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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第5章 北国の眠り姫
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95.ゴブリンハザード

 インフェルノが崖の上のゴブリンを倒すと、またニーナから遠隔通話リモートトーキンで声がかかる。


(ゴブリンがやけに統率が取れてるな。もしかしたら上位種が発生しているかもしれないぞ)


「上位種?」


(そうだ。普通のゴブリンはこん棒とか拾った武器を振り回すだけの低能な生き物で、今倒したゴブリンですら特殊なゴブリンだ。さっきインフェルノが倒したゴブリン戦士ウォーリアーの装備。革鎧をまとったりぼろきれをひもで縛って脛当ての代わりとしたり、そういった器用なことは低位種ではできないのだ。また、弓を討つという高等な動作や、ましてや魔法を使うなど、普通のゴブリンにはできない。今倒したような特殊なゴブリンが突発的に生まれて、群れのリーダーとなることはたまにあるが、そのゴブリン弓手アーチャーやゴブリン魔道士メイジが協力して群れていたということは、さらに強いゴブリンが発生している可能性が高い。ゴブリン将軍ジェネラルとかゴブリンキングとかだったら危険だ)


「ゴブリンってそんなに種類があるの?」


(ああ。世界中どこにでもいるゴブリンだが、突然変異で上位種が発生することがある。中でも脅威となるのがジェネラルとかロードとかキングとか呼ばれる種類だな。ゴブリン将軍ジェネラルは武器の使い方と軍団での戦い方に優れていて、軍隊を結成する。討伐には人間側こちらも軍隊を送り込む。ゴブリンキングの場合は最悪で、キングが発生した時には大量のゴブリンも同時に発生している事が多い。キング単体でオーガやトロルを凌駕するスペックを持つ強力なモンスターだが、恐ろしいのはそれだけじゃない。キングの持つスキルによって全ての部下のゴブリンの能力もアップし、そして兵隊たちはキングの命令に逆らう事ができない。死をも恐れずに襲い掛かってくる狂ったゴブリンの群れだ。こうなったら天災みたいなもんだ。ゴブリン災害ハザードだな。例え普通のゴブリンでも、数が増えすぎたら脅威だぞ。飢えたゴブリンの群れを想像してみろ。お前たちで手に負えなくなったら、私が出る)


「げえー、最弱モンスターって言っても舐めちゃいけないんだな」


 その後、森を進みながら時々小規模なゴブリンの群れと遭遇し、その都度倒していった。罠の設置についてポポロから、動物が歩きそうな道、倒れた木の向こうなど思わず踏んでしまいそうなポイントなどに設置される事が多いことなどをアドバイスしてもらったため、その後バーンたちがゴブリンの罠にかかることはなかった。時々落とし穴などを発見することがあり、その罠を作ったゴブリンの知能が高いことを思い知らされた。

 ゴブリン以外の動物や魔物とは遭遇しなかった。ゴブリンが捕食したと思われる食い尽くされた動物の残骸を発見することも多かったのだが、その中に動物の骨と一緒にゴブリンの骨も混じっていた。もしかすると食料が足りず、共食いも始めているかもしれない。だとすると、食料となる動物たちの数よりも増えすぎてしまった大規模なゴブリンの群れが、この後森から平野へ出てきて人間を襲う可能性が高い。ニーナの言うゴブリン災害ハザードが現実味を帯びてきたという事だ。またその骨の中に、ゴブリンよりも大きな魔物の骨も見つかった。オークやそれより大きいオーガやトロルなども捕食しているのかもしれない。オーガやトロルを倒すレベルだとすると、かなりやっかいだ。


 その日は、何個めかのゴブリンの群れを倒したところで日暮れを迎えた。

 春になったとは言え、この国では夜は冷える。リュックに背負った重い荷物の中から簡易テントと防寒具を出して夜間交替で眠った。火の気が欲しいところだったが、煙が魔物を呼び寄せてはいけないと思い諦めた。


 翌日、早朝から再び森を進んで行くと、砦のような地形の場所にいたゴブリンの群れと遭遇した。最初に遭遇した崖の上のゴブリンたちと戦った時と戦況が似ていて、今度は問題なくそれを倒した。その砦の先に進むと、開けた場所に出た。本当に砦だったのだろう。そこにはたくさんのゴブリンたちがいた。その数にバーンたちは言葉を失う。百や二百といった数ではない。おそらく五千匹ほどの、様々な種類のゴブリンたちがそこにいた。

 ゴブリンたちの集団は整列しており、その集団が向いている先にある小高い部分には、動物の毛皮をマントのように羽織り、中には鎧や毛皮を身に纏った大型のゴブリンがいた。恐らくそれは、最悪のパターンと言っていたゴブリンキングであろう。


「うわあ……」


 その異様な数の群れにバーンが嫌悪感を抱く。


「なんだか雰囲気が異様だな。もしかしてこれからエサを求めて人間の町へ向かおうとしているところじゃないか?」


 その様子を観察しインフェルノがそう呟く。何やら叫んでいるゴブリンキングの言葉は理解できなかったが、バーンもポポロも同じような印象を受けた。


(まだこれくらいの数でよかったな。増えると何万匹にもなることがあると聞くぞ)


 そうニーナの声が聞こえ、これよりまだ最悪のケースもありうるんだと、ちょっと引いた。


(おそらくここは北国だから、エサとなる動物の数も少ないのだろう。ゴブリンがたった五千体でもエサが足りないのだ。これから他の森か、危険でも人間の里へ向かう準備をしているところじゃないか?あと一日遅れていたら危なかった。ゴブリンハザード一歩手前というところか。とりあえずあのゴブリンキングと思われる個体を倒したらお前たちの目的達成としてやる。突撃する前にしっかり相手の状況を確認して作戦を立てから行くんだぞ)


「ええ?この中を突撃すんの?」


 明らかに五千体のゴブリンを目の前にして、やる気の失せているバーン。だがこれを放置しておけば、自分の国が危険なインフェルノは違った。


「おまえが止めるなら俺一人でも行くぞ?」


「いやいやごめんって。俺も行くって」


「どうする?これだけの数がいると、闇雲に突っ込んでも、なかなかアレには辿り着けそうもないぞ」


 そこで二人は荷物を置き戦闘態勢を整え、作戦を話し合う。作戦と言っても大雑把なものだが。それは、まずバーンが横払いのバーニングスラッシュで前面の敵を殺せるだけ殺し、次にインフェルノが、ゴブリンの群れの一番奥にいるキング目がけてフラッシングフルーレで直線的に突っ込む。キングは切り立った崖の斜面にいるため、ゴブリンの群れを突破したインフェルノは風魔法によって崖を駆け上がり、一対一でキングと戦う。バーンはその間、下で雑魚の相手をするということになった。

 先にキングを倒せば統率力もなくなり、残った雑魚ゴブリンたちも倒しやすくなるだろう。また仲間の能力を向上させるキングのスキルの影響もなくなり、雑魚ゴブリンが弱くなっているだろうという予測である。


「バーン、昨日魔力を使いつくして動けなくなっただろ?いくら敵の数が多いからと言っても、いきなり全力で剣技を放って魔力を使い果たすなよ?」


「ああ、分かってるって。その辺はセーブするよ」


 バーンの剣技は火魔法、インフェルノの剣技は風魔法をそれぞれ乗せて放つ。魔力がなければ技も放てないし、先日のバーンのようにふらついて戦闘どころではなくなってしまう。だから使う魔力量の加減も必要だという事だ。

 そこからさらに作戦の細かい部分を話し合おうとしていた時、不意に何かが飛来してくるのを察知し、二人は思わず避ける。直後、近くの木に、回転しながら飛んできた手斧が突き刺さった。


「え?」


 二人が振り返ると、キングがこちらを指さし眼下に広がる兵隊たちになにやら叫んでいた。


「まさか?あそこからここまで1km以上あるぞ?」


 そう。その手斧は、林に潜んでいたバーンたちに気付いたゴブリンキングが、威嚇のため投擲したものだった。


「やばい!見つかった。もう突撃するぞ!」


 二人は斜面を駆け下り、ゴブリンたちが集結する平地に降り立った。作戦の細かいところは決まらなかったが、仕方がない。打ち合わせた内容に従って、バーンを先頭に突き進む。


「フレイムソード!」


 走りながらバーンは剣を抜き、フレイムソードの刀身に火を灯す。そして、二人に向かって襲い掛かってくる一面に広がるゴブリンの大軍団に向けて剣技を放った。


「バーニングスラッシュ!」


 右から左へ、横払いで降りぬいたフレイムソードの刀身から、ゴブリンの群れに向けて業火が放たれた。


「バカ!加減しろって!」


 インフェルノから罵声が飛ぶ。先日バーンが一撃で魔力を使い果たした魔法フレイムウォールが起こした炎は、幅約三メートル高さ一メートルほどだった。それに対し、今放たれた炎が大きすぎたからだ。

 フレイムソードから放たれた業火によって、二人が今立っている場所からその範囲が把握しきれないほど見渡す限り炎が広がる。炎がゴブリンたちを切り裂き、通り過ぎた後には、辺り一面ゴブリンの死体が横たわっていた。その死体の数は、全体のおよそ二割ほど。約千体のゴブリンが一瞬で死んだことになる。

 死体の向こう側にはまだ残るゴブリンたちが待ちかまえているが、その距離は遠く、そして正面方向、ゴブリンキングとの間を遮るゴブリンは残りわずかしかいなかった。


「これでも加減したつもりなんだけど……」


 バーンはこれだけの炎を起こしておきながら、今回は魔力を消耗しきって動けないということはないようだ。それは、フレイムソードが魔法の威力を増幅させる能力を備えているからに他ならない。

 バーンの言葉を聞き、問題ないと悟ったインフェルノは、そのまま真っすぐ突撃をする。


「風の精霊よ、力を貸してくれ。加速アクセレーション!」


 風の魔法によって、インフェルノの走る速度が加速する。そしてゴブリンたちの死体の上を駆け抜ると、ゴブリンキングのいる斜面との間に残るゴブリンたちを突破する。


「フラッシングフルーレ!」


 インフェルノの剣技によって、先ほどまで武器を振り上げていた下等な生物たちは、一瞬で肉塊と化した。


 そんなインフェルノの突撃を、ゴブリンキングは黙って見ているだけではなかった。足元まで来ている敵に向け、再び手斧を投げつけたのだ。一キロ離れた二人に命中させることができるほどの規格外のスキルを持った、ゴブリンキングの投擲斧。投げられた手斧は、回転しながらインフェルノ目がけて飛来する。まともに当たれば全身鎧を着ていようと一撃で死に至るであろう必殺の攻撃だ。

 しかしインフェルノの持つ首飾りに込められている投擲物を無効にする魔法によって、投げられた手斧は見えない壁にぶつかり跳ね返ると、地面に落下した。

 ゴブリンキングは首をかしげる。なぜダメージを与えられなかったのか、ゴブリンキングには理解できなかったのだ。その間にインフェルノは、風の魔法によって斜面を駆け上がる。

 ゴブリンキングが投擲斧による殺害を諦め、接近戦用のバトルアクスに持ち替えた時には、インフェルノはキングの目の前まで到達していた。




 

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