第13話
遣手婆のところまでたどり着く頃には、もう朝になっていた。
裏手に回って裏口から勝手に入る。
「ばーさん、ばーさん!」と声を荒げて回っていると、遣手婆が出てきて俺の顔を見るなり目を見開いた。
「どうしたんだ!」
遣手婆の顔を見た途端、我慢してたものがとめどなく溢れてきて、その場にぺたんと座り込むと、うわああ、と泣き始める。
「ああ、可哀想に」
遣手婆が俺の前に座ると、俺を抱き寄せる。
遣手婆の肩に顔を埋めてぐずる子供のように泣きじゃくった。
涙も出なくなり、俺は遣手婆の腕の中にいるのが気まずくなっていた。
「もう気が済んだか?」
「うん、ごめん」
「なにがあった?」
「……思い出した」
肩から顔を上げて、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながらそう呟く。
「そうか。そんな気はしてたんだ。お前がパニックになってくるときはいつもそうだからな」
「……前もあったっけ」
「あったさ」
「覚えてない」
「そうだろうな」
まったく、と言いながら頭を撫でられる。
「奥で寝ていくといい」
「ばーさん、俺、死ぬかもしれない」
「なんで」
「帝の手叩いちゃった」
「でも、帝の側近は追いかけて来なかった。大丈夫だろう」
言われてみればそうだと思い、俺はその場に横になった。
「あー……最悪だ」
「寝るなら奥で寝ろ」
「ばーさん連れてって」
「よぼよぼの婆が武官連れていけるわけないだろう! 歩け!」
ガシガシと足を踏みつけられ、俺は渋々起き上がり、奥の部屋へと向かった。
遣手婆の寝台にごろんと転がり、布団をかける。
遣手婆がそれを確認すると部屋を出ていった。
一人になった部屋で、俺は目を閉じる。
瞼の裏で、綺麗な青年が一人、俺の前に立って笑顔を見せていた。
『お前が相談役になってくれるのか?』
『そうです!』と、俺は返事をする。
『そうか! お前となら仲良くできそうだ。よろしくな』
『はい、皇太子殿下!』
その日は、晴れた日だった。
気持ちのいい天気で、皇太子殿下はあまりにも美しく輝いていた──。




