第8話
目の前で俺に対して欲情する帝を前に、俺は顔を青白くさせていた。
「お、俺は……人間なので鳴きません。泣きは……しますが」
「そういう趣味はない」
「いや、そういうことではなく……」
(この帝、ずっと仕事してればいいのに)
俺はそう思った。
でも、口に出してるつもりはなかった。
「お前は俺のことが嫌いなのか?」
「へ?」
突然の質問に、俺は間抜けな声を出した。
帝がつまらなそうに俺から離れ、自身の机に戻っていく。
「余に対して『ずっと仕事してればいいのに』と呟いていたぞ」
「!」
反射的に部屋の入り口を見た。
まだ用事で出かけた肖然は戻ってきていない。
大丈夫だ。
首をはねられることはない。
「嫌いなのか?」
「嫌い……ではありませんが、突然顔を近づけるのは如何かと思います」
「余はこの国の帝ぞ」
頭からつま先までビリビリとした何かが体中をかけめぐる。
この人は“人”であると同時にこの国で最も偉く、権力、富、すべてを持つ“帝”だ。
欲しいと思えば簡単に手に入る。
「……大変失礼いたしました。無礼をお許しください」
俺は立ち上がり頭を深く下げて謝った。
意見を言うことすら不敬だろう。
首をはねられても仕方ない。
もし、肖然がいたらその場で連行されて牢屋に入れられてたかもしれない。
いや、今からでもそうなるかも。
「分かればいい」
心臓の音が聞こえるほど緊張していた。
本来であれば、帝のそばで仕事をすることなどありえないのだ。
「ところで……」
「はい」
「今夜、うちに来ないか?」
「申し訳ありません。今晩は花街に行く予定があります。半年前から予約しておりまして。やっとこの日が来たので」
「ハハハッ、そうかそうか。それは楽しんでくるが良い。遅れるのも良くないだろう? もう仕事を切り上げなさい」
「ありがとうございます」と拱手をすると、俺は逃げるようにその場を立ち去った。




