10.ユーフォリア
ブライトンが部屋の扉をノックする。
「私だ。入るぞ。」
そう言って扉を開けると、兵士二人を連れ娘の部屋に入る。俺たち3人も後に続く。
大きな部屋の隅に、四方がカーテンで囲まれたベッドがあり、そこに一人の少女が眠っていた。
領主の娘だ。
ベッドの横にはメイドが一人。
メイドは領主の姿を見ると立ち上がり礼をする。
領主はそんなメイドに構う事なく、娘の傍へ向かった。
「ユーフォリア…。」
ユーフォリア。それが娘の名前らしい。
領主の呼びかけに反応はなく眠ったままだ。
顔色は血の気が全くないほど青白い。すでに死んでしまっているのではという気すらしてしまう。
だがうっすら呼吸はしているようだ。
「飲めるか?」
そう言うと、領主は高回復薬の瓶のふたを開け、娘の口へそそいだ。
まあ飲めなくても体にかけるだけで効果があるっていうし大丈夫だろう。
すると、盗賊のボスがそれを服用したときと同じように、一瞬少女の体全体にきらきらと光が輝き、そして消えた。
効果は・・・
「ユーフォリア・・・」
悲しそうな領主の声が漏れた。
少女の姿は高回復薬を服用する前と変わらなかった。
「やはりだめだったか・・・」
と、ニーナが呟くと同時にパンドラが前へ出て
「少し見せて」
と、ユーフォリアのほほに手を添える。
娘の顔を観察すると、
「これは…やっぱり…」
「何か分かったのか?」
そう聞く領主にパンドラは返事をするでもなく、突然ユーフォリアの真っ青な唇に自分の唇を重ねた。
「?!」
突然の出来事に部屋にいる全員が言葉を失う。
「生命力放出」
パンドラの唇からユーフォリアの唇に白い光が流れ込み、やがてその光は少女の体全体を覆った。
全員が言葉を失うなか、パンドラが唇を離す。
沈黙の中、ゆっくりと光が消えてゆくと、少女の顔色から青白さが消え、ほほにはうっすらと赤みを帯びていた。
「ユーフォリア!」
さっきから娘の名前以外口にしていない領主が駆け寄ると、少女はその瞳を開いた。
「お父様・・・?」
少女は長い眠りから覚めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ハイ集合~。3人集合~。」
俺はそう言ってニーナとパンドラを部屋の隅に呼び寄せる。
領主は泣きながら驚いた表情の娘を抱きしめている。
とりあえず彼女の病気が治って良かった。
・・・のだが、
「パンドラ、あれはなんだ?人前で魔法使わないんじゃなかったのか?」
俺はひそひそ声でパンドラに言う。
そう、魔法使いの存在が一般的でない現在、見た目が若いのに魔法を使うことができる二人のことが世間にしれたら大騒ぎになってしまうだろう。
「二人とも人間のことには関わらないって言ってなかったか?」
「ごめんごめん!でもちょっとこれは私たちの世界にも関係あるかもしれないのよ。あの症状は・・・」
と、部屋の片隅でひそひそ話をしている我々のところに領主が近寄ってきた。
俺は慌てて、
「違うんです。これはあの・・・」
言い訳が全く思い浮かばない。
絶対怪しまれる!こんな正体不明の魔法使いが現れたら!
何かごまかさないと!でも何て?
俺があたふたしていると、突然領主はパンドラの目の前に片膝をついて頭を下げた。
あまりの予想外の出来事に言葉を失う俺。
「パンドラ様とおっしゃいましたな。この度は娘を助けてくださり、本当にありがとうございました。娘の命は私の全てです。この御恩は一生忘れません。このブライトンにできることがありましたら、どんなことでも致します。何なりとおっしゃってください。」
頭を下げる領主の姿を見て、さらにあたふたする俺。
割と落ち着いていて、にやけた表情のニーナ。
そしてパンドラはとぼけてみせた。
「えっとー、助けたって言うか~。そうあれは特殊な治療なの~。魔法とかじゃなくてー。」
言い訳がひどい。しかし、さっきの3人の会話も聞こえていたのであろう領主は、
「その若さでこのような回復魔法をお使いになられるとは、よほどの修練を重ねたお方だろうと存じます。この部屋にいる者は全て信頼のおける者たちです。もちろんパンドラ様が魔法を使われたことは一切他言させないようにします。ご心配なく。」
物わかりの良い人で助かる。この人好きだわ。
俺も領主の方を向いて同じように片膝を付いて言った。
「ブライトン様、お気遣い感謝いたします。二人の素性は明かせませんが、私がここにポーションを運ぶ途中も助けてくれた信頼のおける人物です。ですがこの若さ(※見た目)で魔法を使う者が現れては騒ぎが起きてしまいましょう。それは二人が望むものではありません。ですので先ほどのことはどうかご内密にお願いします。」
「ありがとう、バーン君。娘が病に侵されたことも秘密にしてもらっている。今日ここで起きたことは、この場にいる者たちだけの秘密という事にしよう。君にもパンドラ様を連れてきてもらって感謝する。ありがとう。」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。」
ヨカッタヨカッタ。なんとか丸く収まったみたいだ。




