11.その日の夕食
「良かったら今夜はここに泊まっていってくれないか?娘の命の恩人をもてなさせてくれないだろうか?」
そう領主から提案され、思わず、(よっしゃ!宿代が浮いた!)と思ったのは内緒だ。
「宿代と夕食代が浮いて良かったな。」
と思ったらニーナに心を読まれた。
声に出して言うなよ!と視線を送る俺。
そんな俺たちを見て領主は声を出して笑った。
「ハハハ!声を出して笑うのも久しぶりだ。ずっと娘のことが気がかりで気が滅入っていたんだ。君たちが来てくれて本当によかったよ。」
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俺たちはそれぞれその後泊めてもらう寝室に案内してもらい荷物を片付けた後、夕食に呼ばれた。
長方形の長いテーブルの一番奥には領主が座っていた。
俺たち3人が案内された席の反対側には領主の奥さんと娘のユーフォリアが座っている。
「紹介が遅れたが、妻のニコラだ。そして先ほどお世話になった娘のユーフォリア。もう普通に食事もできそうだというので娘も同席させてもらった。」
領主に紹介され立ち上がり頭を下げる二人。こちらも頭を下げる。
「先ほどはありがとうございました。おかげさまでもうすっかり元気になりました。前より体が軽く感じるくらいです。」
「よかったわね!」
パンドラが笑顔で微笑む。
少し照れたように顔を赤くさせるユーフォリア。
よく見ると顔立ちの整った非常にかわいらしい娘だ。
「ニコラ、ユーフォリア、こちらが先ほど話した、高回復薬を届けてくれたバーン君と、パンドラ様、ニーナ様だ。お二人の素性は明かせないが失礼のないようにな。」
「はい。娘を助けてくださりありがとうございました。」
領主から紹介され、奥さんからお礼を言われ、俺たちもぎこちなく頭を下げる。
「さあ、お座りください。料理をご用意させていただきます。」
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・・・さて。なぜ俺の目の前にはナイフとフォークが何本も並んでいるんだ?
領主に促され着席した俺は、テーブルに並ぶ食器に戸惑った。
さてはこれは噂に聞くあれか?コース料理とかいうやつではないか?
自慢じゃないが俺はあまり育ちが良い方ではない。
つまりはあれだ。テーブルマナーとかいうやつが全然分からない!
これはもしかするとあれだ。盗賊に襲われた時よりもピンチなのではないか?!
ニーナもパンドラもなんで冷静にしていられる?気付いていないのか?
するとニーナとパンドラが皿の上に畳んで置いてあったナプキンを膝の上に広げた。
そうか、これはそう使うのか。
・・・。
もしかして二人ともテーブルマナー知ってるのか?!
そうか。俺だけか…こうなったら…他の人のまねをして乗り切るしかない!
そんな絶望的危機感を感じながら食事をした。
ワインの味見をさせられこれでよいか聞かれた時は、味も分かんないしどう受け答えしていいか分からず、ハイコレデイイデスと答えるしかできなかった。
時々みんながクスクス笑っていた気がするが・・・。
とても美味しい料理だった・・・と思う。
ただし俺は緊張で味が全く分からなかった。
ニーナとパンドラはやはり器用にナイフとフォークを使いこなしていて、沈黙の魔法でも使っているかのように食器の音を立てずに食べていた。
二人は食べながら領主の家族と楽しそうに会話していたが、俺は緊張で終始大人しくしているしかできなかった。
旅の途中に食べていた、固いパンと冷たい水が愛しく思えるようになってきた。
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