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第42話 勝手に仲間ヅラしないでくれます?

 屋上に転がり込んで来た男は、頭に巻き角が二本生えていた。その素性は聞くまでもないだろう。


「ま、魔人⁉」


「頼む、助けてく」


「誰だコラァ!」


「ドゴォ⁉」


 クルタナたちの前に飛び出したエリンはそのままの勢いで前蹴りを放ち、男を蹴り飛ばして屋上の外に弾き出した。


 男が落下していくのを確認したエリンは、額の汗を腕で拭う。


「ふぅ、危ないところでしたね。不審者でしょうか? まったく物騒な世の中です」


「いや、それで済むはずないでしょう」


 冷静にツッコミを入れるクルタナの横でイザベラも深く頷いていた。


「見事な蹴りでした。私にもお願いしても?」


「イザベラ、少し黙ってなさい」


 口元に両手の人差し指でバッテンを作ったイザベラの前で、クルタナは腕を組んで仁王立ちした。


「エリンさん、貴女————」


 マズい、流石に誤魔化し切れないか。思わず顔を伏せたエリンに、クルタナは正面から告げた。


「話を聞かないで人を蹴り飛ばすのは良くなくてよ?」


「え、あ、はい」


「魔人相手になんと豪気な。彼女こそ真の令嬢だ」


「お褒めに与り光栄です」


 得意の腹話術を交えつつ、エリンは驚きに目を見開いた。


「あの方の言うこっち側というのはよくわかりませんが、助けを求めていそうでした」


「ええ。まあ、傷も負っていましたし……でも魔人ですよ? 怖くはないんですか?」


「無論、怖いです。ですが、我がアブラスキー家は彼らと関係を持っています。問答無用で拒絶していては、交易など出来るはずもありません」


 家の仕事事情と彼女個人の心情は本来別のところにあるはずだ。それなのに、恐怖を感じながらも彼女は毅然と言ってのけた。


 戦いではなく対話から。いつかの自分が求めたモノを、彼女は体現している。


「なんだ、やっぱり不可能なんかじゃなかったんだ」


「マクレガー! ここで何をしている!」


 魔人を追っていた人影の一つがエリンたちの下に到着した。現れたのはライオットだ。遠目に見てエリンは把握していたが、それはあちらも同じだったようだ。


「何と言われても、ただ学友が開いてくれたパーティーに参加していただけですが?」


「それで魔人が飛んでくるのか。どうやら貴様は戦場に愛されているようだな」


「嬉しくないです」


 自分でも薄々思っていることを。冗談でも止めて欲しいが、実際行く先々で戦いを巻き起こしているせいで強く否定できない。


「あ、あの、貴方様は、まさか」


 むくれて黙るエリンの横で、クルタナが震えていた。


「ベルティネ共和国の六龍使、ライオット・フェニキス様でしょうか⁉」


「ん? ああ、いかにも私がライオット・フェニキスだが。君は?」


「クルタナ・アブラスキーです! 彼の共和国の英傑にお会いできて光栄ですわ!」


「あのアブラスキー家の令嬢か。君たちが魔王ラルクと交渉していたお陰で我々は全ての魔人を敵に回さずに済んだ。国防を預かる者たちを代表して感謝を」


 そう言ってライオットは頭を下げた。この男らしい生真面目さのように思えるが、頭を上げた時にこちらを見た顔がどこか勝ち誇ったように自慢気だった。


「そんな勿体ないお言葉を! 家がしていることで、私は何もしていませんし……!」


 クルタナは巨体を捩ってしなを作るが艶やかさはまるで感じず、鍛え上げられた体をアピールしているようにしか見えない。


「クルタナさんはどうしたんですか?」


「お見苦しい物を視界に入れてしまい申し訳ございません。お嬢様は彼のファンなのです。強さもさることながら、あの切れ長の強面がドストライクだそうで」


「はあ、変わった趣味の人もいるんですね」


 自分はもっと愛らしい表情をする優し気な青年の方が好みだ。そう、ルークのような。


 その顔を想像してエリンは両頬に手を当てわずかに赤面した。


「どうしたマクレガー。気持ち悪いぞ」


「なんでもありません。というか、偉かったんですね」


「国の最高戦力の一角だぞ?」


 それは良い情報だ。これで、この土地の実力者のラインが見えてきた。一対一なら負けることはないだろう。この男が切り札を見せなければの話だが。


「少しは私の立場を理解したか?」


「ほどほどに」


「エリンさん! 貴女、ライオット様とどういったご関係で⁉」


「えーと、保護者みたいな? それよりも、落ちた魔人はどうしたんですか?」


 これ以上は聞かれると危ないと感じて話を逸らす。


「既に部下が捕らえた。どこかの戦闘狂がトドメの一撃を加えてくれたお陰で、労せずして捕まえることが出来た」


「そうですか。その戦闘狂さんに感謝しても良いんですよ?」


「学友を安全に家まで送り届けろ。私はあちらに向かう。では、失礼する」


 エリンの言葉を思いっ切り無視してライオットは屋上から飛び降りて消えた。


「ああ、行ってしまいました。まだサインを貰っていないのに」


「欲しいものがあれば伝えておきますよ。さ、戻りましょう」


「ええ。エリンさん、あとで詳しく話を聞かせて貰いますよ?」


「……お手柔らかに」


 そう言うしかなかった。どうしたものかと頭を掻きながら、エリンたちは屋上を後にした。


 その後、パーティーの間も終わった後もクルタナに根掘り葉掘り聞かれ、彼女を家に送り届けてようやく解放されたエリンは一人で帰路に着いた。


「はあ、ライオットのせいでとんだ災難に遭いましたよ」


「よく耐えた。しどろもどろになっているキミを見るのは中々に愉快だった」


「面白がらないでください。まったく、どうしてわたくしのところに飛んでくるのやら」


「クルタナに聞かなくて良かったのか?」


「何をですか?」


 脈絡のない問いに首を傾げる。


「彼女はラルクと交渉していた家系の人間だ。ラルクの容姿や性格など、彼女を経由すれば聞き出せることがあったのではないか?」


 言われてハッとした。たしかにその通りだ。


「でも、それくらいライオットもやってるんじゃないですか?」


「彼が全ての情報をキミに明かしているかは定かではない。白銀とラルクが活動していることがわかっているのに情報が若い女性だけなど、あると思うか?」


 ルグの言葉に頷く。ライオットからの情報に期待してはいけない。彼とは協力関係ではあるが、全てを明け透けにするとは思えない。


「他人に頼ってばかりでは駄目ということですね。この女子高生という立場を利用させて貰いますよ……この恰好には慣れる気がしませんけど」


 改めて自分の着ている物を確認し、スカートを押さえるエリンであった。


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