第9話
楼閣が立ち並ぶ花街にやってくると、ひときわ目立つ美しい楼閣へと入った。
その店の遣手婆に「おーい」と声をかける。
「志明、いらっしゃい」
「予約したやつは?」
「あるよ。それより、うちの新人相手してくれない?」
「えー、なんで。俺は春画買いに来ただけなのに」
「本の金、半分まけてやる」
「いや。いい。俺は好きな女以外を抱きたくはない!」
「春画だけ買いにくるんじゃないよ! ここは遊郭なんだよ!」
「じゃあ別の店に行ってやる! いいのか!」
遣手婆と睨み合う。
先に負けたのは遣手婆だった。
「わかった、わかった。じゃあ、飯だけでも食べてきな」
「……それならいい」
遣手婆に連れられ、俺は楼閣の奥に行った。
食堂に入ると、遣手婆が台所に向かったので、俺は大きな机の台所に近いところに腰を下ろす。
誰もいない広い食堂に、大きな机。
普段ならば遊女や禿が食事を取る場所だ。
時折俺もその場に混ざって食事を取ることがある。
「ほらよ」と遣手婆が持ってきた食事を見て、俺は「うまそ!」と興奮しながら手を合わせた。
「ちゃんと飯食べてるのか?」
「食べてるよ」
「全く、また痩せただろう?」
「ああ、でも、また痩せるかもしれない」
「なんで?」
俺は軍から、一族の本業でもある帝の相談役になったことを伝えた。
「今の帝も男好きなんだろ?」
「そうだね」
「お前さん、すぐ食われるぞ」
「今日接吻されかけた」と打ち明けると「ほらみろ」と眉間を寄せてため息をつく。
「あんな場所向いてないって昔から言ってるのに聞きもしないからそうなるんだ」
「仕方ないだろー、親が親なんだから。謝志一族の男と、元上級妃の姫君のもとに生まれたらああ言う場所で働くのが宿命なんだよ」
俺はため息をつきながら粥をすくって食べる。粥ばかり食べていると、「おかずを食え」と言われ、炒め料理に手を付ける。
「ばーさん、俺、ばーさんの子どもに生まれたかったな」
「子どもとして産んでなくてもお前は私の子どもだ。なに弱気になってる」
「……うん」
だからこそ、ここに来てしまうんだろう。
遊女と遊ぶためではなく、母のぬくもりを感じるために。
「そういえばさ、ばーさんなんか困りごととかないの? なんかあるなら手伝うよ」
「あったら言ってるよ」
「そっか」
また手を動かして食事を取る。
自然と静かになって、黙々とご飯を食べた。
遣手婆の作る料理はうまい。
実母の手料理は食べたことがない。
でも、母のような遣手婆の手料理は幾度も食べている。
だから、俺は母に対する寂しさはない。




