第56話 クリフの生活2
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
「クリフは何故、住み込みでアルバイトを?」
ビルがコーヒーを一口飲んで訊いてくる。
「捜している人がいるんです。この国に来ていると聞いたので」
「え? 誰? 誰なの? どんな人? どんな人?」
クリっとした目を一段と大きく見開いてランは勢いよく興味津々に聞いてきた。その勢いが凄すぎて、俺は体を後ろへ反らす。
「これだから女は……人のプライベートに首を突っ込むな」
料理長のジンがランを止める。この中で最年長は見るからしてジンだった。その次にラン、最年少がビルのように見える。でも、流石にビルは俺より上なんだろう。
「ええー、いいじゃない。そんなの訊いたって、気になるじゃない?」
明るいノリでランは瞳を輝かせ、教えて教えてと訴えかけるように俺を見てくる。俺にとっては話すことは何の抵抗もない。もしかすると、この3人のうち誰かが見ているもしくは知っている可能性だってある。
「あ、大丈夫です。黒髪で紫の瞳の女の子なんですが、歳は俺と同じで15歳です」
そう伝えると、朝食を食べていた三人の動きが止まった。数秒ほどシーンと静まり返る。
「え? 黒髪? 本当に黒髪なのか?」
ジンが聞き直す。俺は、そうだと頷くと、三人は顔を見合わせた。
「捜しているのは、王族か?」
「え?」
ジンの一言に俺は驚く。何故、王族になるのかが不思議だった。
「だってよお、この国で黒髪って言ったら王族の色だぞ」
ビルはそう言うとコーヒーに角砂糖を一つ入れスプーンでかき混ぜる。先程一口飲んで苦かったのだろうか。
「この国の王族の髪色は黒だ。クリフはこの国の出身じゃないのか?」
「はい。俺は隣のドルーニア国の出身です。捜している女の子もドルーニア国からこっちに来ています」
「じゃあ、王族じゃなさそうだな。だが、この国で黒髪の子がウロウロしてれば目立つよな」
ジンはそう言うとまた食事を始めた。そうですね、とランも食事を始める。
「その子はクリフの彼女なのか?」
ビルはもう一つ角砂糖をコーヒーに入れてスプーンを入れて混ぜる。
「それ、今私も聞こうと思ってたのに……」
ランはジトリとビルを睨む。
「あ、すみません。期待に応えられないんですけど、違うんです……」
どう答えてらいいのか戸惑う。
「なあんだ、違うのか」
ランは何故か少しがっかりしていた。それよりも俺はビルは角砂糖を2個入れたことに驚いた。
「違うのか?」
ビルは、そう言うとまた角砂糖を入れようとした。
「おい、ビル! 砂糖はもうやめとけ。どんだけ入れるつもりだ! そんな飲み物はもうコーヒーとは言わないだろう!」
ジンが止めに入る。俺はホッとした。あれ以上砂糖を入れたら糖分の取りすぎになる。ビルは悲しい表情をした。甘いものが好きなんだろうか。
結局、ビルはもう一つ角砂糖を入れて飲んでいた。想像しただけで口の中が甘くなった。
「食事が終わったら、捜しに行ってきます。夕方の仕事の時間までには戻ってきます」
「おう、気をつけてな。そうだ、簡単だが昼食用の弁当を用意しておくよ。持っていくと良い」
ジンがコーヒーを一口飲んでから言った。
「ありがとうございます」
昼食に使うお金も惜しかったから、ジンの心使いがうれしい。それだけでも節約したいと思っていたところだった。俺はジンたちにお礼を言って朝食を済ます。質素な朝食ではあったが、パンは柔らかく、優しい味の野菜スープはとても美味しかった。
自分の部屋に戻って私服に着替える。部屋のテーブルの上には、エミーリアに渡そうと思っていたスターチスの花束を置いておいた。この花を購入して5日ほど経っていた。普通の花なら枯れてしまうのだろうけど、不思議な事にこの花は色あせない綺麗な紫の色を保っている。そっと触るとパリパリとして乾燥しているようだった。
1階に降りると、ジンがお弁当と飲み物を用意してくれていた。外で食べることになるだろうと、食べやすさを考慮しておにぎりにしてくれたらしい。ジンの気遣いが嬉しかった。このホテルの人たちは良くしてくれて優しい。
「ジンさん、ありがとうございます」
「気を付けてな。時間までには戻ってきてくれよ。今日も忙しいから」
「はい、分かりました。時間までに戻ってきます。行ってきます」
俺はジンに頭を下げ外に出た。
もうすぐ昼近くになるから陽はかなり高く昇っていた。少し雲が出ていたが、雨が降るような天気ではなかった。今日は街の北の方を捜してみようか。
街の北には洋服屋が数件並んでいた。店の窓から覗き込むが、見つからない。彼女がどういったものが好みなのか分れば、そういった店を優先にさがすのだけれど、さっぱり分からない。この街にはいないのかもしれないな、と思ったが、この街に来てまだ日は浅い。もう少し捜してみなければと思い歩き続ける。何人かの人たちに尋ねたが、「そんなお方は見ていない」と言う。
昨日も気にはなっていたが「そんなお方は」と皆が言う。多分、俺が捜している人が王族だと思っているのかもしれない。
ちんまりとした公園のベンチに座って、ジンが用意してくれたおにぎりを食べる。丁度良い塩加減でとても美味しい。中には魚を焼いた切り身をほぐしたものが入っていた。飲み物も果汁水で疲れた体を癒してくれる。
一体、エミーリアは何処にいるんだろうか。早く会いたい。会いたい。心が切なく胸が締め付けられる。
結局、今日は見つからなかった。いつの間にか夕方だ。時間までにホテルに戻らないといけない。後ろ髪ひかれる思いで俺はホテルに戻った。
「お帰りー!」
そう出迎えてくれたのはビルだった。
「ただいま戻りました。すぐ着替えてきます」
急いで着替え、厨房に行く。時計を見ると18時前だった。
「おう、戻ったか?」
「ジンさん、お弁当ありがとうございます。とても美味しかったです」
「おうそうか、明日も捜すんだろう? また用意しておいてやるよ」
「ありがとうございます」
俺は調理に使用した器具をガチャガチャと次から次と洗っていく。洗っていくが、なかなか減らない。そして夜になると水が一段と冷たくなる。少しだけお湯を出して洗う。温かいお湯に手を漬けると湯に浸かっているような感覚になり、ずっと漬けておきたくなる。でも、そんな事をしていたらお湯が無くなってしまう。我慢して次は水で洗った。
「クリフ! 次、食器が戻ってくるから急いで洗って!」
「はい!」
ランがそう叫ぶと、使い終わった皿を引き上げてきた。食器の数も限られているようで、洗い終わるとまた使われる。一日の厨房の洗い物も大変な量だ。これは慣れても早く終わる気がしなかった。次第に食器や調理器具の洗い物が減ってくる。時計を見ると21時を回っていた。もう、夕食を食べている人が少なくなったのだろう。
22時になるとほとんど洗う物が無くなる。自分たちはやっと夕食に食べれる時間になった。朝食同様、四人で食べる。パンに鶏肉の香草焼き、サラダ。ジンが作ってくれるものはどれも美味しかった。
「やはり、すぐには見つからないか?」
ジンがお酒を飲みながら聞く。
「はい。今日は街の北の方を捜してみたんですが、手掛かりも全くありませんでした」
俺は溜息をついて肩を落とす。最初からすぐに見つかるとは思っていない。この街に来てまだ二日目だ。そう自分に言い聞かせる。言い聞かせるてはいるものの、やはり見つからなかったショックは大きい。
「まあ、明日も早い。初日で疲れただろう? 早めに休んでまた明日頑張れ」
ジンはそう励ましてくれた。そうだ、体を休めて明日に備えなければならない。
「あ、明日の宿泊代の支払いをしてこないと」
俺が思い出して呟くと、ビルが支配人のヴォルスから伝言を預かっていると言ってきた。宿泊代は賃金から差引きするという事だった。一日銀貨2枚を昨日支払った。差引きされるという事は、賃金はそれ以上当たるのだろうか。明日ヴォルスさんに聞いてみよう。
それにしても今日は物凄く疲れた。早く部屋に戻って休みたかった。
「すみません。俺、部屋に戻って休みます。今日はクタクタなので」
「おう、休め休め! 明日は6時から手伝ってくれよ!」
ジンはお酒の入ったコップを高らかに持ち上げ、叫んでいる。
「お先に失礼いたします。お休みなさい」
俺はそう言って厨房を出て宿泊している2階の部屋に戻った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたなら、応援やブックマーク、評価などいただけましたら励みになります。
次回更新は8月24日0時10分頃の更新予定をしております。
また読んでいただけると嬉しいです。




