第34話 お家芸発動! 魔法を使えなくてもわたくしには関係ない!
決着を悟ったエリンは空から階段を降りるようにゆっくりと下っていく。
エリンが砂浜に足を着けた頃には砂煙は晴れていた。
エリンの視線の先には赤い男が立っている。
腕を欠損するほどの深傷を負ったにも関わらず、男はエリンと立って向かい合っていた。
その表情は苦悶に歪んでいる。もはや決着はついた。
そう考えていたエリンは、次の瞬間に目を見張ることになる。
千切れた右腕が砂浜から飛び出し、男の右肩口へと吸い寄せられていき、切れた部分同士が繋がり合う。
飛び散った細かな肉片や血液までもが男の傷口へと集まり、男の傷はまるで初めからなかったように綺麗に修復された。
「ルグ、あれはまさか」
「再生ではない。逆行だ。局所的に時間が巻き戻っている」
見覚えのある現象にエリンの顔が一段と強張る。
まったく同じことをエリンの最愛の人物も行っていた。
予想だにしなかった共通点が見つかり、目の前の男の重要度が跳ね上がった。
「聞くことが増えましたね」
「素直に驚いたぞ。ここまで強い魔人とは出会ったことがない。もしや貴様、魔王か?」
「本当に自分勝手に質問する人ですね。わたくしはもう答えませんよ。ここから先は、貴方が話したくなるまで痛めつけるだけです」
「やれるものならッ⁉」
言葉を続けようとした男の胸が槍によって貫かれた。その槍はエリンが投擲して、砂浜に埋まっていたものだ。
エリンは槍が自分の手に戻る過程で、赤い男の体に刺さるように調整した。
背後から飛び出した槍は男の体を抉りながら貫通し、エリンの手元に戻った。
男の胸には風穴が開き血が垂れ流されるが、先程の傷と同様に時間が巻き戻るようにして傷口は塞がれた。
男が傷を負っていた痕跡は着ているスーツの右袖が千切れていることと、胸部の穴だけだ。
その胸の穴の辺りに、水晶が吊るされたペンダントが揺れていた。
「いつまでそれが出来るのですか? 死ぬ前には話をしてくれないと困るのですが」
「……クソが。本当に相手にしづらい魔人だ。まさかこちら側で使わされるとはな」
男の手が穴の開いた胸元に伸び、ペンダントに触れた。
何かする。
これほどの力の差を見せつけられても男は折れず、まだ逆転の目があると信じている。
エリンは警戒を強め手に戻った槍を構え直した。
その時、第三者の声が戦場に響き、二人の気を散らした。
「ライオット隊長! 退きましょう! 魔人たちが来ます!」
叫んだのは茶髪の青年で、赤い男の着ているものとは色違いの黒いスーツを身に着けていた。
「貴様、仲間を呼んでいたか!」
「決めつけないで下さい。わたくしの知り合いではありません」
言いながらエリンは魔力の流れを探る。確かに魔力を持つ者が近づいてきている。
見つけられたのは七人。
どれも上手く魔力を隠しており、エリンでも探るまでは気づくことが出来なかった。
このレベルで魔力の制御が出来るということは、それなりの手練れが来ている。
考えてみれば当然だ。生半可な者ではこちらの大陸でまともに戦うことが出来ない。
ウェストリア大陸に連れてこられている時点で、それ相応の戦力と見た方が良い。
「さて、彼らはどういったスタンスで来るのやら」
「レオン! 隊を集めろ! この場で一網打尽にする!」
「そんなぁ⁉ 無茶ですよ! その女もヤバいし、こっちに来てるのもヤバいんですよ⁉」
「コイツは俺を逃がす気がない。力でねじ伏せる以外にない!」
よくわかっている。エリンは男が口を割らない限り、解放するつもりがない。
そうして赤い男に注意を向けたまま、彼らの仲間と魔力を持つ者が来る方に目を向けた。
間もなく、二つの集団がほぼ同時に浜辺に現れた。
黒いスーツを着た男女が四人。
もう一つの集団は、ストリート系の服装の男性やゴスロリ系の服装の女性までおり、これといったまとまりがない。
エリンからすれば理解不能な格好だ。
四人の方が赤い男の仲間だ。
あとから来た特徴がバラバラな方は七人おり、それぞれから魔力を感じる。
「戦闘態勢! 魔人を殲滅する!」
赤い男が声を張ると、呼応するように魔力を持つ集団も声を上げた。
耳に幾つもピアスを付けたガラの悪い男がエリンに話しかける。
「強い魔力を感じて来てみたが、窮地のようだな、同胞」
「そう見えますか?」
「そいつらは俺たちよりも生命力が高く面倒だ。数が多いと消耗戦になるぞ?」
男の言い分は概ね正しい。
目の前の赤い男は未だ手札を隠しているし、後から来た仲間たちまで似たような力を持っているとしたらジリ貧になり、魔力が枯渇して敗北することになる。
だが、ここに例外にして規格外が存在する。
エリンは目の前で隙のない構えを取る赤い男に話しかけた。
「一旦休戦です」
「なに?」
「そのまま立っていて下さい。ああ、逃げたら容赦しないので悪しからず」
「おい、どういう意味だ」
言うだけ言って、エリンは赤い男に背を向け、魔力を持つ者たちへと歩み出した。
無造作に歩きだしたエリンを、その場にいた全員が訝しんだ。
「魔力を持つ方々。魔王ラルクと『白銀』の居場所を知っていますか?」
「……ああ。あの裏切り者を消すために同盟を組もう。そっちの王に掛け合ってくれ」
「そうですか。では、わたくしの軍門に下りなさい。そして、知っていることを洗いざらい吐きなさい」
魔力を持つ集団に困惑が満ちる。エリンは話しながらも彼らに一歩一歩近づいていく。
「何を言ってやがる。俺は魔王ザリュード様の副官、スピネルだ。俺が従うのはザリュード様ただ一人。どこの誰とも知らない女の言いなりになるわけねえだろ」
「自己紹介ありがとうございます。では、わたくしも名乗りを上げさせて頂きます」
エリンは足を止め、槍を肩に担ぎ、見栄を切った。
「わたくしの名はエリン。『魔法使い』にして『黄金』の魔王殺し、エリン・マクレガー。この名を聞いても抗うというのであれば、命を賭す覚悟を以って挑みなさい」
片頬を吊り上げ、不敵な笑みを作ってみせる。虹色の瞳に戦意を灯し、魔力を持つ集団を睨みつけた。
相手が同胞であろうと関係ない。そもそもエリンは魔王殺しだ。
同じ大陸出身で魔力があろうと関係ないし、彼らとはここに来た目的が正反対だ。
自分の持っていない情報を持つ者は片っ端から締め上げる。
誰が立ち塞がろうと関係ない。
覚悟を決めたエリンは、留まるところをしらない。




