第5話
仕事の優先順位を一覧にした紙を見ながら、帝の執務室を整理した。
棚から机周りまで完璧に綺麗にする。
正直ここまでやると、掃き掃除や拭き掃除もやりたくなるのだが、帝の前なので我慢することにした。
「ひとまずここで終わりにします」
「休憩するといい。助かった」
「はい」
そこに肖然がお茶を持ってやってきて、帝の分だけでなく俺の机にもお茶をおいてくれた。
「お前は綺麗好きなのか」
「いえ、それほどではありません。ただ、執務室が汚いのは仕事の効率が悪いかと思います」
疲れたこともあり、そんなことをいっていた。
だが、肖然の視線に口を滑らせたと思い立ち上がって深く頭を下げた。
冷や汗がたらりとこめかみを伝う。
「大変申し訳ありません。今、私めは……」
「いや、いい。構わん」
顔を上げると、帝は楽しそうに笑っていた。
激しく脈打っていた動悸が治まる。
「お前は素直でいい。肖然、少し二人にしてくれないか」
肖然が頭を下げて「かしこまりました」と言って部屋を出る。
二人きりになった部屋で、帝は人間らしく背伸びをした。
「肖然がいない二人の時間は不敬など考えなくて良い」
「……わかりました」
「お前は帝なのにこのぐらいできないのかと思うか?」
「いいえ。思いません。人間誰しも欠点はありますから。あなたを神のように扱う人もいるでしょうが、神も時には失敗をするはずです」
「そうか。そうだな」
なにか納得したように顎を撫でながら何度か頷く。
そして帝は俺の方をジッと見てきた。
「お前の姉が後宮にいるはずだ」
「はい。います」
「麗霞はお前によく似ているな」
昔からよく言われる。
武官の体にそのままそっくり姉の麗霞の顔を乗せたら、俺ができると。
そのぐらい見た目はうり二つだった。
だからこそ、昔から揶揄われたものだ。
「女みたい」と。
「だから文官はやりたくないのだな」
「はい?」
会話を聞き逃したかと思った。
「どういうことですか?」
「顔が女性的だから、武官として励んでいるんだろう? バカにされないように」
「!!」
なぜ、気が付かれてしまったのか。
誰にも話したことはないはずだ。
「……なぜ、お気付きになられたのですか」
「いや、なに。机仕事が嫌だと食堂で叫んでいたのだろう? それなのに、整理整頓は得意で、常に筆記用具を持ち歩いている。武官らしくはない。お前は文官としての才はあるのだろう。だが、お前はそれを望んでいない。なぜなら体を鍛えなければ痩せ、余計に女として見られやすいからだ。さては、お前は男に誘われるな?」
ごくりとツバを飲んだ。
この方を侮ってはいけない。
帝という地位にいるだけはある。
「そして、鍛えなければすぐ痩せ、女に見られやすいだろう?」
「敵いませんね。さすがこの国を治める皇帝陛下であられる」
俺は、力が抜けてふと笑っていた。




