砂糖なんていらないよ
春、それは恋の季節───。
「モブ美、俺と付き合ってくれ!」
「…ごめんなさいっ!」
少女が私の目の前を走って通り過ぎて行く。なんでプロポーズでもないのに指輪を買ったのさ。
苦いねー。このほろ苦さが堪らなく好きなんだよ。
「嬢ちゃん、砂糖入れないで苦くないのかい?」
「うん!大人だからね!」
「はっはっは、そりゃ大したもんだ!」
市場の横にある噴水広場。そこに最近できたオシャレなお店にハマっているんだよね。
特に、看板メニューのカフィって飲み物。黒くて苦くて不思議な味なんだけど、ふとした時に飲みたくなるんだ!
砂糖を入れて甘くすることができるんだけど、私は甘いのがあんまり好きじゃないんだよね。
「この、あいすってなに?」
「アイスってのは冷たくて美味しい食べ物だよ。金は取らないから試しに食ってみな!」
太っ腹なおじさんだね。あんまりお店の雰囲気と合ってない気もするけど…。
「はいよ」
「やったね!いただきまーす!」
この白くて丸い塊を、スプーンですくって食べるみたい。クラッカーが刺さってるけどなんでだろう。
「──────!」
「どうだ、上手いか?」
すっごく冷たいと思ったら、口の中で溶けちゃった。ほんのりと甘くて…、そう!
「カフィと合う!」
「分かってるじゃないか!」
「おじさんすごいよ!これすごい!」
「ありがとよ!でも急いで食べたらお腹痛くするからな!」
「分かった!」
いいお店だとは思ってたけど、ここまでだなんて!私の中の美味しいお店ランキングが更新されちゃったよ!
甘いものも、苦いものと合わせればこんなに楽しめるんだね!
「モブ男くんっ!」
「あ、モブ美ちゃん…」
あれ、さっきの女の人が戻ってきた。
「さっきは気が動転してて、思わず断っちゃったの!」
「えっ?」
「だからお願い、もう一度言ってもらえないかしら…」
「モブ美ちゃん…!」
ん?おや、おやおや?
「君のことが好きだ!付き合ってくれ!」
「はいっ!喜んで!」
目の前でモブ男モブ美が抱き合っている。
「けっ…」
やっぱり私に甘いものは似合わないね。ほろ苦いコーヒーが1番さ。




