119.バーンVSザンキ 3
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ザンキが放った先制攻撃、離れた場所からの雷撃を、瞬時にバーンはフレイムソードで中空へ向けて打ち返した。その一連の流れは一瞬の出来事であったため、それを観戦していた闘技場内にいた観客たちには何が起きたのか理解できなかった。雷撃を放ったザンキ本人ですらもだ。
だが、ザンキにも一つだけ分かったことがある。必勝を誓ったつもりだったが、目の前にいるバーンという男は、殺さないよう手加減していたのでは勝てない可能性があるということだ。
「もう手加減はしない」
ザンキが独り言をつぶやく。
バーンが先ほどの攻撃を打ち返すことができたのは、運が良かったのかもしれない。
そもそもザンキが雷撃を放つと思ってはおらず、たまたま呼吸が合ったという感じがあった。
そしてバーンはザンキには雷撃攻撃をするという事を知った。
つまりそれは、今この間合いにおいて、次の一撃が来るであろうことをバーンが予測できているということだった。
先ほどは予測できなかった攻撃が、今回は予測で来ている。それはバーンにとって大きな優位性だった。
そしてその予測通り、ザンキは剣先を正面に向けた剣を脇に引き付け、先ほどと同じように正面に突き出す。
「『貫く雷鳴』!!!」
ザンキが二発目の雷撃を放つ。ドン!という音と共に、バーンへ向けて雷撃が飛ぶ。
その瞬間、バーンの知覚が加速し、その雷撃を見切る。それは通常の人間の反応速度を、はるかに超えていた。フレイムソードの持つ魔力増幅装置としての役割が、神経を巡る電気信号を加速させていたのかもしれない。ザンキが剣を脇に構えた時にバーンも剣を振りかぶり、ザンキが剣を突き出すと同時に、バーンも剣を振っていた。
雷撃がバーンへ向けて飛ぶ。そして先ほどよりもはっきりとそれが”見えて”いたバーンは、それを再び打ち返した。
斬るように振るった剣を、ヒットする瞬間刃を寝かし、雷撃を打つ。ぴったりとタイミングのあったそれは、真っすぐそれを放ったザンキに向けて跳ね返された。
ザンキの『貫く雷鳴』は常に一撃必殺だった。ゴーレムや動く石像などの一部のモンスターを除いて、ほとんど雷撃耐性を持つモンスターと遭遇したこともない。そしてその恐ろしい攻撃力は、帝国最大級と称されていた。
そのため無敵の自信を持っていた雷撃が通用しなかった事も初めてなら、バーンの行った”打ち返し”などという訳の分からない反撃を受けたのも初めての事だった。
ただ二発目を発射した瞬間、ザンキにもバーンの動作は目に入っていた。だから何かしら反撃されたという事だけは理解できた。ただそれは一瞬の出来事で、ザンキが全てを理解するには難しかった。
ザンキが雷撃を放った直後、真正面から打ち返された雷撃はザンキを襲う。
相手を吹き飛ばしているはずの雷撃が、自分に向かって飛んできて、ドンという衝撃と共に後ろに弾き飛ばされる。全身に激しい衝撃による痛みを感じながら後方に吹き飛ばされ、尻もちをつく。
ザンキは慌てて立ち上がろうとするが、電気を流された筋肉が笑ってしまいプルプルと身体が震える。
「んがっ?!な……何がっ?!」
カウンター攻撃を受けた。それはザンキにも理解できた。
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観客からは、大歓声が巻き起こっていた。
帝国の白金級冒険者ザンキが苦戦している。ありえない出来事が目の前に起きているからだ。
観客にはセントラール王国との国際交流試合が行われる事は知らされていたが、誰が出るかは選手が入場してくるまで知らされていなかった。そしてザンキが入場してきた瞬間、その有名な冒険者の名を知る者たちは、一撃で終わると確信した。それだけザンキの強さは知られていた。
だがザンキの放った一撃目の雷撃は宙へ打ち返され、二撃目は本人に打ち返された。打ち返された雷撃を食らいダウンするザンキ。スクリーンに映る必死で立ち上がろうとする姿のザンキのありえない苦戦に、観客は興奮していた。それはバーンを称える声であったり、帝国の威信を揺るがせているザンキの失態への非難の罵声も含まれていた。
どちらを応援しているものにも共通して言えるのは、この試合に熱狂しているという事だった。
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アルベルトは、目の前の光景を口を開けて呆然と眺めていた。ザンキが苦戦するなどとはこれっぽっちも思っていなかったからである。
二撃目を打ち返した時には、バーンが何をやったかアルベルトにも分かった。だがそんな事ができるのか?そんな疑問を感じながらも、それをやってのけたバーンが実際にそこにいる事に呆然とするしかなかった。
当初アルベルトは、ザンキが雷撃一撃で勝利すると確信していた。だが雷撃が通用しないのだとしたら、ザンキには勝ち目はないと気付く。相手が悪かったのだ。
アルベルトの横では、最高の笑顔で右手を突き上げるニーナがいた。
「いいぞバーン!」
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雷撃をザンキへ打ち返したバーンは、油断する事なく対戦相手を動きを伺う。
ダウンを奪ったが、不用意には追撃に行けない。無防備な状態で雷撃を放たれたら、先ほどのように打ち返す自信はないからだ。様子を見つつ少しずつ距離を縮める。
ザンキのダメージは大きそうだ。苦しそうにゆっくりと立ち上がってくる。
打ち返した雷撃が直撃した衝撃で、黒い兜は吹き飛ばされていた。そして兜の外された彼の表情は、怒りに満ちていた。
ザンキは剣を杖代わりに、よろよろと立ち上がる。
向かい合う対戦相手は、すぐに攻めてくるようなことはせず、自分の次の挙動を探るかのように静かににじり寄ってくる。慎重なのか、臆病なのか、それとも自分をなめているのか?
自ら放った雷撃を浴びたザンキの体は、まだ思い通りに動かない。立っているのがやっとだ。それでもザンキの中の闘争心は冷めることはなく、むしろ目の前の強敵に対し、殺意にも似た感情が湧き上がっていた。
剣を持ち上げ、自身の二本の脚のみで立つと、ザンキは剣へと意識を集中する。
先ほどのカウンター攻撃で、同じ事は通用しないと知る。
「指向性を持たない攻撃ならカウンターもできまい?」
ザンキは呟く。
すると、その手に持つ『貫く雷鳴』の黄色く光る刀身から、バチバチと放電が始まった。
「オオオオオ!」
ザンキは、自らの魔力をその剣に注ぎ込む。
魔法剣『貫く雷鳴』の刀身からは、さらに激しく放電現象が起こる。
バーンもさすがに何かヤバいとは気づくが、対処の仕方が分からない。
「食らえ!『飛び散る雷鳴』!!!」
ザンキの剣から無作為に雷撃が飛び散る。あらゆる角度へと飛び散る雷撃に、バーンの視界は真っ白く埋め尽くされた。
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ザンキの剣から放電が始まったのを、観覧席で見ていたアルベルトも気付く。
「あのバカ!観客も巻き添えになるだろ?!」
「どうした?危険なのか?」
慌てて身を乗り出したアルベルトに、ニーナがどうしたと尋ねる。
「ニーナさん、観客に被害がでないように、結界を張れませんか?」
「やれやれ、仕方ないなあ」
そう言ってニーナは右手を差し出す。
「『魔法防御壁』」
ニーナによって、二人の周りに目には見えない魔法を遮断するドーム状の結界が張られた。
その直後、ザンキの『飛び散る雷鳴』が発動する。
ザンキが前方に掲げた剣から、バチバチと飛び散る放電。それは瞬時に周囲に広がり、闘技場の辺り一面を雷で埋め尽くす。ニーナが展開した結界の中を埋め尽くしたそれは、真っ白なドームとなって観客の視界に映った。
放電は激しさを増し、結界の中にいる二人の姿は見えなくなっていた。




