それは結構です。戦って敗れた相手に手を貸してもらおうとは思いません。俺は自ら雷撃魔法を教えてくれる者を探します。剣術と魔法の修行の旅にしたいと思います」
ザンキは割と頑固な性格のようだ。こういうやつは何を言っても人の言葉には耳を貸さないんだよね。
アルベルトもそれを察したのか、ザンキの白金級冒険者を辞めるという話を受け入れたようだ。
「そうか、そこまで言うなら分かった。納得いくまで修行ができたら、またいつでも戻ってこい」
「はっ。わがままを申してしまい、申し訳ありません。ありがとうございます」
ザンキは深く礼をすると、そのまますぐに部屋から出て行った。
ボンゾが少し寂しそうな顔をしていた。




