第55話 クリフの生活1
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
エミーリアを追ってハンシェミント国に来たけれど、長く滞在するには手持ちのお金が少ないかった。持って3日ぐらいだ。その間にエミーリアを捜し出すつもりだったけれど、まず初日は街の中心部の、安く宿泊できるホテルを探した。
この街に来た理由は、エミーリアの兄、ラルスから彼女は留学したと聞き、学校がある街を最初に捜しに来た。
「黒髪に紫の瞳の令嬢? そんなお方は見かけていないよ」
街でエミーリアの容姿を言えば、殆どの人がそう答える。
すぐに見つかるとは思っていないけれど、時間をかけている余裕もなかった。もうすぐ日も暮れる。先程、年配の女性に公園の隣にある小さいホテルなら安く宿泊できると聞いた。今日はそこで休むことにしよう。
言われた通りの道を行くとそこそこ大きめの公園に来た。木々が生えており、噴水もあった。少し薄暗くなってきたからか、色鮮やかなイルミネーションの小さなライトが点き綺麗だった。ライトアップされて公園のベンチにはカップルだろう、仲良く男女が座って話をしていた。辺りを見回してもエミーリアの姿はない。
やはりいないか、と俺はホテルの方に向かった。
ホテルはこじんまりとした建物だった。外に掲示板があり、ふと張り紙に目が留まる。
『アルバイト急募! 厨房の手伝い!』
アルバイト? ここで働けるのか?
俺は迷った。働いたことのない俺が出来るだろうか。だが、持ち金は日に日に減っていく。迷っている状態ではなかった。
ホテルに入るとフロントには眼鏡を掛け背筋を伸ばし姿勢の正しい男性が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「一部屋、暫く借りたいんだけど」
「おひとり様でしょうか?」
俺はそうだと頷く。
「一泊銀貨2枚です。前払いでお願いします。明日の分は明日お支払いください。こちらに署名をお願いします」
分かったと俺は頷き、財布から銀貨2枚出し、署名をする。署名が終わると鍵を受け取る。案内をされた部屋は2階の角の部屋だった。
俺は一度部屋に荷物を置いてフロントに戻る。フロントマンが俺に気づくと「お客様、どうかされましたか?」と訊ねて来た。
「あの……外の掲示板の張り紙を見たのですが、アルバイト募集と書かれたやつ。俺、働きたいのですが……」
「お客様が?」
フロントマンは目を見開いて驚く。驚くのも仕方がない。宿泊客が働かせてくれないか言っているのだから。
「実は、人を捜しに来たのですが、恥ずかしい話で手持ちのお金があと僅かで……もし、お願いできるのであれば、住み込みで働かせてもらえないでしょうか」
出来るだけ謙虚にお願いしてみる。その態度にフロントマンは片眉を上げた。
「アルバイトの経験は、ありますか?」
「それは……無いです。い、一生懸命します。なんでもします。お願いいたします」
ここで嘘をついてはいけない、見栄を張るより正直に答えたほうが良いのだろうと思った。俺は頭を出来るだけ下げた。実際、何もした事がなかった。
「うーん、出来ることは限られますが、いいでしょう。こちらも人手不足で困っているので助かります。厨房の手伝い以外もしてもらっても良いですか?」
「はい、何でもします。ありがとうございます」
「私は総支配人のヴォルスと申します。クリフさんですね。では、明日からお願いします。今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んでください」
これで、なんとか滞在期間を延ばせる。俺は良かったと安心した。
翌朝、フロントに話を聞きに行くと、昨日のヴォルスがいた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます。ヴォルスさん。寝心地の良いベットだったので、ぐっすり寝れました」
「それは良かったです。昨日のアルバイトの件ですが、本当にお願いしてもいいのでしょうか」
「こちらこそよろしくお願いします」
ホテルの制服を渡され、それに着替える。着替えが終わると、厨房に案内された。朝は6時から10時まで夜は18時から22時までの仕事で、昼の仕事が無いらしい。日中にエミーリアを捜せるので好条件だった。
中に入ると男性2人女性1人が忙しなく朝食の料理を作っていた。ヴォルスさんの話だと、ふっくらのした男性が料理長のジン、少し背の低めの男性がビル、ビルより少し身長が高めの女性がラン。
「今日からお手伝いのクリフさんだ。よろしくお願いしますね」
「クリフです。よろしくお願いします」
挨拶した自分の声が、ガチャガチャと鍋の当たる音や食器を出している音でかき消されそうになったが、三人には聞こえたらしく「よろしく!!」と威勢のいい声が返ってきた。
「じゃあ、そこの洗い物をしてくれるかな? スポンジはここにあるし、洗剤はこれを使って。お湯はこっちの蛇口から出て来るから。お湯は無限じゃないので気を付けてください。朝で使い切ってしまうと夜は冷たい水で洗う事になりますよ。洗ったものは一度この籠に入れ、水を切って布巾で拭いたら棚に片付ける。慣れないうちは、多分ほとんどかこの作業で一日が終わると思うけど」
昨夜の使った調理器具がどっさり置いてあった。俺は腕まくりをし鍋から洗っていく。これが結構重たい。こんな事をしたのは生まれて初めてだった。鍋の脂っこい汚れがなかなか落ちない。手間取っていると、「それ、脂っこいものはお湯で洗うと汚れが落ちやすいのよ」と後ろから女性の声がした。振り向くと包丁を持ったランが立っていた。
「わっ!!」
包丁の刃がこちらを向いており、背筋がゾクッとした。
「おい、ラン! 包丁握ったもんが後ろに立たれてみろ! 普通の人間なら怖がるぞ!」
ジンの大声が聞こえる。
「ああ、そうだね。ゴメンゴメン」と言いながらランは持ち場に戻った。ランは不慣れな俺の作業を見て助言をしてくれたのだろうけど、刺されるのかとびっくりした。
お湯で洗えば良いんだな。でも、考えて使わないと夜の分が無くなる。この三人にしたらちょっとした事なのだろうけど、俺には新鮮だった。今までが使用人がしてくれて当たり前だった事が、今度は何もかも自分でしなくてはならない。少量のお湯を鍋に入れ洗うい、ある程度落とせれば今度は洗剤を付けて洗った。
「あ、綺麗になった」
先程の油汚れもすっきり落ち、なんだか気持ちもすっきりした。鍋が洗い終わると、今度はビルが見に来た。洗い終わった鍋を持ってあちこち見る。
「よし、綺麗になってる。次もこの調子で洗って。この鍋は今使うからこのまま持っていくよ」
嬉しいと心が喜ぶのを感じた。自分のした作業を褒めてもらったのは初めてかもしれない。よし、次も綺麗にしようという気持ちになった。
調理器具が洗い終わると次から次と皿が俺の所に届く。客が朝食を食べ終わるのだろう。着た順番に洗いっていく。けれど立ち仕事で結構しんどい。洗うスピードも落ちてきた。少し休憩をしたいと思ったけれど、他の三人は黙々と調理をしている。彼らは俺より先に来て作業しているのだ。単純に凄いな、と思った。侯爵家にいた時には何も思いもしなかった。使用人にしてもらえることが当たり前だと。もっと彼らに感謝するべきだったのだな、と今更に後悔した。
この作業をして、どんだけ時間が経ったのだろう。必死に洗いものをし、順番に布巾で拭いていく。途中、何度か皿やコップを落としそうになった。単純作業に思えても、気を抜いてはいけない。
気が付くと、洗う物が無くなっていた。
「お疲れさん、クリフ」とジンが微笑する。
「こっち来て休憩しな」とランが厨房の一角に四人掛けのテーブルに手招きして呼ぶ。そこにはランとビルがパンと温かいスープを四人分用意して待っていた。
「初日から疲れただろう? でも、助かったよ。なかなか洗い物まで手が回らなくてな」
ジンが温かいコーヒーを入れて持ってきた。時間を見ると10時を少し回っている。もう、こんなに時間が経ったんだなと思った。午前中だけでもうクタクタだった。
「ありがとうございます」
四人が座って遅めの朝食を食べはじめた。
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次回更新は8月21日0時10分頃の更新予定をしております。
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