第3話
翌朝、食事を取っていると寮父がやってきた。
寮父は随分と前に武官を引退した老人だが、軽やかな足取りでこちらに向かって「よう」と声をかけてくる。
「軍から離れると聞いたぞ」
俺は口に入れていた野菜をごくりと飲み込んで「どこから聞いたんだ?」と寮父に聞く。
「噂になっている」
「噂ぁ? 情報漏れるの早すぎるだろう」
俺はハハハッと笑い飛ばしながら茶をすすった。周りの連中も話が気になるらしく、こちらをチラチラ見てくる。
「で? おじさん、どこまで聞いてんだ?」
俺は空いていた隣の席をトントンと叩いた。
寮父は待ってたと言わんばかりに腰を下ろす。
「帝専属の相談役に任命されたんだろう?」
「ハハハッ、もうそこまで知られてるのか!」
面白い面白いと笑っていると、「何が面白い」と寮父が俺の頭を軽く指で弾いた。
「お前は謝志一族だろう? 帝に呼ばれるってことら相談役に任命されたってことだ」
「謝志でも俺には6人兄がいる」
「じゃあ、違うのか? なんで呼ばれた? まさか……」
寮父が目を見開いて、顔を青ざめさせる。口を手で隠して俺を見てきた。
「なんだよ」
「……お、お手つきされたのか……?」
寮父が小声で俺に言ってきた。
もし、ここに誰もいなければ確実に言っていた。
『俺にそんな趣味はない!』と。
「んなもん違う。ていうか勝手に想像するな。あと、相談役に任命されたのは本当だ」
「さっさと言え!」と背中を叩かれ、「うえっ」と蛙のような声が出る。
「でも、俺は決めてるんだ」
俺は懐に手を入れて文を見せた。
そこにあるのは「異動願」である。
「もうやめる気なのか?」
「やめるに決まってるだろう」
「お前、昇進じゃないか! 祝い事だろう!」
バンッと机を叩いて立ち上がる。
「俺は机仕事が嫌なんだ! 俺は武官だぞ! なんで机仕事しなきゃいけないんだ! 机仕事するぐらいなら首つってやる!」
俺の剣幕に周りが引いていた。
それに気が付いてペコリと頭を下げて腰を下ろす。
「ともかく、俺は嫌なんだ。武官なんだぞ、俺は」
「……そんなに嫌でも、無理なんじゃないか?」
「やってみなきゃわからないだろう」
「……まぁいい。どうせ寮も引っ越すようにとか言われてただろう? お前が決めるまで部屋は片付けないでおくよ」
「勝手に入るなよ?」
「安心しろ、お前の“宝”はバレてるぞ」
ケケケッと笑って、俺の肩を何回か叩いて隣から立ち去った。
「まったく……」と呟きながら、途中だった食事を再開させた。




