第21話
「ああ、全く……お前は……!」
帝の唸り声が部屋に響いた。
俺はくくくっと笑いながらパチンと駒を移動する。
「あなた、弱いですね」
「お主が強すぎるのだろう!」
シャンチーを初めて一刻経過していた。
俺はもうすでに帝から2勝していた。
「そろそろお休みになられますか」
「いいや。お前に勝つまでやるぞ」
「明日の仕事に障りますよ」
「……ならば、寝かせてくれ」
俺はどうしようかと考えた。
さすがに帝を気絶させるわけにはいかないし、薬を盛るわけにもいかない。
「……子守唄でも歌いましょうか」
「俺は子供じゃない」
「いや、子守唄は大人にも効果ありますよ」
俺は寝台の方に行き、布団を広げた。
そして振り返ろうとしたとき、帝が後ろに立っていたことに気が付き、驚いて寝台に座ってしまう。
「……志明」
「……夜伽をお望みなのであれば、お受けいたします」
「本当か?」
「ここに来たのは、それも覚悟のうえです」
帝は、俺を見つめた。
そして、手がゆっくりと伸びて、俺の唇を手でなぞる。
「いいのか」
「構いません」
「怖くないか」
「優しくしてくださいね」
俺は帝を見つめ、そして笑った。
翌朝、俺の隣で帝が眠っていた。
昨晩のことを思い出しながら、俺は一人顔を赤く染める。
(くそ、ダメだ……こんな始まりは嫌だ!)
ガシガシと頭を掻いていると、帝が「なにをしてる」という声が聞こえてきた。
「おはようございます」と平然を装った顔をしながら振り返ると、色気を振りまく帝が髪をかきあげた。
「っ!!」
ドクン、と心臓が音を鳴らず。
大変申し訳ないが、心臓に悪い。
やっぱり体を許すべきではなかった。
「顔が赤いぞ」と、帝が起き上がって俺を引き寄せる。
「どうしたんだ?」
「陛下……近寄らないでください」
「緊張するか」
「……はい」
「慣れろ」
その言葉は無責任だと、俺は思った。
「私はあなたの寵愛は、望んでいません」
「なぜだ?」
強い口調だった。俺はそれでも言葉を繋ぐ。
「この外後宮には、あなたからの寵愛を受けるために必死になっている方々がいる。私があなたからの寵愛を受ければ、どうなるか……なんとなく……察してしまったのです」
「では、俺が志明、お前を守ろう。他のものが近付きたくならないぐらいに。警備も警護も、強くしよう」
「沐陽さまはどうなるのですか?」
「……それは……考えておこう」
「……沐陽様のことが好きなのであれば、私に構わないでください」
「私は沐陽のことは好きではないぞ。どうしてそんなことを思うのだ?」
「え?」
俺は一番に寵愛を受けていること、恋愛関係にある話を聞いたことを伝えた。
「沐陽の仕業だな。まぁいい。沐陽は陳家の次男だ。陳家は女が生まれなかったので、外後宮に沐陽を入れたがったんだ。それで、沐陽も俺に気があったらしい。だから恋愛関係にあるなどと言っていたのだろう」
「……じゃあ、沐陽は政治的な意味で寵愛していたということですか?」
「そうだぞ? この外後宮は後宮と大して変わらない」
「宦官もいるって話は?」
「……それは答えないでおこう」
俺の髪を撫で、顔を伺ってきた。
「恋愛的な意味で招いたのはお前が初めてだ」
「……」
「昨晩は良かっただろう? また来てもいいか?」
「仕事にどうぞ」
「一緒に行こうじゃないか」
「俺は、お風呂に入るので」
「じゃあ俺も」
「うざい」
「帝だぞ?」
「知るか」
そう言うと、帝は楽しそうに寝台に倒れて大きく笑った。
「良いな。お前に認められたような気がするぞ」
「不敬とあらば、さっさと首を切ってくださいね」
「肖然がいなければ、不敬などない。構わんさ」
俺は横になる帝を見つめた。
そして、心に決めて口にした。
「お風呂、一緒に入ります?」と。
帝は起き上がり、嬉しそうに笑った。




