第11話
元の職場に戻ると「相談役が解雇されて戻ってきた!」と話題の渦中に放り込まれた。
「何やらかしたんだよ?」と同僚の一人に聞かれると、わらわらと仲間たちが集まってくる。
「別に解雇はされてない。相談役として常駐する必要はないですよねって意見して戻してもらったんだ。それに俺は武官だぞ? 文官の真似事なんてできない」
「お前よく無事で帰ってれたな!」
「皇帝陛下はお優しい方なんだぞ」
優しいのは間違いないが、手を出すのも早い。
それは普通の平民であれば欠点になり得るのに、帝という立場であるがゆえに許されてしまうのだ。
訓練のあとに執務室に向かうと、汗臭いせいか文官に睨まれた。
臭いとでも言いたげな顔で顔をしかめ、帝につく文官にもなると、汗臭いことも許してくれなくなるらしい。
肖然が出迎え、中に入る。
帝の机は若干散らかっていたので、相談役として話を聞きながら整理整頓をしていた。
「別の相談がある」
「なんでしょうか」
「俺の知り合いなのだが、昔会ったことを忘れているんだ。初めて会うかのように振る舞うんだ」
「頻繁に会っていたのですか?」
「一度だけだ」
「それは相手の方も覚えてないでしょう。ただ、帝という立場の方と会ってるのに覚えてないのは、よほど記憶力がないんでしょうね」
「そのときは皇太子だった」
「それでもやんごとなき身分の方とお会いするのに忘れてしまうのはどうかと思いますよ」
そう言うと、帝は苦笑いをしながら「お前の話だぞ」と言った。
俺は「え?」と固まる。
「余とお前は昔一度会ったことがある。非公式の場ではあったが、志豪が紹介してくれた。この末息子があなたの相談役になります、とな」
「……申し訳ありません。覚えておりません」
俺は昔の一時の記憶があまりない。
多くのことがありすぎて記憶したものを捨ててしまったのだろう。
この帝と会ったことがあるとは思いもしない。
「余に興味はないのだな」
突然、そんなことを言い始めた。
悲しいとでもいうかのような空気をまとい始める。
(思い出せとでも言うのか?)
「何年前の話でしょうか」
「余が17歳の頃だった」
「では、9歳ですね」
9歳──、その年はたくさんのことがあった。
俺や兄弟たちを育ててくれていた祖母が死に、流行り病で生まれたばかりだった双子の弟と妹が死に、火事で実家が焼け、花街で遣手婆と出会った。
あの頃のことを思い出そうとすると、頭の中に白いモヤがかかったみたいになって、思い出せなくなる。
思い出そうとするのをやめろというかのように。
「色んなことが多くあった年ですから、忘れたのかもしれません」
「まぁ、1日しか会っておらぬからな。忘れていても仕方あるまい」
「申し訳ありません」
そう言って謝る。
しかし、帝の表情は晴れることはなかった。




