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第38話 人ってめんどくせえなァ‼

 空に現れた新手にエリンは目を細め、訝しげに見つめた。


「ライオットさん。親戚ですか?」


 頭の形以外は翼を出して空にいるフォルムはよく似ている。新手の者もライオットが空にいた時と同様に飛んでいるというよりは浮いているように見える。


「絶妙に答えづらいことを聞いてくれる。関係はあるが血の繋がりはないと言っておこう」


「何か用っすか⁉」


 一番威勢の良いレオンが空にいる龍機士とやらに聞く。


「共和国の皆様に用件はございません。どうかそのままご静観頂きたい」


 問答無用で戦闘ということはなく、相手は話が通じるようだった。口が動いた様子はなく、どこから声を出しているのかはわからない。


 その声音は女性的な柔らかな高音でありながら、肉声とは思えない硬さを感じさせた。


 共和国というのはライオットらが属している国のことだろう。それで龍機士は全く別の国の所属ということか。


 情報を整理しながらエリンは一歩前に出た。


「その口ぶりでは、用があるのはわたくしですね」


「はい。エリン・マクレガー様。貴女様にお話があり、馳せ参じた次第でございます」


「随分と恭しく接してくれるのですね。こちらも態度が改まってしまいます」


 ライオットが敵だというので警戒していたが、丁寧な対応に背筋が伸ばされた。加えて、素性を知られていることで緊張感が嫌でも増した。


 どうやら本当に対話を望んでいるようだ。エリンは戦闘から会話での情報収集に意識を切り替えた。


「要件をお聞かせ下さい」


「単刀直入に申します。貴女様がルグと呼んでいる物を私共に譲って頂きたいのです」


 その申し出を聞いた瞬間に戦闘モードに切り替わりそうになった。そこをグッと堪え、エリンは問いかける。


「ルグをですか。理由をお聞かせ願います」


「ソレが、この世界の歴史上で最も貴重な物である為です。同じ物は二度と作ることが出来ません。本来の持ち主の下に戻すことが賢明であると考えます」


 気になる言葉を続けてくれる。気になることが多すぎて殴り掛からずに済んでいる。


「ルグが何であるか知っている口振りですね。それに、本来の持ち主とはどなたのことでしょうか?」


「申し訳ございませんが、ソレについては口外することを禁じられています。ですが、持ち主についてはお答え可能です」


 そんなもの自分以外にいるはずがないと思いつつも、エリンは気になっていた。


 ルグのことを知り、所有権を主張する者が誰であるか。龍機士はどこから発しているのかわからない硬質な声音で答えた。


「ソレの持ち主は、この星の王であり、人類を導く存在であらせられる、神王ルクス様です」


「はあ、ホシノオウというのが何かはわかりませんが、ひとまずわかりました」


 聞いたところでわからないと思っていたが、人類を導く存在と来た。また随分と傲慢なヤツが出て来たものだと、エリンは肩を竦めた。


「ルグ、どうですか? そのルクス様という方の下に行きますか?」


「拒否する。断固たる拒否だ。不退転の意志を宿した断固たる拒否である」


「だそうです。本人が怖いくらい拒否しているのでお渡し出来ません。神王様にはそこらに落ちている枝でもお送り下さい。きっと杖代わりにはなるでしょう」


 ルグの徹底的な拒否を引き出したエリンは、ヘラヘラとした笑みを作って挑発した。


 人の大切な相棒を誰ともしれない奴に譲るものか。ルグのことをソレだの物だの言ってくれる輩には一発かましてくれる。


 エリンの挑発を受けても相手に変化はない。鋼の体からは何も感じ取れない。


「困りました。回収せよと仰せつかっていますが、方法については指示を受けていないのです。このままですと、力づくで、という形を取らざるを得ないのですが、いかがいたしましょう?」


「いいですね。力づく。好きですよ。そういうの」


 エリンは口角を上げると獰猛な獣のような爛々とした眼光で龍機士を睨み、右手に槍を生成して握りしめた。


「落ち着け、マクレガー。貴様も、この場での戦闘は止めて貰おう」


「ライオット様が説得に協力して頂けると言うのならそうしましょう」


「残念ですが、説得の余地はありません。貴方はこの場で拘束します」


「待て! マク」


 ライオットの制止を聞かず、エリンは灰色の槍を投擲した。幾分か加減して放ったそれは的確に龍機士の肩を穿った。


 槍は龍機士の肩に突き刺さっている。しかし、痛みを感じている様子はなく、血も流れていない。


 エリンが訝しんでいると、龍機士の肩から槍が押し出された。引き抜いたわけでもなく、体自体が形を変えて内側から排出したように見えた。


 槍が刺さっていた場所に傷はない。完全に無傷だ。それ故か、エリンが攻撃しても龍機士は反撃をする素振りを見せない。


「奴らとは戦うだけ無駄だ。消耗するだけだぞ」


「そのようですね、どういった仕組みですか?」


「あの中は空だ。本体はここにいない。本国から意識だけがこっちに飛んできている。殴ろうが焼こうが本体には全くダメージが入らない」


 つまりは不死身の戦士というわけだ。ウェストリアに渡った者たちが苦戦している理由もわかる。


 魔法と魔力に制限がかかる慣れない環境で、隣のライオットも龍騎士も相手にしたくはない。


「ルグ、手立てはありますか?」


「彼は意識を電磁波に乗せている。この認識は正しいか?」


「……ああ」


 ライオットが隠しようもないほどに瞠目した。ルグは会話の間に敵の解析を着実に進めていたのだ。


 その速度と精度は、高度な文明社会で生きてきたライオットの想定をも遥かに上回る。


「ダメージを与えられはしないが、意識を切り離すことは可能だ」


「撃退は出来るわけですね。やりましょう」


「待ってくれ。奴らと事を構えても得がない。落ち着け」


 ライオットはエリンの肩を掴んで物理的にも止めにかかる。


「落ち着いてますよ。ただ、相手がルグを渡さなければ戦うという姿勢を崩さないなら、刃を交える以外にないでしょう?」


「わかった。俺が間に入って話すから、それまでは堪えてくれ」


 エリンの前に出たライオットは、龍機士へと問いかけた。


「どうしてそこまでルグを欲しがる? ただ貴重なだけでは到底納得できないぞ」


「先程も申した上げた通り、お答えできません」


「御子を追わなければならない状況で手を出すのだ、余程重要なのだろう。ルグの存在が世界を正すために必要不可欠だからではないのか?」


「お答えできません」


 どれだけ聞いても龍機士の鉄仮面が崩れることはない。


「もう決裂でしょう」


「待て。お前は今、アイツらと争う面倒さをわかっていない!」


「説明する気はないが納得しろ、なんて言われて素直に頷けるほど育ちが良くないんです」


 また槍を生み出し肩に担いだエリンが再びライオットの前に進み出た。


「だいたい、彼はあなた方にとっても敵なんですよね? だったら躊躇する理由がないでしょう?」


「それはそうなんだが、戦うにも時と場合というものがあるし、国同士の関係もあって公に敵扱いするのも問題があるし、敵の中にも括りやグラデーションがあってだな」


「はいはい、そうですね。よくわかったのでファイア!」


「おい!」


 ライオットの説得も空しく、エリンは槍を投擲した。先ほどの焼き直しだ。


 寸分違わず同じ箇所に槍が突き刺さる。今度もまた槍が排出されるかと思われたが、そこからが前回とは違った。


 槍が刺さった箇所から龍機士の体が崩れ始めた。龍機士は崩れ出し、地面へと落下していった自分の腕を見て、状況を理解したようだ。


「これは、ボディの接合が解かれている?」


「体を繋ぎ合わせている力を相殺している。直に今の形を保てなくなる。キミ一人の出力では、私とエリンの力には勝てない」


「……やはり、ソレは我が王が持つべき物だ。個人の魔力などという歪で矮小な力で運用するのは非効率的だ」


 言っている間にも龍機士の体は崩壊を続け、肩から胸元まで削れたところで頭がもげた。


 地面へと落ちていく頭部からは、なおも言葉が紡がれる。


「またすぐに伺います。その時には良い返事が貰えることを期待しています」


「構いませんけど、次は今回のような容赦はしませんので、覚悟してくださいね?」


 返事はなかった。龍に似た頭部は地面に達する前に細かな粒子となって空に溶け消えた。


 それを見送ったエリンは振り返り、ライオットたちを見渡した。


「また来るそうなので、彼らについても話を聞かせて下さいね♪」


 締めに可愛らしいウィンクが添えられた言葉の後、ライオットたちは一斉に空を仰いだ。

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