第4話
皇帝の執務室にやってくると、すぐに奥の部屋から肖然が出てきた。
どこかで監視でもしていたのかと思うほどの速さだ。
俺は背後を振り返り、扉の上の方を見た。
(ああ、やっぱり)
扉は外開きで、扉の上の方に細い糸がついている。
それは天井の方に消えているが、それはおそらく肖然の執務室、もしくは帝の執務室まで続いているのだろう。
その執務室にはベルがあるはずだ。
扉が開くたびに音が鳴るのもうるさいだろうが、警護のためと思えば仕方あるまい。
「おはようございます。志明さま」
「おはようございます。ところでこちらをお願いしたく」といい、俺は異動届を肖然に渡した。
異動届を見るなり、彼は片眉を持ち上げてこちらを見る。
「正気ですか?」
「はい」
「……わかりました。ひとまず受け取りました。1週間でいいので、仕事をしてみませんか? もしそれで合わなければ元の職場に戻します」
「それで構いません。よろしくお願いします」
「では、志明さまの仕事場は主上の部屋の一部になります。主上は常に大きな案件を抱えています」
「相談役のため、ということですね」
「はい。主上のいらっしゃる部屋に入ります。失礼のないように」
そう言われ、俺は身だしなみが崩れてないか確認し「行きましょう」と声をかけた。
帝の部屋の扉が開けられると、俺は一瞬目を疑った。
その部屋の机にはぐちゃぐちゃになった書類が山積みで、木簡が適当に棚の中に押し込まれている。
「……」
その部屋の汚さに思わず絶句していた。
しかし、肖然が咳払いをしたことで俺はハッとして頭を下げる。
「申し遅れました。今日から着任いたします。謝志明です」
「ああ、よろしく頼むぞ」
帝は俺に構ってる余裕などないとでも言いたげな顔を見せることなく、汚い部屋の中で穏やかな笑みを浮かべていた。
「では、こちらの席へどうぞ」
案内された机は、綺麗な状態で木の板が美しく輝いている。
天と地の差に、俺は肖然を思わず見て伺ってしまう。
肖然が「なんでしょう?」と言うので、小さな声で「この部屋はどうしたのですか?」と、聞いた。
「少し……主上は片付けが苦手でおられまして」
「その……肖然さまや周りの方は片付けられないのですか?」
「身の回りのことは自分でしていただく。それが我が一族です」
頬が攣りそうになった。
帝といえど甘やかされることなく育ってきたのだろう。
いや、帝だからこそなのかもしれない。
「しかし……」
「もしやりたいのであれば、志明さまがしていただくのも構いませんよ」
「では」と言い、俺は帝の前に立った。
「主上、書類整理をお手伝いさせていただくことは可能でしょうか?」
手を合わせてお伺いを立てる。すると、主上の目に光が輝く。
「まことか? やってくれないか」
「承知いたしました。では、まず先に──」
俺は持ち歩いていた小さく折りたたんでいた紙を取り出し、懐の中に手を突っ込んで携帯用の筆を取り出した。




