第26話 魔王大戦争!
エリンとヴァン、新たにシルビアを乗せた荷馬車は街道を急ぎ足で進んでいた。その後ろにはシルビアが乗って来た馬車が続いている。
二人は、シルビアと遭遇する以前までの人目を避ける動きを止めていた。
大陸の南西側では正否不確かな『“黄金”の魔王殺しエリン』復活の噂よりも、『勝者』と『“白銀”の魔王殺し復活』の事実の方が注目されている。
そのため思い切って荷馬車を南西に向けて走らせている。
悪目立ちしたくないエリンにとっては都合の良い話なのだが、そのままにしておいてくれない者たちに引きずられるようにエリンは荷馬車を走らせていた。
「白銀の復活は確定なのですか?」
今の状況に納得のいかないエリンは少しむくれながら、それとなく他二人の意向を変えようと牽制の質問をする。
「ほぼ間違いないでしょう。実際に海を渡った魔王が一人屠られ残された部下が逃げ帰って来たと魔王の間で言われています」
「それだけでは白銀と確定しませんよね?」
「はい。既に複数回、白銀の輝きを目にしたと報告が上がっています。それに魔王ラルクが関わっているとも」
エリンはガクッと肩を落とし、見るからにげんなりとした。何故か目的地にしていた町の魔王が世界を動かすほどの大事に関わっている。
加えて、旅の同行者は戦士の魂に火がついてしまって血の気が多いことこの上ないと来た。
絶対に碌でもない事態が今後待ち受けている。
面倒ごとを避けて生きたかったはずなのに、どんどん面倒な方向に足を踏み入れている。
エリンの気が滅入るのも仕方のないことだった。
「どこの誰が隣の大陸で白銀が復活するなどという世迷言を流布したのですか?」
「それが一部の魔王が突然話し始め揃って隣の大陸に渡ったということしかわからないのです。彼らが誰から聞いたかは伏せられています。他の者は話を聞きつけて後を追っただけです」
「怪しくないですか? そんなの信じて大丈夫ですか? 実際にその噂を聞いても動かない魔王もいるじゃないですか。ここはどこかでゆっくり噂の行方を見守った方が後々動きやすいのではないですか?」
「白銀なんて俺はどうだっていい。用があるのは親父たちだけだ」
ここぞとばかりに軌道修正を図ろうとするエリンだったが、師と戦うことしか頭にないヴァンには微塵も効果がなかった。
獲物を定めたハンターのように、ヴァンの瞳にはターゲットしか映っていない。
もはや戦闘は規定路線になっていた。それもエリンが巻き込まれることが確定したうえで。
「わたくしはどっちも興味ないのに……」
「力ある者はそれを振るうことを世界に求められる。世の理だ。強者として受け入れる他ない。観念したまえ」
「そんなぁ」
最大の味方であるはずのルグから追い打ちを受けてエリンは撃沈した。
「それで、わたくしはどこに向かわされているのですか?」
「このまま南下すると魔王の根城に着きます。手始めにそこを落とします」
「何故?」
「肩慣らしだ。一度魔王と真っ向からやり合ってみたかったのもある。ここいらでもう一つ箔をつけておいた方が親父も姉御もやる気出すだろ」
「露払いは我々とエリン殿で行います。存分に暴れて下さい」
バトルジャンキーに触発されてヴァンまで変なスイッチが入ってしまった。予想通り戦力に加えられていたエリンは一人頭を抱えた。
シルビアの言う露払いとは雑兵どもの相手だろう。雑兵といえども、魔王から血を与えられた者は魔王の力の一部を扱えるようになる。例としては理想の共有による魔法の部分再現だ。
それに加えて、魔王は血を分け与えた者の魔力を扱える。魔王の幻想魔境がエリンやヴァンなどの『はぐれ』が使うそれよりも強大で支配的な理由は、ここに理由がある。
つまり、雑兵散らしはそれだけで相手の魔王の力を削ぎ、純粋な一対一の勝負の土俵に相手を引き摺り出すことが出来るということだ。
早々にヴァンが決着をつけられるように頑張る必要がある。とはいえ、今回はシルビアがいるから幾分か気が楽だ、そんな甘い考えを持つエリンだったが……。
それから数日間、荷馬車を走らせ続けたエリンたちは目的の魔王の城がある城下町に辿り着いた。
しかし、町に足を踏み入れた一行は想定外の事態に足を止めることになった。
「城がないぞ」
「たしかに、どこにも見えませんね」
「氷の城を作っているはずなのですが、不在なのかもしれません。住民に聞いてみましょう」
シルビアが配下の男に指示を出して話を聞きにいかせる。男は町の住民数人と話を済ませて戻ってきた。
「この町の魔王は不在です。ウィンザリオで『勝者』に足止めされている他の魔王と連合を組んで征伐に向かったようです」
「何人だ⁉︎」
思いがけない報告に泡を食ったヴァンが問いかける。主語が省かれた問いに配下の男は冷静に答えた。
「正確な数はわかりませんが、足止めされている魔王は四名いるとの噂です」
「この町の魔王ストバリスが加われば五名。魔王大連合軍の完成です」
「その数を二人で捌くのは無理だ」
この時、エリンは珍しく察しが良かった。この流れはマズい。そう彼女の本能が告げていた。
すぐにエリンたちは町を出た。目的は決まり切っている。
御者台に大人しく座るエリンの背後、荷台に乗ったヴァンとシルビアが後ろに続く配下たちに向けて号令を出していた。
「急ぎ追いつき、連合軍を背後から強襲する!」
「魔王を纏めて五人も相手取れる日が来るとは思わなんだ! さあ、戦だ!」
ヴァンとシルビアが声を張り上げ、配下たちがそれに呼応する。
「どうしてこうなる……」
「キミは戦場に愛されている。受け入れて進むしかない。だが、安心したまえ。キミには常に私がついている」
「ホントに頼みますよ、ルグ」
エリンは涙ながらにシルビアの部下を率いてウィンザリオへ向けてビリーを走らせた。




