第39話 ランチタイム
7月に入りました。
皆様、熱中症には気を付けてくださいね。
リアクション、ブックマーク、ありがとうございます。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
学院初日だからなのか、午前の部だけでもどっさりと疲れが出たようで、私は机にうつ伏せでもたれ掛かっていた。
「淑女らしからぬ態度ですわね」
呆れた声の主は、背筋をしゃんと伸ばし、隣の席にすわっているクリスティーナ様だ。
「そう?」
もう淑女だの、どうでもよくなってきた。それほどまでに私は疲れていたのである。
私と比べると、彼女はただ座っているだけなのに優雅だ。そして後光が射しているかのように輝いて眩しく見える。やっぱり、彼女は淑女の鏡である。
片や机に凭れ掛かる伯爵令嬢。これだけ、彼女との淑女の差があるのだから、ダリル殿下は私に、もう婚約者候補に入らないか、などとは言わないで頂きたい。
「そんなお行儀の悪い姿勢では、王太子妃になれませんよ」
「何故、私がそれにならなければならないのですか?」
私はうつ伏せていた顔を声のする方に向ける。王太子妃をそれ呼ばわりしたことは、失礼なことだと分かっているけれど、それだけ私の中では興味のない事なのだ。それを見たクリスティーナ様は一笑するだけで。
「その話は後にして、昼食を食べに行きましょう。さあ、レミリア様。ランチルームに行きますわよ」
彼女は、私の腕を自分の腕に絡め引っ張って行く。どうして、その話が後になるのか分からない。出来れば、もうしないでほしい。クリスティーナ様はどうしても私をダリル殿下の婚約者にしたいのか、それとも冗談でそう言っているのか。出来れば後者であって欲しい、と願う。
ランチルームに行くと、「こっちでーす!」とカノン様が私たちの姿が見えると、大手を振る。先に来ていて席を取ってくれていたようだ。
「あら、ありがとう」とクリスティーナ様はお礼を言う。
私は今日初めてここに来た。
多くの生徒たちが、ランチを食べに来ていた。
ランチルームは半分はガラス張りで出来ており、陽の光が差し込んでいる。
とても開放感のあるように見える。
中央に1mほどの幅の小さな水路があり、数か所段差になっており、水流の音を楽しめる。そして、そこには10センチほどの色鮮やかな魚が泳いでいた。
至る所に観葉植物の鉢植も置かれ、まるで自然の中にいるような、とても落ち着いた雰囲気だった。
食事は、調理師たちが調理した料理をお皿に乗せ、トレーに乗せてくれる。そして、そのトレーを自分たちで席まで運ぶ。
席は2人、4人、6人掛けのテーブルがあり、それぞれの皆が人数に合わせて好きな場所に座っている。男子生徒だけのグループ、女子生徒だけのグループ、そして混合のグループで皆がランチタイムを楽しんでいた。
カノン様が取っていてくれていた席は6人掛けである。あと3人座れるので、もし相席をお願いされたら、使ってもらえばいいという事だった。代わる代わる、私たちはトレーを取りに行って来た。
「今日のランチはナポリタンね。ここのパスタが普通のものより太くて歯ごたえたあっておいしいのよ」
クリスティーナ様が教えてくれる。白い大きなお皿に載っているパスタを見ると、本当に太かった。10㎜ぐらいあるのではないかと思うほどだった。実際はそこまで太くないらしい。そして3人が揃えば、クリスティーナ様とカノン様は手を胸の前で合わせる。私も首を傾げながら、見よう見まねで手を合わせた。
「これは何? 何か意味があるのでしょうか?」
「レミリア様の国ではこの習慣が無いのですね? これは食べ物となった生命いのちに対して「感謝」や「敬意」の気持ちを伝えるために合掌をするのよ」
これもクリスティーナ様が教えてくれた。
「レミリア様のお国ではこのような習慣は無いのですか?」と向かい側に座ったカノン様が身を乗り出し興味津々で聞いてくる。
「全くないわけではないのです。そういう意味の習慣なら両手を握り合わせます」
「こうですか?」
カノン様が胸の前で両手を握り合わせる。
「そうです」
「国によって違う物ですね」とカノン様は楽しそうに話す。私もこの国の文化に触れられてよかった、とそしてカノン様たちが、あちらの国の文化に興味を持ってくれたら嬉しいな、と思った。
「なんだか、楽しそうだな」
フォークを右手に持つと、後ろからあまり聞きたくない声が聞こえた。
ダリル殿下ともう一人、赤みかかったブラウンの髪にルビーを思わせるような赤色の瞳の男子生徒が、トレーを持って立っていた。
「カノン、相席してもいいかな?」
男子生徒が空いている席に視線を向け、カノン様に聞く。
「はい、此処どうぞ。アルト様」
カノン様は自分の隣の席を勧め、瞳を輝かせている。
男子生徒は「ありがとう」と微笑んでいた。
なんだか、二人だけの世界に入っていないかい?
私が疑惑の目で二人を見ていると、カノン様が私に気付いた。
「あ、レミリア様は初めてですよね。アルト・ジルフォード様です。わたしの婚約者です」
ああ、なるほど。相思相愛の婚約者様ですか。
「初めまして、アルト・ジルフォードです。ダリル殿下の護衛も兼ねております」
「初めまして、アルト様。レミリア・ブロッサムです」
挨拶を交わす彼の表情は、カノン様を見ていたものとは別物である。分かりやすい。彼女しか目に映したくないといった感じだ。
それでも、私は座っての挨拶は失礼になると思い、一度立ち制服のスカートの両端を持ち上げ腰を少し落とす。その姿を見た周りの生徒たちからは、小さな溜息が漏れる。
あら、私の挨拶の仕方が悪かったのかしら?
「そんなにしおらしい挨拶をしてどうするんだ? アルトの気でも引くつもりか?」
ダリル殿下はそう言いながら、私の席の隣に座る。
「はあ!? 何故そうなるのですか?」
この国の王太子殿下はどんな目をしているのかしら?
普通に挨拶しただけなのに、何故、カノン様の婚約者の気を引くことになるのだろうか。
「レミリア様、アルト様は私の婚約者です」
「ええ、先程カノン様から紹介して頂いたので分かっているわ」
心配げな瞳で私を見つめるてくるカノン様。
「大丈夫だよ、カノン。僕は君だけだよ……ダリル殿下の言う事を真に受けないで……」
アルト様はカノン様の髪をそっと撫で、私の方を見て困ったような微笑みをし、私に周りの反応について話してくれた。
「レミリア嬢が勘違いされているようなので言わさせていただきますが、レミリア嬢はとても綺麗な挨拶をなさったので、皆が見惚れていたんだと思いますよ」
「え? そんな褒めていただけるほどの挨拶ではなかったと思うのですが」
そう言うと、はあああ、とダリル殿下は長嘆息を漏らす。
「レミリア嬢は自覚なしか。これでは何人もの男を泣かせてきたか想像が出来るな。だから、婚約者がいないのか?」
はあ!? この王太子殿下は何を言っているのかしら?
私はダリル殿下を軽く睨み付けて、「悪女みたいに言わないでください!」と言い返した。ダリル殿下と関わると段々と淑女らしからぬ行動になりそうで嫌になってくる。
「そう言えばレミリア様には、どうしてご婚約者様がいらっしゃらないのですか?」
あどけない顔でカノン様は聞く。眼鏡の奥に見える瞳は好奇心で一杯だった。
「それは、俺も聞きたいね」
ダリル殿下もカノン様に便乗してニヤリと口角を上げ聞いてきた。その他にも周りからの視線が気になる。そして皆が聞き耳を立てているように感じた。
ここで正直に婚約破棄されたと言っても良いのかしら?
でも、それだと傷物扱いされるのではないかしら?
あ、それなら王太子殿下も私を相手にしないようになるかも?
「私、婚約破棄されましたの!!」
私は、堂々と皆の前で叫んだ。
叫んだ途端、周囲で物音ひとつしない静寂に包まれ、誰も暫くは物音や声を発しない。
え? そんなに静まり返ることなの?
あまりの静けさに、マズイことを言ってしまったほかと冷や汗が流れてくる。そんな中、一番先に声を発したのはクリスティーナ様だった。
「レミリア様は……ね、寝ぼけていらっしゃるの? あなたを婚約破棄するなんて、どんな馬鹿な男よ。そんな人、男じゃないわ! あなたが婚約破棄をしたのでしょう?」
「そうだな。俺ならそんな馬鹿はしない。これほどのご令嬢を手放すなんて。仮に婚約をなしにしてくれと言われたら、レミリア嬢を部屋に閉じ込めるぞ」
ダリル殿下はクリスティーナ様の言葉に相槌を打ちながら、さらりと『閉じ込めるぞ』と怖い事を言った。そんな馬鹿、馬鹿と言っている二人を他所に、カノン様が気遣わしげな表情で訊ねて来る。
「レミリア様は……お辛くなかったのですか? アルト様に婚約破棄されたら私だったら耐えられない……」
「大丈夫だよ、カノン。僕は、そんな馬鹿なことはしない。安心して」
ここでも『馬鹿』と言ったわ。
涙目になっているカノン様をアルト様が彼女の手を握ってあやす。アルト様がカノン様を大切に思っているのが目に見えて分かる。
もう、此処だけお花畑だわ。。
「おいおい、アルト。ここは学院内だ。あまりイチャつくなよ」
ダリル殿下は揶揄うように注意する。先程の殿下の発言で、カノン様が不安になったと言うのに、どの口でそのような事を言うのか、こちらの方が聞いて呆れてしまう。
「何故、レミリア嬢は婚約破棄をされたのだ?」
「王太子殿下は、私のプライベートな事に首を突っ込まないでください。それに、一度、婚約破棄をされている令嬢は、傷物同然です。私に関わらない方が良いと思いますよ」
私は微笑みながら言った。
そう言ってみたけれど「もう私に関わるなー!」と心の中で叫んでいた。
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次回更新は7月4日0時10分頃の更新予定をしております。
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