第24話 踊ろう! スパークルダンス! ②
エリンの灰色の杖とシルビアの光の刃が押し合う。
「この!」
エリンがシルビアを弾き返すと、シルビアは空中で身を翻しながら地面に静かに着地した。
「光刃を弾くか! 杖の硬さだけでなく、練り上げられた魔力によるものだな!」
「ヴァン、ビリーを連れて離れて下さい。この方、周りのこと考えないタイプなので」
「ああ。ビリー、前進だ」
ビリーは一鳴きしてからヴァンを乗せて戦場から離脱していく。その後を追ってシルビアの背後から一人の男が飛び出した。
「行って参ります!」
「うむ! 存分に戦ってこい!」
「は!」
男はシルビアに敬礼するとヴァンを追って走っていった。中々の健脚だが本気になったビリーに追いつけるか。
「さあ、黄金! 出し惜しみはなしだ!」
「お好きにどうぞ」
「余裕だな! あくまでもそちらが格上であり、我の方が挑戦者というわけか! 滾らせてくれる!」
どちらかというとカウンター寄りかつ戦闘が長引いた方が有利になるから言っただけなのだが、またしても意図しない解釈をされてしまった。
シルビアが光刃を手に踏み込んでくる。接近戦で押すつもりかと判断したエリンはルグに指示してプライマリー・レッドを発動させ、シルビアを軽くあしらう。
だが、シルビアは接近戦をするつもりなどなかった。なおも果敢にエリンの懐へと踏み込んでいくシルビアは、刃を振るいながら流れるように言葉を紡いだ。
「暁の空に焦がれ、彼方の極光を追う。深緑をもたらし灼熱の砂漠を生む輝きの極み。我は日輪の現身。衆生一切を滅却する天の火球をここに」
(戦いながらの詠唱⁉ それも詠い慣れている!)
「ルグ! プライマリー・ブラックアウト!」
「了解!」
エリンの持つ杖の先端に嵌められた石の色が赤から黒へと変わる。同時にエリンの目も色彩が抑えられて黒に近づいた。その間もシルビアの詠唱は続いており、すぐに終わりが来た。
「万象一切を灰燼と帰す! 『火天招来・光身転臨』」
シルビアの、北方最強の魔王の幻想魔境が露になる。それは世界を書き換えるような大掛かりなものではなく、ただシルビアの体から光を放つものでしかなかった。
それだけのことで、大地が融解した。
「ッ!」
全身に走る痛みにエリンの顔が歪む。最初にやられたのは眼球だった。視界は焼かれ白に消えた。
それに続き肌という肌が焼かれ、そこかしこから焼き焦げた臭いがした。危険を察知して全魔力を防御に傾け、ダメージを緩和させる。
「これで死ぬほど軟ではないだろう? さあ、ここからが本番だ!」
「このッ、殺すつもりはないという話はどこに行ったのですか⁉」
「黄金相手に手加減など出来ようはずもない! 全力で行くゆえどうか生き残ってくれ!」
何から何まで話が食い違う。文句を言いたくなるが戦いに集中しなくては次の瞬間にも絶命していてもおかしくない。
視界が殺された中でエリンはシルビアの動きを魔力の流れを感じることで読むことに意識を傾ける。
「これはどうだ!」
これまで全方位に向いていた魔力が一方向に収束していく。その方向は当然エリンだ。
エリンはとにかく全力で跳んで死の光線から逃れようとするが、完全には躱し切れず左腕が一瞬だけ光に呑まれた。
その一瞬で左腕が消失した。
「ッ‼⁉」
左腕の肘から先がなくなっている。激痛を歯を食いしばって耐えながら体勢を立て直す。
一瞬だ。本当に一瞬で持っていかれた。当たることを察知して魔力を集中させていたのに。
「腕一本、まだ戦えるだろう! さあ、貴女も見せてくれ! 黄金の幻想魔境を!」
「残念ながら、わたくしは幻想魔境を使えません」
「なんだと?」
「わたくしの幻想魔境は奪われ喪失しています。奪った張本人はこの手で殺めていますが帰って来ることはありませんでした」
本来エリンが持っていたはずの幻想魔境、および魔法は玉座を追われた時には奪われている。
それでもエリンは戦い生き残って来た。その理由がシルビアに叩きつけられる。
「ですが、代わりに得たものがあります。味わわせてあげましょう。貴女の力を」
全身の火傷に腕の焼失。既に敵の幻想魔境を直接身に受けている。これだけあれば十分だ。
エリンは何の予備動作も詠唱もなく、その体から光の帯を放った。
「ヌッ⁉」
放たれた光の帯はシルビアを呑み込もうと殺到する。シルビアはギリギリのところで回避するが、先程のエリンと同様に躱しきれずに左脚の膝から下が焼き焦げていた。
「これは⁉」
「他人の幻想魔境を写し取る技。『幻想射影』。戦闘経験豊富な魔王といえども、自分の幻想魔境をその身に受けたことはないでしょう?」
この技の欠点はすぐには使えず、相手の幻想魔境の中で一定時間生存しなければならないこと。
時間は敵の能力とエリンの相性で決まるが、シルビアの幻想魔境とは相性が良くすぐに写し取ることが出来た。
「ク、クク、ハハハハハ‼‼ 面白い! 面白いぞ‼ 黄金の! ならば、どちらの光が上か競い合おうではないか!」
愉快極まる笑い声を上げるシルビアに対してエリンはこれ以上にないほど冷静だった。
「いえ、既にわたくしの勝利は揺るぎないものとなりました。ルグ、緑を」
「了解。プライマリー・グリーン アクティベート」
「再生か!」
黒かった杖の先端が緑に変わると同時に、エリンの失われた腕や肌、目の再構築が始まっていた。ほんの数秒のうちに元通りになった全身の感触を動かして確かめるエリンを見て、シルビアは手を叩く。
「人間種であるにも関わらずこれほどの再生能力を有するとは、貴女はつくづく期待を裏切らないな! だが、それだけで勝利を確信するとは笑止!」
「それだけかどうか、試してみては?」
「言われずとも!」
シルビアの光がエリンに集中する。これまでで最も収束され魔力を乗せられた光線。それをエリンは左手を正面に翳して待ち構えた。
エリンの左手に光が吸い込まれていく。そして、何もされていないかのように光は消えた。
「なに⁉」
「無傷ではありませんよ。攻撃を受けながら一部を魔力に変換し、手の再構築に回す。それを続けていただけです。貴女の幻想魔境を写したお陰で耐性が出来ていたのもあります」
幻想魔境を写す行為は魔法の解析を済ませたに等しい。敵の攻撃を魔力に変換するのに必要な工程は既に済まされている。
「では、こちらの番です」
今度はエリンの体から収束された光が放たれる。それはシルビアが放ったよりも遥かに強大な魔力が乗ったものだった。
「逃げはしない!」
シルビアは対抗しようと全魔力を注ぎ込んで光の帯を放つ。
エリンとシルビアの放った光がぶつかる。共に強力な魔力を有する光の砲撃が鬩ぎ合う。その均衡は数秒後には崩れた。
徐々にエリンの光がシルビアの光を押し退けていく。
「ハハ! 押し、負ける!」
エリンの放つ光がシルビアの右半身を包み込んだ。
光が走り抜けた後、右腕の肩口から脇腹あたりまでを失ったシルビアが地に倒れた。
目と肌を焼かれた。腕は失くした。それでも勝負を決する時には無傷で立っている。
これこそが伝説。最強の座は揺るがずエリンの下にある。




